ブームを牽引する飲食ビジネスが徹底していること ~従業員の成長と仕組みづくりがカギを握る~

牛たん、とろろ、麦飯。良質なタンパク質が豊富なヘルシー素材、牛たんをメインにした定食メニューで人気を博しているのが株式会社ねぎしフードサービスです。創業当初のビジネスモデルを転換してみずからの道を切り拓き、仕組みづくりでファンを増やして地域社会との共生活動にも熱心な同社社長の根岸榮治氏にお話を伺いました。

因(いん)は我にあり

「牛たんといえばねぎし、ねぎしといえば牛たんの店」。消費者の間に強烈なブランドイメージを刻み込み、味やサービスに対しても高い評価を獲得しているのが1969年に創業したねぎしです。

店舗数は現在41店。2020年4月期は65億円の売り上げを達成しました。2011年には、公益財団法人日本生産性本部が、新しい価値を創出し続ける企業に贈る「日本経営品質賞」を受賞し、その卓越した経営の仕組みは業界内外から注目されています。

しかし、創業当初のねぎしは現在の対極にある企業でした。社長の根岸氏は振り返ります。

「磨くべき商品や人材に手間や時間をかけず、独りよがりな商売を営んでいました。経営とはそういうものだと思っていたんです」

福島県いわき市で創業したねぎしは、東京で流行している業態をそっくりそのまま持ち込んで、福島や茨城、宮城で出店するというビジネスモデルでした。未開拓のマーケットに東京の人気店同様のお店を開くと地方でも面白いようにヒットし、1970年代には9業態20店を展開する企業に成長します。

しかし、あるとき事件が起こりました。根岸氏が1号店を見に行くと、シャッターが降りたままで従業員はどこにも見当たらなかったのです。

「店長に電話をしても出ない。まったく訳がわかりませんでしたが、1週間後に事情がつかめました。すぐ50メートル先にまったく同じような店がオープンし、従業員も皆そこで働いていたんです。全員引き抜かれていました」

屋号以外は内装もメニュー構成も、そして働く人もすべてが根岸氏の店とまったく同じでした。つらい、悔しい、恨めしい。負の感情にさいなまれ続けた2カ月後に根岸氏は次のように考えるようになったといいます。

「私はそれまで従業員をモノとして扱ってきたので、向こうもそう思っていたのだと気づきました。まさに『因は我にあり』を痛感した瞬間です。だから給料がよければ簡単に移ってしまった。それまでも材料の持ち出しやただ食いなど、内部不正は数多く起きていましたが、私はそうした問題に目を向けず、また東京から新しい業態を持ってくればいいと考えるだけでした」

もう同じことを繰り返すのはやめよう。次のステージに行けばいい。こうして根岸氏の「ピンチをチャンスに変える」挑戦が始まりました。

 

「午前5時の商売」をスタート

東京の流行や既存のビジネスモデルに頼ることなく、新たな業態を開発したいと考えた根岸氏が着目したのが牛たんです。

「もともと私は1週間に2、3回食べるほどの牛たん好き(笑)。職人に依存しなくていい料理ですし、何よりヘルシー。お酒のつまみではなく定食として出せば、客層を女性にも広げられます。まだ流行してはいないけれど、これから日の光が当たるであろう『午前5時の商売』にポテンシャルを感じました」

後は店の立地です。セミナーで同一地域に同一の業態を出店する「ドミナント戦略」を学んだ根岸氏は迷わずこの方針を採用。集客力がある東京の中でも一番の繁華街である新宿に的を絞りました。

1981年にオープンしたねぎしの1号店は歌舞伎町に立地。2年後には新宿西口に2号店を開きました。2号店はオープン当日から行列が絶えず、ファンの間で「牛たんのねぎし」の知名度が広がっていったのです。

さらに、ねぎしの人気を決定づけたのが3号店の出店でした。

「店舗面積が40坪と広かったので、10坪をセントラルキッチンにして専任者を置き、肉の温度管理を徹底しました。それ以降、安定した品質を提供できるようになりました」

単に「うまく焼け」「おいしく料理しろ」と指示するだけでは仕上がりは安定しません。重要なのはそれが可能になる仕組みをつくること。従業員のロイヤルティー、内部不正が起きない企業風土についても同様です。

「時間はかかりますが、仕組みによって実現するしかありません。経営理念を合唱するだけではなく具現化できる仕組みをつくる。そしてその過程で各自が自己成長をはかり、成長を感じられることが大切です」

 

7つの基本行動で5大商品を提供し続ける

ねぎしは経営理念として「お客さまの喜びを自分の喜びとして親切と奉仕に努める」を掲げています。この理念を形にしていくために、根岸氏は「働く仲間の幸せ」を経営の目的に位置づけ、それがゴールであれば、スタートラインは5つのコミュニケーションになるといいます。あいさつ、ねぎらい、感謝の言葉、「さん」づけと「ハイ」の返事、目を見た上での笑顔、の5つを習慣化させています。

「強いチームをつくるために良好な人間関係は欠かせません。その前提に立てば、7つの基本行動を実施してねぎしの5大商品を提供し続けることは、お客様の喜びと満足を得るために重要なことなのです」

7つの基本行動とは、あいさつや笑顔、目線、身だしなみなどについて定めた行動指針。5大商品とは、Q(クオリティ)、S(サービス)、C(クレンリネス)、H(ホスピタリティ)、A(アトモスフィア)の5つ。5大商品を7つの基本行動で提供できるように、ねぎしでは育成評価制度、牛たんの焼士認定、親切大賞、などさまざまな評価制度やプロジェクトを設けています。さらに、毎月1回、全社員が一堂に会して行う改革改善全体会議を実施。毎年策定している経営指針書は店長が計画から参画しています。すべては、「自分事」として仕事に携わり、自身の成長を肌で感じてもらうための取り組みです。

極めて具体的でわかりやすい仕組みが築かれている理由は、根岸氏が経営理念を実践するのは「思い8割、スキル2割」と考えるからです。

「やはりスキルだけあっても大きな思いがなければ成り立ちません。思いとは、経営理念や経営の目的、仕事の目的を理解してもらうこと。われわれの仕事は、思いとスキルの両方があってこそなのです」

ねぎしでは、日本の農業や地域貢献も経営の目的としてあげ、「この街にねぎしがあってよかった」と思ってもらえる店づくりを追求しています。2012年からはポイ捨てされたゴミの清掃を行う新宿クリーン作戦を開催。さらに、生産者との交流も欠かしません。

「大和芋の生産地である千葉県多古町では毎年10月に行われる収穫祭で牛たんやカルビを提供しています。定食につけているおみ漬けの原料である青菜や青唐辛子も山形県庄内地方の生産者や製造工場とチームを組んでいます。目指すは日本の食料自給率のアップと日本の食文化の継承です」

時間が味方しない商売から、時間が価値を増幅させる商売へ。地域への貢献度を深めながら、ねぎしは今も進化を続けています。

 

お話を聞いた方

株式会社ねぎしフードサービス 代表取締役 根岸 榮治

福島県出身。父親の会社が倒産したのを機に、東京の百貨店を退職して故郷に戻り、飲食店ビジネスを開始。1969年に株式会社ねぎしフードサービスを設立。多業態の飲食店を茨城県、福島県、宮城県の3県にまたがる広範囲に20店舗出店。その後、出店戦略を“同一業態・同一地域”に切り替え、1981年にねぎしの1号店を出店。

 

[編集]株式会社ボルテックス100年企業戦略研究所
[企画・制作協力]東洋経済新報社ブランドスタジオ