地域創生のために中小企業を支援する「地域未来投資促進税制」~経営者のための「中小企業税制」の基礎知識[第8回

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「地方創生」は安倍政権が掲げる看板政策のひとつとして2014年からスタートし、「まち・ひと・しごと創生法」などをベースに様々な施策が展開されています。

地域経済を牽引する中小企業を支援する「地域未来投資促進税制」もそのひとつです。今回はこの「地域未来投資促進税制」について見ていきます。

日本、そして地域の現状

安倍政権が「地方創生」を打ち出したのは、少子高齢化と人口減少や東京圏への人口の集中に歯止めがかからないことへの危機感からです。

日本の総人口は2008年をピークに減少局面に入っており、昨年は1年間で初めて自然減が50万人を超えました。これはほぼ鳥取県(約55万人)が消えてしまうのと同じ水準です。

2014年に打ち出された「まち・ひと・しごと創生総合戦略」は、それぞれの地域で住みよい環境を確保し、将来にわたって活力ある日本社会を維持していくことが目的とされ、「長期ビジョン」として2060年に1億人程度の人口を維持することが目指されました。

令和元年に改訂された「総合戦略」では、『将来にわたって「活力ある地域社会」の実現』と、『「東京圏への一極集中」の是正』を共に目指すこととされ、改めて4つの基本目標が設定されています。

1.稼ぐ地域をつくるとともに、安心して働けるようにする

2.地方とのつながりを築き、地方への新しいひとの流れをつくる

3.結婚・出産・子育ての希望をかなえる

4.ひとが集う、安心して暮らすことができる魅力的な地域をつくる

この4つの基本目標のうち、「稼ぐ地域をつくるとともに、安心して働けるようにする」という点において中小企業の活躍が期待され、国でも支援策を整えているところです。

地域活性化を支援する「地域未来投資促進法」

その一環として、2017年に施行されたのが「地域未来投資促進法」です。

これは、地域の特性を生かして、高い付加価値を創出し、地域の事業者に対する相当の経済的効果を及ぼす「地域経済牽引事業」を促進することを目的とする法律です。

具体的には、市町村・都道府県が作成し国が同意した「基本計画」に基づき、民間の事業者などが作成する「地域経済牽引事業計画」を都道府県知事が承認します。そして、情報、財政、税制、許認可などで様々な優遇を行うことになっています。

2017年の同法施行後、 2019年9月までに、全国で合計235の「基本計画」が国の同意を得て、1,849件の「地域経済牽引事業計画」(のべ2,430事業者)が承認されています。

[図表1]「地域未来投資促進法」における地方自治体の「基本計画」の状況

(出所)経済産業省地域経済産業グループ「地域未来投資促進法について」2ページのデータを基に株式会社ボルテックス100年企業戦略研究所が作成

たとえば北海道の一例として、旭川地域(旭川市、東神楽町、東川町)では、豊富な森林資源を背景とした木材・木製品製造業の集積を活用し、家具をはじめとする木製品製造業において海外マーケットへの進出・拡大や製品の生産性および付加価値を高めていくことで、さらなる地域ブランドの確立と質の高い雇用の創出を図ることを「基本計画」としています。

そして、地元の家具メーカーによる高級旭川家具の海外新市場獲得事業を「地域経済牽引事業計画」とし、ホテルなどの大口受注が期待される新規顧客獲得、海外販路開拓の強化、海外有名デザイナーを起用した新商品開発などを通して、輸出額や付加価値の増加を目指すとしています。

地域のなかでの中小企業の在り方とは?

このように「地域経済牽引事業計画」の担い手として、地域の中小企業への期待が高まっています。

もともと中小企業は、国内の企業数の99.7%を占め、雇用の7割、付加価値の過半数を生んでいます。特に大都市以外の大半の地域では、働く人の8割以上が中小企業・小規模企業に勤めているのです。

一方、企業規模別に従業員一人当たり付加価値額(労働生産性)を見ると、中小企業の労働生産性は大企業に比べて低い状況にあります。また、中小企業における設備投資は、維持更新目的では増加しているものの、付加価値の拡大につながる生産・販売能力拡大や製品・サービスの質的向上等に向けた投資は減少傾向にあります。

このように、設備投資など通じた中小企業の活性化は、日本経済の成長に不可欠の条件となっているといえるでしょう。「地域未来投資促進法」もそうした中でできたものです。

税制面からサポートする「地域未来投資促進税制」

「地域未来投資促進法」に関連する支援措置のひとつが「地域未来投資促進税制」です。2017年(平成29年)に創設され、2019年(平成31年)に2年延長されるとともに、内容が拡充されました。

具体的には、青白申告法人で「地域経済牽引事業計画」を承認された事業者が、合計2,000万円以上の新品の機械装置、器具備品、建物および附属設備などを取得し、その事業の用に供した場合(貸付け用を除く)、80億円(2019年3月末までは100億円)を限度に、特別償却または税額控除を受けることができます。ただし、税額控除はその事業年度の法人税額または所得税額の20%までが上限となります。

その他細かい条件がいろいろあるので、詳細は経済産業省および各地の経済産業局などで確認してください。

[図表2]「地域未来投資促進税制」における特別償却および税額控除

(出所)中小企業庁「中小企業税制」令和元年度版28ページのデータを基に株式会社ボルテックス100年企業戦略研究所が作成

また、経済産業省では「地域未来牽引企業」という独自の選定事業も行っており、選定された企業は「地域未来投資促進法」によるものなど、様々な支援を受けることができます。

「地域未来牽引企業」とは、地域経済牽引事業を積極的に展開すること、または今後取り組むことが期待される企業で、2019年11月時点で3,688社が選定されています。

選定は、高い付加価値を創出していること等の企業情報のデータベースに基づく定量的な指標と、自治体や商工団体、金融機関等の関係者からの今後の地域経済への貢献等が期待される企業の推薦という2つの方法により行われます。

これまで選定された企業には、製造業をはじめ、農林水産業、観光、サービス、卸売、地域商社など多様な業種があり、形態も中堅やベンチャー企業などさまざまです。

中小企業の多くは、それぞれの地域を基盤に事業を行っています。地域社会を構成するステークホルダーの一員として、地域の未来を牽引していくため、こうした制度を上手に使ってみてはいかがでしょうか。

著者

株式会社ボルテックス 100年企業戦略研究所

1社でも多くの100年企業を創出するために。
ボルテックスのシンクタンク『100年企業戦略研究所』は、長寿企業の事業継続性に関する調査・分析をはじめ、「東京」の強みやその将来性について独自の研究を続けています。

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