資本主義再構築の可能性について ~レベッカ・ヘンダーソン『資本主義の再構築―公正で持続可能な世界をどう実現するか』

ハーバード・ビジネススクール(HBS)というと、金融資本主義や新自由主義の権化と思われている方も多いのではないでしょうか。世界中のビジネススクールがそのモデルとし、目標としているHBSですが、実は2008年のリーマンショックを機に、その反省の上に立って大きく方向転換を果たしているのです。

この点について、HBS日本リサーチセンターに勤務していた、『ハーバードはなぜ日本の東北で学ぶのか──世界トップのビジネススクールが伝えたいビジネスの本質』(ダイヤモンド社)の著者である山崎繭加さんは、次のように語っています。
「ハーバード・ビジネス・スクールは、ハーバード大学に1908年に設立された世界最古のビジネススクールのひとつです。“Educate Leaders Who Make a Difference in the World(世界を変えるリーダーを育成する)”を理念にビジネスエリートを養成してきましたが、金融危機の原因となった金融業界にも多くのHBSの卒業生が行っていました。当時のアメリカは好景気に沸き、HBSの学生たちはこぞって金融業界を目指していたんですね。HBSの授業といえば、組織や企業が抱える具体的な課題について書かれたケースをもとに、教室で議論しながら学ぶ『ケース・メソッド』が有名です。それこそ2006年頃は、マーケティングの教授まで『いまの学生はファンドや投資銀行のケースじゃないと読まない』と言うほど金融がもてはやされていたのを覚えています。」(注1)

しかし、リーマンショックがちょうどHBS設立100周年に重なったこともあり、HBSのファカルティでは、「自分たちのリーダー教育は本当に正しかったのだろうか?」という反省が徹底的になされました。

そして、現在のHBSの姿は、世間が先入観をもって見がちないわゆる「HBS」的なものとは大きく異なったものになっています。資本主義がもたらす環境問題などグローバルな問題にも目を向け、企業の公益性という社会的な課題を正面から取り上げています。

そうした新生HBSで、気候変動という大きな問題に対して企業の役割とは何かを取り上げてきた、『資本主義の再構築―公正で持続可能な世界をどう実現するか』(日本経済新聞出版)の著者であるレベッカ・ヘンダーソン教授は、Forbes JAPAN 2021年3月号の中で、「いまこそ産業界が公益性を目標にして、コロナ禍を変革のチャンスに変えるべきだ」と語っています。(注2)

ヘンダーソン教授が言う再構築とは、「企業が社会と一体になり、利益追求だけでなく、社会の繁栄や成功に貢献することだ。利益を上げながら公共問題を解決し、厚遇の仕事や良質の製品を提供することで、社会や環境の強化を目指す」ということです。

特に、今、人類が直面しているコロナ禍の中で、企業の意識や行動の変化が加速しており、世界的な気候変動や格差拡大の解消に向けて、それが追い風になるのだと言っています。世界中で、企業というのは利益を追求するだけの存在ではなく、社会問題の解決と利益を同時に目指す「共有価値の創造」が大切だとの認識が急速に広がっているからです。

そして、ヘンダーソン教授は、この「共有価値の創造」のためには、企業が創業理念に立ち返り、改めて深遠な目的を探すことが重要だと訴えています。そして、アメリカ型の株主至上主義ではない全てのステークホルダーを重視する日本型の資本主義は、資本主義を再構築していく上での重要な参考になると指摘しています。

(注1)
『ハーバードの学生たちが東北を訪れる理由。3つの理念がもたらす、次世代のリーダー像』(2021/02/18), EL BORDE https://www.nomura.co.jp/el_borde/method/0082/(2021/05/09検索)

(注2)
『資本主義の再構築に向けて、「見習うべきは日本のGPIF」』(2021/05/07),Forbes JAPAN https://forbesjapan.com/articles/detail/41205?fbclid=IwAR1bunJDMzQemHkmizWtDmiyVpep-QdzrVi2ot94tzWjEGPAsxJcEn_wB1M(2021/05/09検索)

著者

株式会社ボルテックス 100年企業戦略研究所 所長堀内 勉

多摩大学社会的投資研究所教授・副所長
東京大学法学部卒業、ハーバード大学法律大学院修士課程修了、Institute for Strategic Leadership(ISL)修了、東京大学 Executive Management Program(EMP)修了。日本興業銀行、ゴールドマンサックス証券、森ビル・インベストメントマネジメント社長を経て、2015年まで森ビル取締役専務執行役員CFO。田村学園理事・評議員、麻布学園評議員、社会変革推進財団評議員、立命館大学稲盛経営哲学研究センター「人の資本主義」研究プロジェクト・ステアリングコミッティー委員、日本CFO協会主任研究委員 他。
2020年7月、株式会社ボルテックス100年企業戦略研究所所長に就任。
ライフワークは資本主義とソーシャルファイナンスの研究。趣味は料理、ワイン、アート鑑賞、工芸品収集と読書。読書のジャンルは経済から哲学・思想、歴史、科学、芸術、料理まで多岐にわたり、東洋経済などで複数の書評を連載している。著書に、『コーポレートファイナンス実践講座』(中央経済社)、『ファイナンスの哲学』(ダイヤモンド社)、『資本主義はどこに向かうのか』(日本評論社)、『読書大全 世界のビジネスリーダーが読んでいる経済・哲学・歴史・科学200冊』(日経BP)

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