[書籍連動特別連載]第5回 100年企業の数は世界一。企業の成長を支える都市「東京」

本コラムは100年企業戦略研究所所長天崎と明治大学名誉教授の市川先生の共著、『新・東京進化論』(幻冬舎,2019/10/23刊行)の中から抜粋し、天崎の考える「100年企業」と「東京」の切っても切れない関係について、連載コラム形式でご紹介いたします。
第5回では、東京に不動産を所有しようとする各グループの動向について整理していきましょう。

すでに東京をどれだけ企業資産とするかの競争が始まっている

東京に不動産を持っていれば、本業のビジネスが業績不振でもリカバーでき、不動産をベースに新たな事業展開も期待できる。こうした「東京に不動産を持つメリット」に、すでに多くの企業が気づき始めています。いえ、気づき始めたばかりでなく、東京の不動産を取得するために、すでに多くの企業、団体、投資家が行動を起こしています。
「東京の不動産を、いかに自分たちの企業資産として取得するか」。そのため、新・旧勢力入り乱れての競争が始まっています。

私たちの調査によれば、今、東京の不動産物件の購入を積極的に推し進めているのは、①オールドエコノミー・政府系、②ファンドという名の外資系、③財閥系・大手ディベロッパーの3つのグループに分類できます。それぞれの動向を見ていきましょう。

①オールドエコノミー・政府系

わが国に古くからある大手企業、いわゆるオールドエコノミーが、東京の不動産購入に動き始めています。特に動きが目立つのは、電力、ガス、石油などエネルギー関連企業、鉄道、
海運など運輸関連企業、新聞、出版、テレビ局などメディア関連企業です。

たとえば、東急電鉄は東急不動産などグループ企業とともに、渋谷エリアの大規模再開発に乗り出しています。また、本業よりも不動産ビジネスで大きな収益を上げているJR九州は、ホームグラウンドの九州に留まらず、東京でも積極的に不動産を購入し、話題になっています。

政府系の日本郵便(JP)も、丸の内エリアのJPタワー、KITTEの商業的成功により、独自の不動産ビジネスを展開。さらに東京の不動産にも食指を動かしているようです。

そんななか、私が注目しているのは、年金積立金管理運用独立法人(GPIF)です。厚生労働省の所管で、公的年金(厚生年金と国民年金)の積立金の管理・運用を行っており、2017年12月から、不動産投資にも積極的に乗り出しました。2018年3月時点で、不動産投資の残高は1249億円。そのうち国内不動産投資は704億円で、その多くは東京の物件に当てられているようです。

たとえば中央区銀座にある、地上13階/地下6階建て店舗・オフィスの総合ビルGINZASIXや、江東区新砂の物流施設、など。GPIFは、公的年金の運用先として、東京への不動産投資は安全・確実と見ているわけです。私自身、それがベストな選択だと思いますし、今後も東京への不動産投資は拡大していくものと予測しています。

②ファンドという名の外資系

海外投資家も、東京の不動産物件に熱い視線を注いでいます。私も仕事柄、海外の不動産投資家と接触していますが、皆さま一様に「東京の不動産を購入したい。購入したら短期で転売するのではなく、長期に保有したい」と口を揃えて言われます。香港の財閥系やアラブの石油王など、世界の地主を目指す多くの海外投資家が「東京の不動産はまだまだ値上がりする」と見ているようです。

ノルウェーの政府年金基金を運営するノルウェー中央銀行も、2017年12月に、東急不動産と共同で東京の不動産を購入しています。最初に購入したのは、渋谷区表参道の商業ビルなど5棟で、投資額は約1325億円。今後も、東急不動産と共同で買い進めていくようです。

私も同行投資部門の日本の責任者とお話をしましたが、「毎年2000億円を目安に、東京の一等地だけを買い進めたい。購入したら、絶対に売らない」と力強く語られていました。ちなみにこうした、外資系投資家にとっての東京の不動産の魅力は共通して、「抜群の安定性、ニューヨークやロンドンなど他の国際都市に比べての価格の安さ、日本の金融機関の空前の低金利」の3点です。

③財閥系・大手ディベロッパー

これらに加えて、東京の企業資産化を進めているもうひとつのグループがあります。それが、財閥系を中心とした大手ディベロッパーです。現在、東京都心で進められている大規模再開発の大半は、三菱地所、三井不動産、住友不動産など財閥系ディベロッパーと、東急不動産、森ビルなどの大手ディベロッパーの手によるものです。

今日、「大・丸・有」と略称で呼ばれる大手町・丸の内・有楽町エリアは、三菱地所のホームグラウンド。しかし、このエリアの土地は、もともと三菱家の所有ではありませんでした。三菱家が丸の内の土地を取得したのは、今から129年前の、1890年(明治23年)のこと。

