[書籍連動特別連載]第4回 100年企業の数は世界一。企業の成長を支える都市「東京」

本コラムは100年企業戦略研究所所長天崎と明治大学名誉教授の市川先生の共著、『新・東京進化論』(幻冬舎,2019/10/23刊行)の中から抜粋し、天崎の考える「100年企業」と「東京」の切っても切れない関係について、連載コラム形式でご紹介いたします。
第4回では、100年企業の1つである、歌舞伎でお馴染みの松竹についてです。実は、松竹の経営を支えているのは、不動産部門なのです。具体的な数字を交えて見てみましょう。

演劇映画事業の老舗(100年企業)-松竹を支える東京の不動産ビジネス

 -取材協力 松竹株式会社 専務取締役 不動産本部長 武中雅人氏

●営業利益の6割を不動産事業が稼ぎ出す

歌舞伎をはじめとする演劇の製作・興行元であり、日本最古の映画製作・配給会社のひとつである松竹は1895年創業。2019年に創立124年を迎えた、日本を代表する「100年企業」の1社です。1950年代からの小津安二郎監督の名作群、60年代からの「男はつらいよ」シリーズ、80年代からの「釣りバカ」シリーズと、長年にわたって日本映画界を牽引してきました。近年では『おくりびと』(2007年)、『8年越しの花嫁奇跡の実話』(2017年)などのヒット作があります。

とはいえ、とかく浮き沈みのあるのが興行の常。大ヒット作に恵まれることもあれば、莫大な制作費をかけたわりに、興収は上がらない作品もあります。「会社経営」という観点から見れば、これほど将来を見通しにくい業種も珍しいのではないでしょうか。

実は、そんな松竹の経営を支えているのが、不動産部門です。
松竹が所有する不動産は全国に21物件。基本的には、自社が所有する劇場、映画館、撮影所ですが、その一部や跡地ビルをテナントに貸し出していて、そこから大きな家賃収入を得ています。

最新の事業別売上高(2018年3月〜2019年2月)を見てみましょう。

図表1 事業別売上高・営業利益・利益率・原価償却費・EBITDA(松竹グループ)

事業別売上高・営業利益・利益率・原価償却費・EBITDA(松竹グループ)

映像関連事業の売上高は482億6800万円、演劇事業は264億円、不動産事業は105億5500万円。売上高合計の構成比で見ると、不動産事業は全体の12%に過ぎません。

図表2 事業別売上高構成比の推移(松竹グループ)

事業別売上高構成比の推移(松竹グループ)

ところが、営業利益で見ると話は違ってきます。映像関連事業の7億6300万円、演劇事業の19億5000万円に比べ、不動産事業の営業利益は45億9400万円と、全体の59.4%を占めることに。不動産事業は、松竹の営業利益のおよそ6割を稼ぎ出しているのです。その利益率は驚異の44%。映像関連事業の2%、演劇事業の7%をはるかにしのぎます。ちなみに、不動産部門の社員は約40名ですから、社員1人あたり1億円以上稼いでいる計算になります。

●新宿ピカデリーの入る新宿松竹会館から不動産ビジネスを本格的に始動

そんな松竹の収益源である不動産事業ですが、以前はごく細々と不動産管理の仕事だけをしていたようです。2008年、不動産事業等を統括する事業本部長に就任した武中雅人氏(現・専務取締役)によれば、当初は不動産で利益を上げることなど、ほとんど念頭になかったとか。

「私が事業本部長に着任したのは、あくまでも歌舞伎座建て替えを滞りなく進めるため。その時点で建っていた歌舞伎座は1950年竣工の第4期目で、耐震性などの問題があり、2005年頃から建て替えの検討に入っていました。そこで、私が歌舞伎座開発準備室長を兼任し、新しい歌舞伎座の設計者である隈研吾氏や、歌舞伎座周辺の銀座の“旦那衆〞との折衝を任されることになったのです」(武中氏)

ちょうどその頃、新宿松竹会館の建て替えが進行中でした。新宿松竹会館といえば、人気の映画館、新宿ピカデリーの入るビル。新宿の目抜き通りである靖国通りに面し、新宿伊勢丹や紀伊國屋書店が間近に建ち並ぶ、新宿ど真ん中の一等地に位置しています。

その事実に気づいた武中氏と当時の不動産部員は、「この抜群の立地を利用しない手はない」と考えました。どうせビルを建て替えるなら、社外の優良テナントに入ってもらえれば、一定額以上の家賃収入が期待できる、と。こうして新宿松竹会館は松竹で初めて、「不動産ビジネスを念頭に建て替えられたビル」になりました。

とはいえ、自社所有のビルで不動産ビジネスを展開するにあたって、武中氏には2つのこだわりがあったとか。1点目は、劇場はビルの地上1階に入れること。2点目は、松竹のイメージを壊さないテナントに入ってもらうこと。

