GDP比で英国の1/4、米国の1/10…寄付後進国・日本の現状。社会貢献を考える。~中小企業経営者のための「寄付」入門[第1回]

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企業の経営活動のひとつに「社会貢献活動」があります。しかし直接利益に結び付きにくいため、特に中小企業においては、後回しにされがちです。一方で、近年、少子高齢化や貧困・虐待など子どもの問題、地方の衰退……と、山積する社会問題に対して何ができるのか、企業としての姿勢が問われるようになってきました。

本連載では、社会貢献活動のなかで一番身近な「寄付」について解説していきます。今回は日本における寄付の現状を中心にみていきましょう。

なぜ経済的に成功した人々は「寄付」をするのか?

「フィランソロピー(英:Philanthropy)」という言葉があります。これは、ギリシャ語の「愛(Phil)」と「人類(Anthropy)」を合わせた造語で、日本では「博愛主義」とか「慈善」などと訳されますが、現代的には「社会貢献」と訳したほうがピンとくるかもしれません。社会貢献の先進国のアメリカでは、個人や企業による社会貢献活動や行為に対する呼称として定着しています。

このフィランソロピーを実践する人を「フィランソロピスト」と呼びますが、その代名詞として、マイクロソフト社の共同創業者であるビル・ゲイツ氏や、アメリカの著名な投資家であるウォーレン・バフェット氏、同じく著名投資家のジョージ・ソロス氏などが挙げられます。彼らに共通しているのが、巨万の富を得た実業家か投資家であるということです。

彼らは自らの財団を立ち上げ、積極的に社会貢献活動に参加しているのが特徴です。富を築けたのは、自分の努力だけでなく社会の支えがあったからだと考える傾向が強く、自分が受けた恩恵を次世代にもつなげていきたいという強い願いや意志が感じられます。また欧米には「ノブレス‐オブリージュ(仏:noblesse oblige)」という道徳観があるので、身分の高い者や富を成した者は、それに応じて「果たさねばならぬ社会的責任と義務がある」という考え方が身についているといえるでしょう。

日本と欧米の「寄付の規模」は?

一方で日本は欧米に比べて「寄付の後進国」といわれることが多いようです。そこで日本の寄付の規模を数字で見てみましょう。

日本ファンドレイジング協会の発行する『寄付白書2017』によれば、2016年の日本の個人寄付額は7,756億円と推計され、前回調査時の2014年の7,409億円と比較すると4.7%増加しています。

また寄付者数の推定では、2009~2010年時点では年間約3,700万人だったものが、東日本大震災という異常事態のあった2011年には7,026万人と大きく増えました。2016年時点では4,571万人で、15歳以上人口の45.4%が寄付をしていることになります。

寄付を行った人の平均値は27,013円で、中央値は4,000円。日本の個人寄付は、東日本大震災を機に寄付者数・寄付金額ともに増加の傾向にあります。

また平成28年熊本地震で甚大な被害を受けた熊本城は、その復旧・復元のためにたくさんの支援が集まりました。熊本城公式ホームページによれば、震災直後に募集開始した「熊本城災害復旧支援金」と2016年11月に募集開始した「復興城主」制度を合わせて、40億円近い寄付金が集まったそうです。

7,756億円と推計される日本の個人寄付金額は、名目GDP比率でいうと0.14%という水準。米国の2016年の個人寄付総額は2,818.6億ドル、日本円換算すると約30兆6,664億円 (1ドル=108.8円換算)、名目GDP比率でいうと日本の10倍の1.44%という水準になります。英国の2016年の個人寄付総額は97億ポンドで、日本円に換算すると約1兆5,035億円(1ポンド=155円換算)、名目GDP比率でいうと日本の3.9倍の0.54%になります。

社会問題先進国・日本では「寄付」の重要性が増していく

統計上は、日本における寄付の規模は欧米と比較して明らかに小さいことがわかりました。日本では寄付、社会貢献活動というと高尚なイメージがあり、自分とは無関係と考える人が多くいます。また、寄付できる=金銭的に余裕がある、ということもあり、「大金を稼ぐことはよくないことだ」と考える風潮もあるため、寄付はしていても批判をされないために隠しておくということもあるかもしれません。

しかし、「浪花の八百八橋(はっぴゃくやばし)」と言われる大阪・堺の町中にある橋は、財を成した商人たちの寄付ですべてが造られています。「頼母子講(たのもしこう)」や「無尽(むじん)」と呼ばれる相互扶助の仕組みは、昔から存在していました。

そして昨今、「社会課題先進国」と呼ばれる日本でも、フィランソロピストたちの活動が活発化してきました。国民性などに起因し、欧米とくらべて「寄付の後進国」といわれる日本ですが、見方を変えると「伸びしろがある」ということです。

日本には、寄付という支援を必要とする社会課題がたくさんあります。高齢者福祉、医療、子どもの貧困や虐待の問題、地方の衰退や外国人に関連する問題、そして昨今ではコロナ禍による医療従事者など、あげればきりがありません。しかしながら、日本の財政問題は深刻さを増し、税金では賄いきれないといわれています。

そこで登場するのが、民間の公的サービスの担い手、社会課題解決の担い手である、民間非営利団体(NPO)であり、その仕組みを支えている財源の最も重要なものが寄付です。つまり、寄付はこれからの日本社会に欠かせない重要なリソースであるといえるでしょう。

強制的に徴収される公的な財源である「税」が明らかに不足している現状で、任意かつ善意に支えられた公的財源となる「寄付」は、これから時代、ますますその重要性を増していくと考えられています。

著者

宮本 聡

ファンドレイジングアドバイザー

青山学院大学大学院 国際マネジメント研究科卒業。1972年静岡県(西伊豆)生まれ。 鉄道会社、地域金融機関、不動産仲介会社、外資系金融経済情報会社、中間支援NPO、マンションディベロッパー、クラウドファンディング運営会社など、様々な業種での勤務経験を持つ営業コンサルタント/ファンドレイジングアドバイザー。主に中小企業やNPO/NGOの経営や営業の支援を行うコンサルタントとして活動する傍ら、海外不動産の販売やファイナンシャルプランナーとして事業承継や資産活用の助言も行う。
<保有資格>経営管理修士(MBA)、認定ファンドレイザー、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、宅地建物取引士、不動産コンサルティングマスター、一種証券外務員、等々。

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