2021年、中小企業経営者に求められる資質が激変する
~アフターコロナを見据え、中小企業経営者は何をすべきか【第1回】

コロナ禍の出口が見えない中、持続化給付金の申請は2021年2月15日に締め切られました。このままでは、危機に直面する中小企業がさらに増えると見込まれています。しかし廃業を踏みとどまり、再生の道を模索する企業も数多くあります。

いつまで続くか分からないコロナ禍、また収束後の先行きも見通せない中、中小企業が生き残るためにやるべきこととは?ピンチをチャンスに変える術とは?企業再生のスペシャリストとして活躍する坂本利秋氏に話を伺いました。

コロナ以前から存在していた中小企業の慢性的不調

国内企業の9割以上は、中小企業で占められているため、その隆盛は日本経済そのものの行方を大きく左右します。2020年は新型コロナウイルスの流行で、大きな打撃を受けた中小企業が続出しました。しかしコロナ禍以前から、構造的な問題を抱えていた中小企業が数多く存在していたと、坂本氏は指摘します。

坂本 「大別すると、2つの大きな問題があります。ひとつめは、慢性的な赤字。国内の中小企業の6割強は、赤字を抱えたまま経営を続けています。具体的な数字で表すと、国内にある約358万の中小企業のうち、約230万社が赤字なのです。それでも経営が続けられるのは、国や金融機関の方針ゆえ。『いまのところ何とか回っているのであれば、敢えて潰すことはしない』という社会的な正義が、まかり通ってきたのです」

融資を受け、何とか苦境を乗り切った中小企業が、赤字経営を続けられる状況の裏には、どのようなからくりがあるのでしょうか。

坂本 「もちろん金融機関は2年以上赤字が続いている企業に、基本的には新規融資はしません。その代わり返済猶予を柔軟に適用するのが、彼らのやり方でした。企業は借りたお金で赤字を補てんし『決算上は赤字でも、資金繰り上はトントン』という状況を作り出します。そして返済を引き延ばしながら、出口の見えない自転車操業を続けているのです」

こうした『慢性赤字』のほかに、もうひとつ重大な問題があります。それは『後継者不在』であると、坂本氏は言います。

坂本 「2020年のデータによると、国内中小企業全体の65%以上が、後継者不在問題を抱えています。現在60~70代で引退も間近という、団塊世代の経営者が主導する企業においても、約半数が後継者不在という状況なのです。『いまのところ黒字経営だが、後継者がいない』という理由で廃業を選ぶ企業も多く、その理由として『後継者はいないがM&Aはしたくない』、『M&A後に業績悪化した場合、新オーナーから損害賠償されるのではないか』という声が挙がっています」

国内企業では、親族継承の割合が最も高くなっています。経営者の親族が企業を継承したがらないのは、なぜなのでしょうか。

坂本 「後継者候補に筆頭に挙がる経営者の子息たちは、現在40代ぐらい。高学歴で大企業に就職し、それなりの役職に就いています。そのポジションを捨ててまで中小企業の経営者になりたがらない、多額の借入の連帯保証人となるのはごめんこうむりたいという事情があるようですね。中には、後継者不在と慢性赤字をダブルで抱えている経営者もいらっしゃいます。『息子は継承したがらないし、自分の代で作った借金を背負わせたくもない』と考え、悩みながら経営を続けているのです」

コロナ直撃でさらに悪化した中小企業経営

2020年以前から、上記の構造的問題を抱えていた多くの中小企業へ、新型コロナウイルスの猛威が直撃しました。坂本氏は現状を、どう見ているのでしょうか。

坂本 「赤字と後継者不在問題は依然残っており、悪化しているという印象です。すでに赤字を抱えていた企業の状況はより悪くなっていますし、これまで何とか黒字経営していた中小企業も、いよいよ赤字化を避けられなくなりつつあります。結果として、中小企業全体の80~90%が赤字経営にという状況が表面化してきそうです」

コロナ禍を受け、活発化した政府の資金繰り支援策は、どのような影響を与えたのでしょうか。

坂本 「東京商工リサーチの調査によると、2020年の全国企業倒産件数は約7,800件で、2000年以降で2番目の低水準でした。しかし、手放しで喜ぶことはできません。条件の良い融資や持続化給付金などのおかげで、なんとか資金が回っているという状況なのです。そもそも毎年倒産する企業の中には、零細企業が多く含まれています。持続化給付金は、売上1億円の企業にも、100億円の企業にも一律で200万円支給されましたから、零細企業への給付の方がより効果が大きかったと言えます。零細企業の倒産件数の減少が、全体倒産件数の低水準に大きく寄与しています」