当時の明治政府は、富国強兵などの国策で出費がかさみ、財政的にきわめて苦しい状態に陥っていました。そこで政府が打ち出した秘策は、政府の所有する現在の丸の内一帯の土地を民間に高値で売り出すこと。当初、なかなか買い手はつかなかったのですが、そのとき名乗りを上げたのが岩崎弥之助でした。三菱財閥の創始者・岩崎弥太郎の弟で、三菱財閥二代目の総帥にあたる人物です。

岩崎弥之助は、「国家あっての三菱です。お国のために引き受けましょう」と語り、丸の内の土地10万7026坪(約35万m²)を128万円で応札し、購入しました。坪あたり、約12円です。当時、その周辺の地価は2〜3円でしたから、市場価格の4倍もの高値で買い取ったことになります。

このときの岩崎弥之助の投資は、「三菱家をつぶしかねない」と身内からも非難されましたが、結果的に大成功だったといえるでしょう。129年前、128万円で購入した丸の内の土地は、現在の推定価格で10兆4000億円もの価値になっているのですから。

一方、三井財閥の直系である三井不動産も、大手ディベロッパーとして都心部の再開発に取り組んでいます。三井のホームグラウンドは日本橋。もともと、「現金安売り掛け値なし」で知られる越後屋三井呉服店(三越)がルーツであり、ビジネスの基盤は江戸時代から日本橋にありました。

現在、JR東京駅の丸の内側には、丸ビル、新丸ビル、丸の内パークビル、三菱一号館、大手町フィナンシャルシティなど三菱地所の開発したビル群が建ち並び、東京駅の八重洲側から日本橋にかけては、COREDO日本橋、日本橋三井タワー、グラントウキョウノースタワーなど三井不動産の開発したビル群が並んでいます。
いわば、東京駅を挟んで、三菱地所と三井不動産が対峙している形に。そんななか三菱地所は、三井の牙城である日本橋に近い常盤橋街区に斬り込んだ形で、大規模再開発事業を進めており、三井も八重洲側でさらなるプロジェクトを進行中。両者の関係が今後どうなっていくのか、目が離せません。

そんな三菱・三井の対決を横目に見ながら、東京で着実に地歩を築いているのが、同じ財閥系の住友不動産です。住友財閥の発祥はもともと関西であり、住友不動産も東京では後発のディベロッパーでしたが、現在も淡々と東京で不動産を増やし続けています。

住友不動産といえば、新築分譲マンション供給数ランキングで5年連続ナンバーワン(全国&首都圏)の実績が有名ですが、同時に着々と進めているのが、都心のビル建設と賃貸経営です。現在、都内の保有ビル数は220棟超(建設中を含む)。この数字は全ディベロッパー中第1位で、2022年3月までに175万坪、2025年までにはさらに80万坪超増床する計画。

図表1 住友不動産・三菱地所・三井不動産 時価総額推移

住友不動産・三菱地所・三井不動産 時価総額推移

図表1は、三菱地所・三井不動産・住友不動産の時価総額の推移を表したグラフです。先ほど述べたとおり、三菱地所は明治維新をきっかけに巨万の富を築きましたが、東京では外様の住友不動産も、今では三菱地所の時価総額に肉薄するほど業績を伸ばしています。たとえ後発であっても、不動産をコツコツ買い続けていれば、道は開ける。住友不動産のここまでの健闘ぶりは、不動産は値上がり、値下がりにかかわらず、コツコツと地道に買い進んでいくことが大切なことを私たちに教えてくれています。

まとめ

「東京」を企業資産にしようと狙っている、さまざまなグループの動きを概観してみました。ポイントは、どの勢力も長期保有を前提にしていること。専門用語でいえば、「コア型のロングターム・インベスター」ということができます。簡単にいえば、「東京の一等地しか買わない」「買ったら絶対に売らずに、保有し続ける」ということです。

いずれにしても、私たちが過去に経験した不動産バブルとはまったく異次元の、東京の不動産の獲得競争が着々と進行しています。

以上、全5回でお届けしてきました100年企業についてですが、いかがでしたでしょうか。
詳しいことを知りたい方は『新・東京進化論』を是非ご覧ください。

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著者

株式会社ボルテックス 100年企業戦略研究所

1社でも多くの100年企業を創出するために。
ボルテックスのシンクタンク『100年企業戦略研究所』は、長寿企業の事業継続性に関する
調査・分析をはじめ、「東京」の強みやその将来性について独自の研究を続けています。

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