withコロナ時代の中小企業に求められる経営戦略
〜中小企業経営者のための注目の経営トピックス[第10回]

新型コロナウィルスの大流行で、世界中の経済が大きな打撃を受けています。特に中小企業は今後の進退に関わる、重要な局面を迎えているのではないでしょうか。

メディアでも注目されている企業経営に関するトピックスを解説する本連載。今回はコロナ禍における中小企業経営の現状を探ると共に、経営戦略として求められる新たな一手の可能性を模索していきます。

コロナ禍で中小企業の倒産件数が低くなったワケ

コロナ禍は、まったく予想できなかった角度から2020年の経済を襲い、深刻な影響を与えました。商工組合中央金庫や日本政策金融公庫などの政府系金融機関は2020年1月末、全国に相談窓口を設置。3月後半には1日あたりの相談件数が2万件を超え、4月1日時点で累計は約30万件にまで上昇しました。

このような状況を鑑みると、いったいどれだけの企業が倒産に追い込まれたのだろうと考えるでしょう。しかし実際には意外な結果が導き出されています。

帝国データバンクが行った『2020年11月における負債1,000万円以上の法的整理についての集計』によると、全国の倒産件数は563件。前年の同月に比べ161件の減少、負債総額も27%以上の減少が見られました。この数値は2000年以降の同月値の中でも最小です。さらに2020年は、11月まで4ヶ月連続で前年同月を下回っているのです。

もちろんこの結果は「経済が急速に立ち直った」ことにより導き出されたわけではありません。政府による給付金や、金融機関によるコロナ対応融資を活用したことで、一部の企業が倒産を免れたのです。数値が過去20年間で最良を記録したのは、何とも皮肉なことかもしれません。

コロナ禍で浮き彫りになった中小企業の課題

中小企業庁が2018年に発表した「中小企業の企業数・事業所数」によると、国内の中小企業数は、357.8万社に及びます。対して大企業は約1万社程度。日本企業全体の99.7%は、中小企業で構成されています。

コロナ禍に見舞われた2020年、政府は持続化給付金や家賃支援給付金、そして雇用調整助成金や補助事業支援(新製品開発やテレワーク導入)など、多彩な中小企業サポートを提供してきました。

一方、2020年9月に発足した菅政権は、これまで税制上の優遇措置や、補助金を受けてきた中小企業の定義を刷新し、再編や経営統合を促していく方針を明らかにしています。特に課題として「中小企業の生産性向上」をあげています。

中小企業庁が発表した「中小企業白書2020」によると、大企業の労働生産性はリーマンショック後に緩やかに上昇しているのに対し、中小企業は業種に関わらず、長らく横ばいの傾向を示しています。このままでは、大企業との格差が大きく広がっていくことになりそうです。

[図表1]企業規模別従業員一人当たり付加価値額(労働生産性)の推移

企業規模別従業員一人当たり付加価値額(労働生産性)の推移

(出所)中小企業庁「中小企業白書2020」を基に株式会社ボルテックス100年企業戦略研究所が作成
※1.ここでいう⼤企業とは資本⾦10億円以上、中⼩企業とは資本⾦1億円未満の企業とする
※2.平成18年度調査以前は付加価値額=営業純益(営業利益−⽀払利息等)+役員給与+従業員給与+福利厚⽣費+⽀払利息等 +動産・不動産賃借料+租税公課とし、平成19年度調査以降はこれに役員賞与、及び従業員賞与を加えたものとする

2020年はコロナ禍という極めて深刻な危機に見舞われたため、中小企業への支援がありました。しかしコロナの脅威が去った後、国際競争力の維持向上が急務とされている日本において、中小企業は改めて経営改革を迫られる可能性があります。

労働生産性向上を目指し、中小企業ができること

上記のような状況の中で、中小企業経営者は自社事業を見直し、労働生産性の向上を目指していく必要があります。では具体的に、どのような施策を実施していくべきなのでしょうか?

■働き方改革の積極的な実施
2020年前半に新型コロナウィルスの感染者数抑制を目指した緊急事態宣言が発令され、企業にもテレワークが推奨されました。東京都が実施した2020年6月時点の調査によると、従業員数300人以上の企業の約8割は、テレワークを導入するに至っています。

しかし中小企業、特に従業員数100人以下の企業は、半数以上が導入を見送っています。このようなデータからも、中小企業のデジタル化への対応の遅れが見て取れます。

テレワークは、新型コロナウィルスの流行以前から『働き方改革』の一策として政府に推奨されてきました。その理由としてあげられるのは、まさに労働生産性の向上です。

残業や休日出勤などの長時間労働で従業員を縛る企業からは、優秀な人材が離職します。しかし柔軟な働き方を提案できる企業には多様な才能が集まり、事業継続性を確保できるのです。またテレワークやサテライトオフィス導入を上手に機能させれば、コスト削減を実現することも可能です(関連記事:『コロナ禍で一気に拡大した「テレワーク」今後の可能性』)。

■M&Aで活路を見出す
中小企業庁が4月に発表した『2020年版中小企業白書』によると、事業承継は「親族内承継」というかたちが最も多く、全体の約35%にも及びました。しかし中小企業が事業継続の危機に直面している現在においては、合併や事業譲渡の可能性も視野に入れていく必要があります。

近年はオンラインM&Aマッチングサービスが多数登場しており、以前よりもずっと現実的に、合併や事業譲渡を考えることが可能な時代になっています。他社との統合で活路を見出すのも一案です。

■自前主義からの積極的な脱却も必要
社外へ目を向け、人材、技術、そしてノウハウを求める、あるいは発信する「オープンイノベーション」も、企業の付加価値額向上には重要な一手となります。自前にこだわらず、社外のアイデアや技術、才能と共同で新商品開発を進めていく、大学などの研究機関との連携や他社との事業提携をイメージすればわかりやすいでしょう。

自社がこれまで培ってきた独自の技術やノウハウを活かし、外部連携で新たな事業を創出していきます。その先には「生産性の向上」も期待できます。

 

コロナ禍という未曽有の危機は、グローバル化とデジタル化という中長期的な構造変化に対応しつつ、再成長を実現するためのチャンスの時でもあると言えるでしょう。今こそ「攻め」の取り組みが求められているのかもしれません。

著者

株式会社ボルテックス 100年企業戦略研究所

1社でも多くの100年企業を創出するために。
ボルテックスのシンクタンク『100年企業戦略研究所』は、長寿企業の事業継続性に関する
調査・分析をはじめ、「東京」の強みやその将来性について独自の研究を続けています。

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