インパクト評価とインパクト投資~ソーシャルファイナンスとは何か?④

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記事公開日:2020/12/18    最終更新日:2023/05/25

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①「ソーシャルファイナンスとは」
②「ソーシャルIPOとは」
③「インパクト投資とは」

インパクト評価は、自らが表明しただけで実態のない投資が行われるという「インパクト・ウォッシュ」のリスクを回避するだけでなく、投資先事業のビジネス上の事業価値を向上させることにも資するものと考えられています。投資家にも重視されているインパクト評価の動きについて解説します。

インパクト投資の源流と推進組織

インパクト投資という言葉が最初に用いられたのは、2007年にロックフェラー財団が開催した会議の場だとされていますが、インパクト投資の源流は、1971年に欧州でソーシャルビジネスに資金提供する財団が設立されたところにあるとされています。

現在、インパクト投資をグローバルで推進することを目的とした組織としては、GSG(Global Social Impact Investment Steering Group)、GIIN(Global Impact Investing Network)、IMP(Impact Management Project)、SDGs Impactが代表的なものとされています。

GSGは、2013年のG8イギリス・サミットにおいてインパクト投資をグローバルに推進することが決まったのを受け、2015年に発足したグローバルなネットワーク組織です。2013年には、G8サミットにおいて当時の議長国であった当時のイギリスのキャメロン首相の発意により、社会的インパクト投資をグローバルに普及させることを目的に「G8社会的インパクト投資タスクフォース」(その後GSGに移行)が設立されました。イギリスのベンチャーキャピタルの父であり、社会的インパクト投資のパイオニアとして知られているロナルド・コーエン卿が会長を務め、現在では21ヵ国とEU(欧州連合)が加盟しています。

GSGの働きかけによって、2018年のG20ブエノスアイレス・サミットにおいて「インパクト投資」が首脳宣言に掲載され、2019年に日本が議長国を務めたG20大阪サミットで発出した「G20大阪首脳宣言」の中でも、SDGsの達成のために革新的資金調達が担う役割の重要性が首脳レベルで確認されました。また、当時の安倍総理のスピーチにおいても、「日本は、地球規模課題の解決に必要な資金確保のため、社会的インパクト投資や、休眠預金を含む多様で革新的な資金調達の在り方を検討し、国際的議論の先頭に立つ考え」であることが明言されました。

インパクト評価とは

インパクト評価(定性的評価、定量的評価、金銭換算等)については、これまでGIINがインパクト投資の指標カタログとしてIRIS(Impact Reporting and Investment Standards)を作成してきましたが、2019年5月には、インパクト投資家がインパクトを測定・管理し、活用するためのツールセットであるIRIS+(アイリスプラス)を公表しました。これは国際的に活用されている多くのガイドラインやフレームワークを考慮して作られた体系的な測定ツールで、誰でも無料で活用できます。

インパクト評価の実施は、ポジティブなインパクトがあると自らが表明しただけで実態のない投資が行われるという「インパクト・ウォッシュ」のリスクを回避するだけでなく、投資先事業のビジネス上の事業価値を向上させることにも資するものと考えられています。

インパクト評価の重要性

GIIN は世界各国の社会的インパクト投資家を対象に、インパクト評価を実施する理由についてアンケート調査を行っていますが、それによると、「インパクト評価に関するデータにはビジネス上の価値がある。すなわち、ポートフォリオに組み込まれている企業の財務パフォーマンスを向上させ、将来の投資の意思決定に役立つ」という設問に対し、約6割の回答者が「とても重要である」と答えています。

この他に、2016年にイギリスのBridges Fund Management Limitedなどが中心となり、2千以上の組織が関わる形でIMP(The Impact Management Project)というイニシアチブがスタートしました。Bridges Fund Managementは、2002年設立されたインパクト投資に特化したイギリス最大のファンド運用会社で、ソーシャル・インパクト・ボンド(SIB)など、持続可能な成長と社会インパクトを生み出すプロジェクトを対象に、投資、ファンド運営、コンサルティング業務を行っている会社です。

2018年には、企業や投資家向けに知識の共有、協業機会の提供、インパクト評価とインパクトマネジメントに対する共通理解の醸成のために、The IMP networkが設立されました。The IMP networkは、国連開発計画(UNDP)、国際金融公社(IFC)、経済協力開発機構(OECD)、Social Value International(SVI)、the Global Reporting Initiative(GRI)、GIIN、責任投資原則(PRI)、the World Benchmarking Alliance(WBA)、GSGなどのメンバーで構成されています。

SDGs、IMP、IRIS+の関係

SDGインパクトの設立

更に、国連によって採択されたSDGs(Sustainable Development Goals、持続可能な開発目標)達成に向けた効果的な投資を可能にするための基準やツールの提供、ネットワーク機会などを提供するイニシアチブとして、2018年にUNDP(国連開発計画)によりSDGインパクトが設立されました。

SDGインパクトは、SDG達成を目指すビジネスとインパクト投資家の意思決定にSDGsへのインパクトを統合する枠組みとして、SDGインパクト・スタンダードとその認証システムの構築を目指しています。現時点で、プライベート・エクイティ向け、SDGsボンド向け、事業者向けの3つのSDGインパクト・スタンダードが提案されており、今後、認証システムが動き出せば、SDGsビジネスへの投資が一気に加速することが期待されます。

このSDGインパクトのステアリング・グループ(運営委員会)に、日本から委員として参加しているのが、「日本の資本主義の父」渋沢栄一の玄孫で、コモンズ投信会長・シブサワアンドカンパニー代表取締役の渋澤健氏です。

インパクト投資市場~ソーシャルファイナンスとは何か?⑤」に続きます。

[参考文献]
『アニュアルレポート2018』,SIIF
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https://thegiin.org/assets/GIIN_2019%20Annual%20Impact%20Investor%20Survey_web(2020/11/23検索)

著者

堀内 勉

一般社団法人100年企業戦略研究所 所長

多摩大学大学院経営情報学研究科教授、多摩大学社会的投資研究所所長。 東京大学法学部卒業、ハーバード大学法律大学院修士課程修了、Institute for Strategic Leadership(ISL)修了、東京大学 Executive Management Program(EMP)修了。日本興業銀行、ゴールドマンサックス証券、森ビル・インベストメントマネジメント社長、森ビル取締役専務執行役員CFO、アクアイグニス取締役会長などを歴任。 現在、アジアソサエティ・ジャパンセンター理事・アート委員会共同委員長、川村文化芸術振興財団理事、田村学園理事・評議員、麻布学園評議員、社会変革推進財団評議員、READYFOR財団評議員、立命館大学稲盛経営哲学研究センター「人の資本主義」研究プロジェクト・ステアリングコミッティー委員、上智大学「知のエグゼクティブサロン」プログラムコーディネーター、日本CFO協会主任研究委員 他。 主たる研究テーマはソーシャルファイナンス、企業のサステナビリティ、資本主義。趣味は料理、ワイン、アート鑑賞、工芸品収集と読書。読書のジャンルは経済から哲学・思想、歴史、科学、芸術、料理まで多岐にわたり、プロの書評家でもある。著書に、『コーポレートファイナンス実践講座』(中央経済社)、『ファイナンスの哲学』(ダイヤモンド社)、『資本主義はどこに向かうのか』(日本評論社)、『読書大全 世界のビジネスリーダーが読んでいる経済・哲学・歴史・科学200冊』(日経BP)
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