2020年を総括すると、企業の本業の収益を示す営業損益が悪化しつつも、補助金等の営業外損益、新型コロナ関連の融資によりどうにか資金繰りが回っていたといういびつな状況だったといえます。

2021年以降も生き残る中小企業と、その経営者の特徴

コロナ禍に翻弄された2020年、そして迎えた2021年。わずか1年の間に中小企業を取り巻く状況は激変し、経営者に求められる資質も大きく変化すると、坂本氏は見ています。その詳細についてお話を伺ってみましょう。

坂本 「2020年、中小企業の経営者に求められていたのは『情報収集能力と実行スピード』でした。企業を潰さないために、融資や給付金などあらゆる手段を活用して、資金繰りに励む必要があったのです。一例として、私がお付き合いをさせていただいている企業の例を挙げましょう。同社は飲食店を経営しているのですが、Go To トラベル申込開始日の初日に、申請を済ませました。キャンペーン当初は『消費者がクーポン券をもらっても、使えるお店が少ない』という状況だったので、お店は大繁盛。営業利益は過去最高を記録しました。2020年はこうしたスピーディな対応が、中小企業の明暗を分けたのです」

しかし2021年は、同じやり方では乗り切れないと坂本氏は断言します。

坂本 「2021年に中小企業に与えられたテーマは、ずばり『再生』です。経営者には、このテーマに柔軟に対応する資質が、求められることになるでしょう。助成金や給付金など、コロナ禍における資金繰り確保のみを目的とする中小企業支援はいったん締め切られました。今後、政府の支援は『黒字化の見込めない既存のビジネスモデルを変えましょう、事業を再構築しましょう。そのための支援なら、惜しみません』という方向へシフトしていきます」

政府が昨年12月に閣議決定した『令和2年度 第3次補正予算案』の目玉は資金繰り確保ではなく、再生支援。『事業再構築補助金』を、その中核に据えています。予算枠はかなり大きく1兆1,000億円となっており、1社あたり100万円~1億円程度の補助が受けられる見通し。仮に1社100万円の補助を行うとすると、実に国内中小企業の約3分の1を網羅する、広範囲の補助金となります。しかし、経済産業省が示す『事業再構築指針』に沿った事業計画を提示できない限り、この補助金の申請対象とはなりえません。

坂本 「これまでのビジネスモデルが通用しないのであれば、『事業再構築補助金』を使って何ができるのかを考え、実行する…、これが中小企業の経営者にとって、今年一番のテーマになると思います。単なる資金繰りの支援はもうありませんから、企業再生の波に乗れない中小企業は、切り捨てられることになります。内閣の発足時に、菅首相は中小企業の生産性の低さを問題視していました。『事業再構築補助金』は政府の方針に合致した、新しい支援策と言えるのです」

「変われない会社は退場を。でも変わることを望む会社は、支援します」。そんな最後通告が響き渡り始めた、2021年。中小企業の経営者は、自社の進退をかけた決断を迫られています。

 

「アフターコロナを見据え、中小企業経営者は何をすべきなのか」を考える、本連載。次回、コロナ禍で危機に直面する中小企業が「企業再生」を果たすために必要な条件を伺っていきます。

 

お話を聞いた方

認定事業再生士(CTP)/合同会社スラッシュ 代表坂本 利秋
坂本 利秋

東京大学大学院工学系研究科卒業。日商岩井(現双日)にて、数千億円の資産運用を経験。その後、ITベンチャー企業に転身。国内初SNS企業の財務執行役員に就任し、その後上場企業に売却、30代で三井物産子会社の取締役に就任し企業成長に貢献、グループ売上高1,000億円の上場IT企業の経営管理部長として企業再生を行う。
中小企業の経営者のためだけに徹底的に支援したいという思いから、2009年より中小企業の売却、事業再生支援を行う。中小企業の再生人材不足が危機的な状況にあることから、2020年より企業再生人材の養成講座を開講する。