地域を巻き込む新たなビジョンを描き出せ ~リーダーは旗を掲げて伝え続ける~

地域創生に向けてさまざまな活動が全国で繰り広げられています。企業誘致、工業団地の建設、大学キャンパスの設置、地域産品や資源の利活用……。企業や学校、自治体など、それぞれにおいてスタンダードな地域創生の取り組みが広まる中、思うような成果が出ていないのが実情です。今、地域創生において本当に必要な要素とは何なのでしょうか。ジャパネットたかたの創業者、髙田明氏にお聞きしました。

一番の地域貢献はビジネス

思わず聞き入ってしまう説得力、丁寧でわかりやすい話しぶり……。小さなカメラ店からスタートを切り、一代で日本を代表する通販企業・ジャパネットたかたに育て上げた髙田明氏の独特の語り口をご記憶の方は今も多いのではないでしょうか。

会社規模が大きくなってもジャパネットたかたは本社を佐世保市から移すことなく活動してきました。今では長崎県内のさまざまなスポーツや文化事業への応援も行っています。ジャパネットたかたといえば長崎、長崎を代表する企業といえばジャパネットたかた。そういっても過言ではないほど地元への貢献度は高く、長崎における同社の存在感は圧倒的です。

しかし、一番の地域貢献は「ビジネスそのもの」だったと髙田氏は語ります。

「カメラ店時代、店を増やす過程で社員数も増え、ラジオショッピングを機に本格的に通信販売業にシフトしてからは雇用もさらに拡大しました。オフィスを建てれば地元の業者さんもそこには関わってきますし、今思えば、会社を成長させて雇用を維持することが一番の地域貢献だったのではないかと思います」

7年前に会社経営を息子の旭人氏に譲り、代表の座を退いた髙田氏は、2017年から約3年間、JリーグのV・ファーレン長崎の社長を務めました。畑違いの分野への転身はV・ファーレン長崎の経営難がきっかけでした。

「長崎にある唯一のプロスポーツチームであるV・ファーレン長崎が経営難に陥ったとき、息子がこのチームを潰してはいけないとジャパネットによる完全子会社化に踏み切り、そのときに『手伝ってよ』といわれ、私が経営を引き受けることにしました。もともとスポーツ観戦は大好きですし、スポーツの持つパワーは地域活性化につながると思ったんです。日本の構造を考えると、企業誘致や移住者を増やすだけでは限界があります。これまでと同じ方法では解決できない。若い人が夢を持てるような何か新しい発想、知恵がいる。それが雇用にもつながると思うのです」

地域における悩みは全国で共通しています。どこも人口減少に悩み、若者の流出に頭を抱えています。解決策として掲げられているのは企業を誘致し、大学を設立し、移住者を増やすこと。しかし、それでは国内でのパイの奪い合いに過ぎません。そこで、髙田氏は新たな挑戦に踏み切りました。ほかとの戦いに臨まず、新しい成長モデルを創ることが必要なのだといいます。

周囲を巻き込もう

経営危機を脱するために髙田氏が行ったこと。それは「泥臭い営業」でした。

「まずはV・ファーレン長崎を知ってもらう必要がある。そう考えてスポンサーを回りました。長崎の企業人にくまなく会い、『地元のサッカーチームを見に来てほしい』と直接営業しました。とにかく会って話しましたね」

ジャパネットたかた躍進の原動力は、まぎれもなく髙田氏の熱量と、モノの本質を伝える力です。V・ファーレン長崎においても髙田氏はその熱量を発揮し、本気の営業活動を繰り広げたのです。

V・ファーレン長崎の競合相手である、相手チームのサポーターとの交流にも力を入れました。

「相手チームをリスペクトし、一緒にサッカー界を盛り上げていく仲間として交流を続けていました。その思いが通じたのか、V・ファーレン長崎が勝ったときでさえ、相手チームのサポーターのところに行ったら、皆さん非常に優しく接してくださり、『今度は勝つからね』と笑顔で歓迎してくれたのです」

