不動産投資の新常識~長期的発展目指す「ESG投資」のインパクト

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環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の3つの観点から投資先を判断する「ESG投資」への関心が年々高まっています。不動産においてもグリーンビルディング(環境不動産)やZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)が高い評価を受ける中、ESG投資は長期的な企業成長のために避けて通れないものになっています。ESG投資とは何か、その成り立ちと不動産投資との関係を解説していきます。

不動産ESG投資における「選別」「関与」「統合」とは

環境に配慮したグリーンビルディングという考え方は、イギリスやアメリカでは1990年代から、日本でも2000年代前半からありました。ドイツ証券勤務時代の2000年代半ば、再エネファンドや排出権取引などを統括する立場になり、環境が次のビジネスになりそうだと感じて2010年に会社を立ち上げました。ただし、当時はまだ環境問題が投資に結びつくとは考えられていませんでした。

それが2015年、運用総額156兆円以上という世界最大の年金運用機関であるGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)がPRI(国連の責任投資原則)に署名したことによって様相が一変し、「ESG投資」という言葉や概念が一気に広まりました。

日本のマーケットではPRIはESG投資と同義と考えられています。PRIが設立された2006年以降、2015年までの日本のPRIの署名数は約30機関でしたが、今では約90機関が参加しています。不動産の運用機関も2015年までほとんど参加はありませんでしたが、現在は十数機関が参加しています。それだけGPIFの影響力が大きかったということです。

不動産会社にとって、ESG投資の入り口となるのは、GRESB(グレスビー=グローバル不動産サステナビリティ・ベンチマーク)というESG評価です。GRESBは、不動産会社・ファンドのESG配慮を測る年次のベンチマーク評価で、PRIを主導した欧州の主要年金基金グループを中心に2009年に創設されました。投資先の選定や投資先との対話にGRESBデータを活用する「投資家メンバー」の加盟数は120機関以上に上り、日本からも日本政策投資銀行等のほか、GPIFが昨年3月に加盟しています。

また、GPIFはインデックス投資を行いますから、当初はJ-REITのような上場不動産会社しか対象になりませんでしたが、2018年からは不動産やインフラなど株式以外のアセットクラスでもESGを考慮することが公表されました。その影響でこの1、2年は私募REITや私募ファンドまでがGRESBに参加する流れが起きています。

不動産ESG投資の手法は、大きく「選別」「関与」「統合」に3つに分けられます。

「選別(スクリーニング)」は単純にいうと、環境や社会に良いものを選び、悪いものは選ばないということです。ポジティブスクリーニングは環境不動産を投資先として選んだり、開発することで、ネガティブスクリーニングは逆に環境性能が悪いものへの投資を避けることです。

「関与(エンゲージメント)」は、株式投資においては、投資家が投資先の企業に対して建設的な対話を行い、会社の経営をいい方向に仕向けていくことを指しますが、不動産投資では省エネや健康快適性という観点で改修・運用することを意味します。具体的には省エネ改修やグリーンリースがあげられます。

「統合(インテグレーション)」は、不動産投資運用のプロセスのあらゆる場面でESGの観点を取り入れていくことです。特に最初の投資判断において、儲かるかだけではなく、ESGの要素を取り入れている会社や物件に積極的に投資していくことが大切です。その指標としてGRESBが使われることになります。

補助金制度により一気に普及した改修をともなうグリーンリース

パリ協定をきっかけに、各国で温室効果ガス排出量規制などの強化が進んでいます。その影響は当然、不動産にも及びます。日本では菅政権が2050年までに温室効果ガスを実質ゼロにする「カーボンニュートラル」を宣言しました。それが故に、いま排出量が非常に大きい資産は座礁資産*になるという問題が起きています。

*座礁資産…市場環境や社会環境の変化により、価値が大きく毀損する資産のこと

海外の規制状況を見ると、イギリスではEPCという省エネ性能の7段階の評価のうち、下から2段階に入った建物は3年前から賃貸が禁じられました。オランダにも似たような規制が2023年1月以降に施行予定で、オフィスに関しては一定評価以下の物件は使用が禁止されます。ヨーロッパ以外でも、オーストラリアや民主党が優勢のアメリカの州や市では罰則をともなった政策が行われています。

海外でこうした厳しい施策が打ち出されるのは、建築物に省エネ性能評価書が義務化されているからです。そのため一定評価以上の物件にはインセンティブを、一定評価以下には罰則を与えることができるわけです。

日本はどうでしょうか。日本にもBELSという建築物の省エネ性能評価書がありますがあまり普及していません。というのもBELSは設計に基づく性能値なので、運用面でエネルギー消費量を減らしても反映されないからです。日本でもまずは毎年エネルギーをどれだけ使ったかの実績値に基づく基準をしっかり作って、建てる時だけではなく売買や賃貸契約の際にも必ず相手方に見せるという政策を取り入れる必要があるでしょう。

これまで日本は基本的にいいものにインセンティブを付ける誘導策が多く、悪いものに罰則を与えることはあまり行われてきませんでした。ただ、CO2を排出した量に応じて、企業に金銭負担してもらう「カーボンプライシング」はさまざまな業界で導入されるでしょう。CO2排出量の多い不動産は多額のカーボンプライスを払わなくてはなりませんから、日本も罰則を与える方向に進んでいることは間違いありません。

オーナーとテナントによる「グリーンリース」も、昨年まで環境省や国交省がグリーンリース補助金を出していたことで急増しました。グリーンリースは大きく2種類あり、1つは改修をともなうもの、もう1つは運用面によるものです。

日本ではグリーンリースは改修をともなうものと理解されていますが、グリーンリース発祥の地であるイギリスやオーストラリアでは運用面を含めて幅広く捉えられています。

改修をともなうものは、例えばテナント専用部の照明をLEDに変えた場合、費用はオーナー持ちにも関わらず改修後に電気代が下がったメリットはテナントが得ることになります。そのインセンティブの不一致が、特に中小ビルで改修が進まない原因になっていました。

そこで改修後の電気代が下がったメリットの一部をグリーンリース料などという名目でテナントからオーナーに還元するという考え方が生まれました。それによってテナントはグリーンリース料を払っても改修前より電気代が安くなり、オーナーは通常の回収投資よりもグリーンリース料をもらうことで投資回収期間が短くなるわけです。

運用面におけるグリーンリースは、消費量を把握して、お互いが削減に向けた協力をしていく取り組みです。オーナーがグリーンビル認証を取得したいという場合にテナントが協力することもありますし、エネルギー消費データの取得から委員会を共同で立ち上げて話し合って減らしていくというソフトなものもグリーンリースと呼んでいます。

国内でもさまざまな政策により、不動産ESG投資の促進を図っています。企業はそれらを上手く活用することで、長期的な視点で企業の価値を向上させるでしょう。

お話を聞いた方

堀江 隆一 氏

CSRデザイン環境投資顧問株式会社 代表取締役社長

1964年東京都生まれ。1987年東京大学法学部卒、カリフォルニア大学バークレー校経営大学院修士 (MBA)。日本興業銀行、メリルリンチ証券、ドイツ証券に勤務。2010年に環境不動産に関する投資助言を主業とするCSRデザイン環境投資顧問株式会社を共同で設立し、不動産投資・運用における環境面での助言業務や調査研究業務等を行う。国土交通省「ESG不動産投資のあり方検討会」委員、責任投資原則(PRI)日本ネットワーク「不動産ワーキンググループ」議長(2013年度~2019年度)など公職多数。

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