都市と五輪-第7回 東京五輪2020後の経済状況①

都市政策の第一人者であり、明治大学名誉教授の市川 宏雄氏が執筆したコラムを定期的に掲載していきます。日本国内における「東京」の位置づけと役割、世界の主要都市との比較など、さまざまな角度から東京の魅力を発信していきます。
「都市と五輪」をコラム全体のメインテーマとしてとらえ、各回にてサブテーマを設定しています。全10回にわたりお届けします。

戦略的取組とスコアの変化
私が行っている「世界の都市総合力ランキング」ですが、2012年にロンドンがニューヨークを抜いてトップになりました。これはオリンピック効果です。今回のケースでもオリンピックに向けた想定シミュレーションを行っていて、「都市再生の取組み」と「都市再生以外の取組み」の全部で10項目について考察しています。都市再生では、「民間都市再生事業の実施」・「国際会議等の開催のための施設整備」・「文化施設の整備」・「都市内交通インフラ整備」・「外国籍人材の受け入れ態勢の構築」の5項目。都市再生以外には、「観光インバウンド施策の実施」、そして「東京オリンピックの開催」それ自体が含まれます。続いて「スマートエネルギー都市の実現」・「国際交通ネットワークの強化」、最後10番目が「国際競争力強化にむけた経済施策」で、さまざまな規制緩和を行うというもので、これらを実施した場合を段階的にシミュレーションしています。
2020年 政策効果シミュレーション結果
その結果ですが、これは2015年当時のランキングをベースにしていますので、当時まだ東京は4位でしたが2016年から3位へと上がり、こちらはすでに達成されています。それで仮にこの後、オリンピックまでに東京が2位のニューヨークを抜けるかどうかという期待は、結論から言うと、先ほどの1~10の項目のうち9番目の「国際交通ネットワークの強化」、簡単に言えば「規制緩和」ですが、これが実施されれば抜く可能性があるということが分かっています。逆に言えば、規制緩和を行わないとニューヨークを抜くことができないわけで、3位に留まるのか2位に上がれるのかということが、これからの課題になってくるわけです。
五輪前後の開催国の成長率
また重要なのが、オリンピックを開催すると不景気になると言う人がいます。これはよく知らずに言っているわけで、半分しか当たっていません。オリンピックを行った後の国内総生産(GDP)の伸び率をみると、つまり景気がその後どうなったかということですが、オリンピックを行って不景気になった事例は確かにあります。

ソウル、バルセロナ、シドニー、アテネ、北京。これに対し、オリンピックを行って景気が良くなった事例は2つあります。アトランタとロンドンです。この2都市は景気が上がっているわけで、これが重要です。さて東京はどうかと言いますと、前回の東京オリンピックでは30兆円ぐらい使っています。ですからその翌年、凄まじい不景気になりました。要するに、オリンピックで無理にお金を使うと反動がくるわけです。

今回の東京はどうなのかというと、私の答えは比較的簡単で、“ロンドンを見なさい”ということになります。ロンドンと東京とは比較的よく似ていて、ロンドンは当時1~1.5兆円使っています。今回の東京オリンピック費用は2~3兆円と言われていますが、とてもかわいい金額で全く無理をしていません。一部の民間開発は進んでいますが、新しい基盤整備そのものは行われていません。つまり全く無理をしていないので、ロンドン型になるだろうと推察されるわけです。
夏季五輪開催前後の実質GDP成長率の変化(東京五輪以降〜の各国平均)
そういう意味では、オリンピックを開催したら不景気になる、経済が悪くなるというのは実は間違っています。これは実質国内総生産(GDP)成長率の変化データですが、棒グラフと折れ線があって、棒グラフはオリンピックを行った国の1~7年前と1~5年後の経済の動きです。

棒グラフは、翌年は下がるものの、その後は上がります。折れ線は開催していない国。つまり開催していない国はそのまま下がっていますが、オリンピックを開催している国は上がるわけです。ですから東京も何らかの影響があって上がると思われますが、どれくらい上がるのかは今のところ未知数です。
ロンドンオリンピック前後の生産額の推移(2004〜2020)
ロンドンの場合には事前に推計を行っていて、これはイギリス・スポーツ庁のデータですが、赤線がアッパー、青線がロアーで、オリンピックが行われた2012年の4年くらい前のベースに留まるのか、もっと上がるのか、と言うことを試算しています。実際はもっと上がっています。
Olympic related net benefits by region,2004 to 2020
Employment estimates by sector,2004 to 2020

では何が上がるのかというと、地域ではもちろんロンドンが最も上がるわけですが、その内訳で上がるものは、建設業といわゆる小売り・卸しが伸びるのと、あとは専門職業などが増えています。これらが上がることが分かっていて、これは下が第3次産業系、上が第2次産業系ですけれども、建設業と実際には小売り・卸しが増えて商業活動は活発化するわけです。ロンドンはこれを達成しました。ですから結果的にイギリス・スポーツ庁の推計は当たっていたことが分かっています。

 
[人気記事はこちら]
100年企業レポート vol.01 全国編
事業承継税制の上手な利用ポイント
間違いのない後継者の選び方、育て方
企業の不動産財務分析から見えること
オフィスツールと労働生産性の考察

記事一覧に戻る

著者

都市政策専門家市川 宏雄
市川 宏雄

明治大学名誉教授
帝京大学特任教授
一般社団法人 大都市政策研究機構・理事長
特定非営利活動法人 日本危機管理士機構・理事長
東京の本郷に1947年に生まれ育つ。都立小石川高校、早稲田大学理工学部建築学科、同大学院修士課程、博士課程(都市計画)を経て、カナダ政府留学生として、カナダ都市計画の権威であるウォータールー大学大学院博士課程(都市地域計画)を修了(Ph.D.)。一級建築士でもある。
ODAのシンクタンク(財)国際開発センターなどを経て、富士総合研究所(現、みずほ情報総研)主席研究員の後、1997年に明治大学政治経済学部教授(都市政策)。都市工学出身でありながら、政治学科で都市政策の講座を担当するという、日本では数少ない学際分野の実践者。2004年から明治大学公共政策大学院ガバナンス研究科長、ならびにこの間に明治大学専門職大学院長、明治大学危機管理研究センター所長を歴任。
現在は、日本危機管理防災学会・会長、大都市政策研究機構・理事長、日本危機管理士機構・理事長、森記念財団都市戦略研究所・業務理事、町田市・未来づくり研究所長、Steering Board Member of Future of Urban Development and Services Committee, World Economic Forum(ダボス会議)in Switzerlandなど、要職多数。

専門とする政策テーマ:
大都市政策(都心、都市圏)、次世代構想、災害と危機管理、世界都市ランキング、テレワーク、PFI