V・ファーレン長崎のマスコット「ヴィヴィくん」は、Jリーグのマスコットの中でも人気者。Jリーグファンの投票で選ばれる「Jリーグマスコット総選挙」では昨年、全国1位の座に輝きました。今年も2位の人気を獲得しています。これは、県外に住む長崎出身者やほかのチームのサポーターにも「ヴィヴィくん」のファンが多い証拠。V・ファーレン長崎の存在を発信し続けてきた髙田氏の力は大きいはずです。

「サッカーでもなんでもスポーツは優勝するだけがすべてではないと思うんですよ。みんなでミッションを掲げ、周囲を巻き込みながらそこに一生懸命に向かっていく。それをやり続けることで確実にみんなの意識は変わり、優勝の喜び以上のものを生み出していけると思います」

「伝わった世界」を創り出せ

 巻き込む力の重要性は企業誘致においても同様です。企業が進出すれば確かに雇用は増えますが、効果はそれだけで終わりかねません。

「大事なのは企業のミッションを通じてその土地の人が感動すること。そうすれば地域全体が成長し、企業自体も成長していく。私はできれば産官学と民が連携し、4つの力をうまく活かしながら取り組むのがいいと思いますね」

その具体例が、髙田氏からバトンを引き継いだ新生ジャパネットが2018年から進めている「長崎スタジアムシティプロジェクト」でしょう。これには2つの目標があり、「最高のスポーツ・エンターテインメント環境」を通して人とのつながりや感動を生み出すこと、そして雇用や地域経済の活性化につながるようにビジネスとして成立させることです。この2つを目標に掲げた同プロジェクトは、V・ファーレン長崎の新たな本拠地となるサッカースタジアムを中心に、プロバスケットボールチーム長崎ヴェルカのアリーナやオフィス、商業施設、ホテルなどを開発する民間主導の地域創生モデルです。

「日本新三大夜景にも選ばれた長崎市には稲佐山があります。この山の長崎ロープウェイをスタジアムまで延伸する計画もあるんですよ」

スタジアムとつながることで稲佐山も観光資源として価値が上がり、交流人口や雇用が増え、その結果、市民の楽しみの場も増えます。同プロジェクトはスタジアムを核とした新しい街の創生ともいえるでしょう。髙田氏自身はこのプロジェクトに直接関与はしていませんが、髙田氏の地域創生に寄せる情熱を引き継いだ旭人氏が発案し、具現化したプロジェクトであることは確かです。

現在は自身の会社としてA and Liveを設立し、講演活動などを行っている髙田氏。どうしたら地域を活性化できるのか、地域創生の道筋を知りたいという中小企業経営者に向けてこう語ります。

「ジャパネットを退任後、日本各地の素晴らしいものを紹介する番組で日本全国を回りました。そこでわかったのは地方にはいいモノがたくさんあるということ。でも、それを本当に生かすなら伝え方が大事になってくると思います。『伝えたい』だけでもだめだし、『伝えました』でもだめ。大事なのは『伝わった』かどうかです。『伝わった世界』を創り出すためにはパッション、そしてアクションがセットで必要だと思います」

ジャパネットたかたを成長に導いたのは、まぎれもなく髙田氏のミッションとパッションをともなった熱いアクション。地域創生にもこの3つの要素が必須なのです。

お話を聞いた方

株式会社A and Live 代表取締役 髙田 明

1948年、長崎県生まれ。大学卒業後、機械製造メーカーに入社しヨーロッパ駐在を経験。その後、父親が営む写真店に入社。1986年に分離独立して37歳で「株式会社たかた」を設立、1999年「株式会社ジャパネットたかた」に社名変更。カメラや家電製品の店頭販売から始め、ラジオ通販を機に本格的に通信事業を展開し、テレビ、紙媒体、インターネットなど販路を拡大。2015年の代表取締役退任後は、株式会社A and Liveを設立。2017年よりサッカーJ2クラブチーム「V・ファーレン長崎」の社長に就任し、2020年1月に退任。

 

[編集]一般社団法人100年企業戦略研究所
[企画・制作協力]東洋経済新報社ブランドスタジオ