日本食ブームで勝機あり…新規事業で「農業」に参入するには?本業にプラスワンで売上向上「会社の副業」ガイド[第3回]

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知名度の高い企業のなかには、業種の異なる複数の事業を展開したうえで、それぞれを法人化していることがあります。グループの力をまとめることで勢力を増大させ、大企業としての存在感を確かなものにしているのです。

しかし、大企業でなくとも他業種で新規事業を検討する価値は十分にあります。リスク分散や節税に繋がることはもちろん、ビジネスチャンスの増大という相乗効果も期待できるからです。

本連載では、他業種で新規事業を検討する中小企業に向けて、様々な業界の概況や事業開始までのポイントを解説していきます。今回、ご紹介するのは「農業」です。

成長に転じた農業…しかし様々な問題を抱える

農林水産省による「平成30年度 食料・農業・農村白書」によると、農業総産出額は1984年の11兆7000億円をピークに減少。97年に10兆円を割り込み、2001年以降は8兆円台となりました。しかし2015年以降は増加に転じ、2017年には9兆3,000億円で3年連続の増加となりました。また農産物の海外への輸出額も増加傾向にあり、2018年は前年比14.0%増の5,661億円となりました。昨今の世界的な日本食ブームが、農業総産出額や輸出額の増加の要因のひとつになっています。

一方で、国内の農地面積は、緩やかな減少傾向にあります。農林水産省統計部によると、2018年の耕地面積は約442万ヘクタールで、前年に比べ2万4000ヘクタール減少しました。1960年代から見ると、約150万ヘクタールもの農地が日本から消えたことになります。さらに農業就業人口は、2010年には260.6万人でしたが、2019年には168.1万人と、9年で約100万人も減少しています。また農業就業者の高齢化も進み、2019年の平均年齢は67歳となっています。

このように、近年の農業は産業としては成長傾向にあるものの、耕作地や農業従業者の減少、高齢化などの問題を抱えています。

農業に参入する企業が増加中

このような状況のなかで、政府は「企業」を多様化する農業の新たな担い手として位置付けています。

元来、農業は中小企業にとって参入の壁が非常に高い業界でした。農地の利用や権利関係を定めた農地法で企業の参入を厳しく制限し、一般法人が農業へ参入するには水耕栽培やハウス栽培を営むしかありませんでした。

しかし2000 年以降、農地法改正が進められ、企業による農業参入への障壁は低くなりました。現在、一般企業が農地を利用して農業を行うには、「農地リース方式」か「農地所有適格法人の設立」の2つの形態があります。

農地リース方式とは、企業が農家等から借り入れた農地を利用して農業経営を行う方式です。2003 年以前は農地の一般企業へのリースは認められていませんでしたが、2003 年に構造改革特区内の市町村指定の遊休地に限りリース方式による企業参入が認められ、2009 年には遊休地に限らず全国で解禁となりました。

一方、農地所有適格法人の設立とは、農地の所有権を獲得することのできる参入形態です。2015 年に設立要件が緩和されました。

2018年12月末現在、農地を利用して農業経営を行う一般法人は3,286法人にのぼっています。

企業が農業で成功するためのポイント

農業には独特の留意すべきポイントが多くあるため、もし本気で参入を検討するのであれば、充分に検討を重ねておく必要があります。以下に見ていきましょう。

■農業技術は習得が難しい

農業の技術は一朝一夕に習得できるものではありません。「成果を得る」、「人材を育成する」までの間には、ある程度の時間が必要です。「すぐに成果が出るものではない」ということを、あらかじめ理解しておきましょう。

また実地の経験は何よりも貴重ですが、事前に「自治体の窓口に相談する」、「研修を受ける」、「経験者からアドバイスを授かる」などの対策を、できるだけ多く実践しておかなくてはなりません。

■気象条件に左右される

近年は大型台風や集中豪雨などが、世界的に発生しています。こうした異常気象が生産量や農地そのものに与える悪影響は深刻です。また日照不足や害虫の存在なども脅威です。

とはいえ、これらの懸念材料を避けて通ることはできません。農地の気候やこれまでの自然災害などについて入念に調査し、コツコツと対策を講じていくことが、最大のリスク管理法となります。

■周囲の農家と共存が大切

農業は地域に根差した産業なので、近隣の農家と円滑にコミュニケーションを取っていくことが大切です。

道路や水路を共有するため、マナーを守ることはもちろん、自治体の定めた農薬に関するルールなども、きちんと理解しておくことが大切です。また地域の農業組合などにも積極的に参加し、交流を深めることで、貴重なノウハウを伝授してもらえることがあります。自分たちだけが成功すれば良いという考え方では、農業は決して上手くいかないと理解しておきましょう。

■どのような形態で参入するのか

企業が農業に参入すると聞くと、まず「土地を借りたうえで農業生産を行う」というイメージが湧くかもしれません。しかし形態はそれだけに限りません。

田植えや稲刈り、そして農薬散布といった特定の作業だけを請け負う「農作業受託」や、農作物の流通や販売のみを請け負うという参入方法もあるのです。自社の本業を活かしやすい部分から話を進めていくのも、ひとつの手です。いずれ農業生産に乗り出すとしても、間接的な参入段階を経ることで、ノウハウ蓄積や販路開拓がスムーズになる可能性があります。

■どんな農作物を栽培するのか

こちらは、事前に決めておかなくてはならない問題です。一般の販売価格をリサーチすることは大切ですが、将来的な需要や競合の存在、そして販路が確保できるかなど、さまざまな角度から検討する必要があります。もちろん農地の気候に合う農作物であることは、基本条件です。

農業参入までの流れ

農業への参入はどのような流れで進んでいくのでしょうか。農地リース方式の場合を見てみましょう。

■プラン作成

現在の法律で一般法人に許されているのは、農地の貸借のみです。候補となる地域が決定したら、まず自治体へ相談に赴きます。市町村には農地の貸借許可や、遊休農地の調査指導などを行う「農業委員会」が設置されていますので、まずはそこで相談しましょう。

また実際の貸借にあたっては、詳細な事業計画を記載した「参入プラン」の提出が求められます。どのような内容が必要であるかは、相談の際にきちんと確認しておきましょう。そのプランが認められれば、農地の借入れが許可され、「認定農業者」としてスタートを切ることができます。

■事前準備

農業へ参入するにあたり、最も重要なのは事前準備です。スタッフの確保(雇用)や技術習得、そして施設や機械などの設備投資も必要となってきます。特に初期費用がそれなりに嵩むこと、また利益回収は数年先になることを理解しておかなくてはなりません。

また、事前準備に関しては、自治体から援助を受けられることがありますので確認してみると良いでしょう。

ちなみに、農地所有適格法人で参入を目指す場合は、法人として認定を受ける必要があります。要件として「売上の50%超が農業であること」、「構成要員の半数以上が農業従事者であること」、「役員の過半が農業の常時従事者であること」などが挙げられます。新規事業として農業に参入する企業にとって、あまり現実的な内容ではありませんから、まずは貸借から実績を作っていくと良いでしょう。

著者

株式会社ボルテックス 100年企業戦略研究所

1社でも多くの100年企業を創出するために。
ボルテックスのシンクタンク『100年企業戦略研究所』は、長寿企業の事業継続性に関する調査・分析をはじめ、「東京」の強みやその将来性について独自の研究を続けています。

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