「劇場を1階に入れるのは、江戸時代から続く“芝居小屋〞のイメージを大切にするためです。芝居小屋は本来“一戸建て〞であるべきで、小屋の前を通ったお客さんに、『面白そう!』と気軽に入ってもらいたいんです。家賃収入を優先するのであれば、本当は1階に商業施設を入れたほうが有利なのですが、私は演劇畑出身なので、どうしてもこの点にこだわりました。
また、松竹は演劇や映画で夢を売るのが仕事なので、どんなテナントさんでもいい、というわけにはいきません。お互いにイメージを高め合えるような、素敵なテナントさんに入ってもらいたいですね」(武中氏)

ちなみに、新宿松竹会館に入ってもらったテナントは、無印良品の旗艦店舗「MUJI新宿」1店のみ。無印良品は全国に400店舗以上を展開していますが、このMUJI新宿は2008年のオープン以来、売上が全国上位。また従業員の働きたい店舗上位だと聞いています。武中氏が述べていた「お互いにイメージを高め合う」戦略が、ここではうまくいっているようです。

●東京に劇場や映画館を所有していたからこそ現在の不動産ビジネスが成立している

新宿松竹会館の建て替え以降、松竹本社の経営方針も変わりました。今まで以上に不動産事業を重視する方向へと、大きく舵が切られたのです。

「新宿松竹会館のリーシングに成功してから、私自身の意識も変わりました。松竹本来の事業は映画と演劇ですが、ショービジネスは収益が不安定でもあるので、収益の安定している不動産部門が会社全体の経営基盤を支えるべきだと。その思いが強くあったので、新たな歌舞伎座タワーの建設が決まったときは、優良テナントをリーシングするため、社長の音頭で全社を挙げて営業プロジェクトチームを発足させたほどです」(武中氏)

実は歌舞伎座タワーの設計にも、武中氏のこだわりが詰まっています。武中氏の考える芝居小屋は一戸建てが基本。そのため新しい歌舞伎座も、見るからに芝居小屋と分かるよう、和風桃山様式で建設されました。しかし、その一方で、銀座の一等地に芝居小屋を1軒建てるだけでは、あまりに不経済です。

そこで武中氏は、設計者・隈研吾氏に無理な注文をつけたんだとか。「正面からは歌舞伎座だけが建っているように見えるよう、歌舞伎座と高層ビルを背後で連結させてほしい」と。実際、現在の歌舞伎座を見ると、地上階建ての歌舞伎座タワーはあくまで借景に見えます。

また、夜間は歌舞伎座だけが月明かりに照らされるよう、背後のタワービルは闇に沈んで見えます。なんでも、タワービルから明かりがもれないよう、歌舞伎座の背面の壁には窓を一つも設けなかったのだとか。

「歌舞伎座の外観を残しつつ、ビル全体の容積率を上げるには、高さ140mのタワービルを建てるしかありませんでした。高層ビルは銀座の景観を損なう恐れもあるので、銀座の旦那衆には、私のほうから何度も出向き、事前にご了解をいただきました」(武中氏)

こうして第5期目となる歌舞伎座と歌舞伎座タワーは2013年2月に竣工。テナントには、アパレル企業やネット配信のドワンゴなど、今をときめく優良企業が数多く入居しています。ドワンゴとはリーシングがご縁で松竹とのコラボ事業が始まり、2016年から、初音ミクが登場する「超歌舞伎」公演をスタートさせています。

「現在、収益の柱になっているのは、歌舞伎座タワーなど東京に所有する9物件。売上全体の8割以上を占めています。弊社は早くから東京に進出し、東京の一等地に不動産を所有していたからこそ、現在の不動産ビジネスが成り立っているのだと思います」(武中氏)

図表3 東京都内に所有する不動産の割合

都内物件所有 総物件 割合
9物件 21物件 42.8%
50,351坪 73,338坪 68.6%

(出典 松竹株式会社ウェブサイト

そんな武中氏の夢は、ニューヨークのブロードウェイ、ロンドンのウエスト・エンドに匹敵する世界的な劇場街を、松竹本社のある東京・東銀座に作り上げること。「これからもなんらかの形で、東京という街の価値を高めていければ……」と、言われています。

まとめ

松竹において不動産事業は重要な収益源となっており、所有する不動産は全国に21物件あります。収益の安定している不動産部門が会社全体の経営基盤を支えており、今後の松竹の発展から目が離せません。
次回は、「東京の不動産をいかに企業投資とするか」についてお届けいたします。

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著者

株式会社ボルテックス 100年企業戦略研究所

1社でも多くの100年企業を創出するために。
ボルテックスのシンクタンク『100年企業戦略研究所』は、長寿企業の事業継続性に関する
調査・分析をはじめ、「東京」の強みやその将来性について独自の研究を続けています。

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