都市と五輪-第6回 東京五輪2020の経済波及効果

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都市政策の第一人者であり、明治大学名誉教授の市川 宏雄氏が執筆したコラムを定期的に掲載していきます。日本国内における「東京」の位置づけと役割、世界の主要都市との比較など、さまざまな角度から東京の魅力を発信していきます。
「都市と五輪」をコラム全体のメインテーマとしてとらえ、各回にてサブテーマを設定しています。全10回にわたりお届けします。

さて、オリンピックを行ったら一体どうなるかという経済波及効果です。オリンピックの開催が決まった2014年に波及効果を計算しています。それまで東京都が出していた経済波及効果はとてもシンプルなものでした。経済波及効果とは「生産誘発額」のことなので、下の表の一番上の部分です。そこで見ていくと、全部の項目を足して、だいたい約3兆円となります。しかし、これは間違っているのです。

東京都の試算はその波及効果が十分に計算されていないと分かったので、私たちの方で新たな作業を行いました。これは森記念財団戦略研究所で行ったものですが、4つの柱があります。まず「五輪開催に伴う直接的な需要の増加」、次に「都市づくり事業の前倒し効果」、3つ目が「新規産業の創出効果」、そして最後が「ドリーム効果」、この4つの柱で見てみたわけです。東京都の方の計算は付加価値額で1.4兆円、生産誘発額が約3.0兆円なのですが、これを計算してみると全く違っていて、粗付加価値額が約9.7兆円になり、これに東京都の算出分も加えると生産誘発額が約19.4兆円になることが分かりました。このあといくつかの研究所や日銀でも試算を行なっていますが、大体20~30兆円になることが分かっています。また経済波及の中には、こうしたことを行うと新規雇用も創出されるということが含まれています。

ポイントは、日本全国の波及効果、それから2012年に行われたロンドンオリンピックです。なぜロンドンかというと、今回の東京は、前回1964年のオリンピックと違ってすでに先進国の首都としてかなり基盤整備が出来上がっている都市だからです。そこで前回のロンドンオリンピックが参考になるということでロンドンを参考にしています。あとは東京都の発表はチャートの左側で、財団がやっているのが右側で、要するに「MICE活発化」やそれに伴う「宿泊施設の建設投資」、「都市づくり」や「新規産業の創出」、「ドリーム効果」などが都の試算には全く入っていないので、これを加えています。

試算の前提条件の1つ目はまず『需要の増加』で、「訪日外国人の増加」、「宿泊施設の建設」、これらは今まさにそうなっています。下は『都市づくり前倒し効果』。要するに2020年開催と決まったので、早めようとすることがたくさんあります。前倒し効果も波及効果に含まれ、これには公的なものと民間のものと両方入っています。いわゆるオリンピック効果です。

それから『新規産業の創出効果』。前回オリンピックでは、ガードマン産業や現金自動預払機(ATM)に後に使われることになるIBMの水泳競技場での計測のシステム、それから60年代後半のファミレスブームなどにつながることになりました。なぜファミレスなのか。実は協議開催当時1日に出すべき食事は約1万人分、それが期間中毎日です。アスリートはいっぱい食べるから2万人分。どんどん、どんどん出さなければなりません。そこでどうしたかというと、当時東京の有名ホテルのコックが皆集まってオリンピック村で調理したのですが、一度には間に合わないから半年前から調理しておいて、温めれば良いだけにしました。つまりフリーズしたモノをたくさん作ったわけです。この仕組みでとにかく毎日しのぎました。この仕組みが生かされて、オリンピック後にファミレスブームが始まり、“一カ所で大量に作っておいて、それをお店に持ってきて提供する”といったノウハウが出来上がりました。ですから、これもオリンピックの効果なのです。「新規雇用の増加」や「外国企業の進出」も起きてくるものと見込まれます。
さらに『ドリーム効果』が一番大きくて、一体、夢を見ると人はどうなるのかというと、だいたい1964年当時の日本全体の一世帯当たりの貯蓄額の年間平均は20万円ですが、10万位、半分くらいモノを買うだろうと予想しました。前回オリンピックの時はカラーテレビが売れました。今回も何か売れるかもしれません。それからスポーツ産業だとか健康産業にお金を使うという波及効果も見込まれます。

以上の試算を総合すると、結果的にいろいろな効果があるわけで、大体20兆円ぐらいの波及効果が見込まれ、これは国内総生産(GDP)の0.3%に相当します。また雇用は100万人を超すと思われます。ただしこれを行うためには、最近では労働市場の働き方改革とか言っていますが、そこら辺の接点が難しくて、やはり新しくどのくらい人を雇えるかが重要です。またさまざまなことを行っていくためには規制緩和が必要不可欠です。こうした条件付きではありますが、大体20兆円程度の効果があるということが分かっています。ですからオリンピックは無駄遣いだと言っている人々は、こうしたことを知らずに言っているわけで、マクロで見れば大変な経済波及効果があると言えるのです。

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著者

市川 宏雄いちかわ ひろお

明治大学名誉教授
帝京大学特任教授
一般社団法人 大都市政策研究機構・理事長
特定非営利活動法人 日本危機管理士機構・理事長

東京の本郷に1947年に生まれ育つ。都立小石川高校、早稲田大学理工学部建築学科、同大学院修士課程、博士課程(都市計画)を経て、カナダ政府留学生として、カナダ都市計画の権威であるウォータールー大学大学院博士課程(都市地域計画)を修了(Ph.D.)。一級建築士でもある。
ODAのシンクタンク(財)国際開発センターなどを経て、富士総合研究所(現、みずほリサーチ&テクノロジー)主席研究員の後、1997年に明治大学政治経済学部教授(都市政策)。都市工学出身でありながら、政治学科で都市政策の講座を担当するという、日本では数少ない学際分野の実践者。2004年から明治大学公共政策大学院ガバナンス研究科長、ならびにこの間に明治大学専門職大学院長、明治大学危機管理研究センター所長を歴任。
現在は、日本危機管理防災学会・会長、日本テレワーク学会・会長、大都市政策研究機構・理事長、日本危機管理士機構・理事長、森記念財団都市戦略研究所・業務理事、町田市・未来づくり研究所長、Steering Board Member of Future of Urban Development and Services Committee, World Economic Forum(ダボス会議)in Switzerlandなど、要職多数。
専門とする政策テーマ: 大都市政策(都心、都市圏)、次世代構想、災害と危機管理、世界都市ランキング、テレワーク、PFI
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