人生100年時代の到来で「リカレント教育」が中小企業に求められる理由
〜中小企業経営者のための注目の経営トピックス[第19回]

人生100年時代を迎え、生涯にわたって学びを続ける「リカレント教育」の重要性が指摘されています。

しかし、日本のビジネスパーソンが就職後にフルタイム修学を行なっている割合はわずか2.5%にとどまっており、これはスイスやデンマークなど「リカレント教育先進国」に比べ、10分の1程度です。

メディアでも注目されている企業経営に関するトピックスを解説する本連載。この記事では、従業員の「リカレント教育」を支援している企業の事例を示しながら、その効果について明らかにしていきます。

リカレント教育とは?注目を集める背景

「リカレント」は、循環や反復、そして回帰といった意味を含む単語です。この単語に「教育」を掛け合わせると「循環・反復教育」、「教育への回帰」という新たな意味合いが生まれます。

つまり大学や専門学校など、一定の教育を経て社会人になった人が、新たな学びの機会を得ることがリカレント教育ということになります。

生涯教育との違い

リカレント教育の考え方は、スウェーデンの経済学者であるゴスタ・レーンによって、1968年に提唱されました。その流れを受け、スウェーデンは1970年代後半に「高等教育改革」を実施。一時は「25歳以上で、社会人経験もある者たちが、大学生全体の半数以上を占める」という現象も生み出しています。

日本の「オープンカレッジ」や「コミニュティカレッジ」も、リカレント教育を背景に誕生したものと考えられます。

リカレント教育に近い考え方として「生涯教育」があげられます。両者の違いは、仕事に直結するか否かです。人生を豊かにするための知識や技術習得を目指すのが「生涯教育」であるのに対し、リカレント教育は「受講後、仕事に活かせる内容を学ぶ」ことが前提となっています。

必要性が高まる理由

リカレント教育がいま、日本で注目を集めているのにはいくつかの理由があります。

1つ目は、技術革新がスピードアップしていることです。ITを例に挙げると、IoTやAIなどのデジタル技術を活用した「第四次産業革命」が進行中で、現職の社会人が学生時代に学んだ技術や知識だけでは、対応が難しいというケースが生まれています。

リカレント教育は、こうした問題を解決へ導くポテンシャルを秘めているのです。

そしてもう1つは、国内の平均寿命が伸びていることと少子化が進んでいることです。

労働人口の不足は今後ますます深刻化すると考えられており、定年退職後に再就職を希望する高齢者への期待は、大いに高まっているところ。その際により良い待遇を得て、長く社会で活躍するために、リカレント教育の果たす役割は大きくなっていくでしょう。

もちろん若い世代が転職を果たす際にも、リカレント教育は効果的なステップアップをサポートします。

リカレント教育が中小企業にもたらすメリット

近年は、リカレント教育を推進する企業が増加しています。教育を受けるのは個人ですが、企業にとっても少なからずメリットがあるためです。

業務改善効果

既存スタッフが新しい専門技術を身に付け、専門性を高めていくことで、社内に業務改善の機運が高まります。新たな人材を募集するよりも、あらかじめ社風を理解した既存スタッフの方が、業務改善に関するさまざまな事柄を、スムーズに進めることができます。

こうした傾向は、中小企業でより顕著といえるでしょう。

人材流出を抑止

終身雇用が瓦解した近年の日本社会で働く若年層は「いつまでもここに勤めていると、成長が止まってしまう」と判断した際に、転職を検討します。しかし、リカレント教育の機会が得られれば組織に留まったままでも成長できる可能性が広がり、やりがいも高まります。結果として、優秀な人材の流出抑止につながるのです。

従業員のリカレント教育サポートを導入している企業事例

ここまでリカレント教育の概要やメリットについて、紹介してきました。しかし、転職サイト「doda」を運営するパーソルキャリア株式会社が2019年に実施した調査によると、リカレント教育制度を導入している企業の割合は、調査対象となった約180社のうち、10%にも及びませんでした。

企業の消極的な姿勢の裏には「就労を中断し、教育へ参加させるのは現実的に難しい」「費用負担が大きい」「教育機関がまだまだ少ない」などの事情があるようです。

そこで以下に、実際に従業員のリカレント教育サポートを導入している企業の事例を紹介していきます。経営者の皆様は、その手法をぜひ参考にしてみてください。

復職しやすい制度を用意したサイボウズ

ソフトウェア開発企業として知名度の高いサイボウズ株式会社は、2012年より「退職後6年間であれば、同じチームへ復帰が可能」という復職制度を施行しました。対象となるのは、35歳以下の社員。出産・育児から転職まで、退職の理由はとくに問われません。

この制度は、35歳以下の将来性ある社員に成長のための転職や留学を勧め、復職しやすい環境を作ることを目的としており、「育自分休暇制度」と命名されています。同制度の利用が認められた社員には、育自分休暇の期限が記された「育自分パスポート」も発行されています。

スキルアップへの支援を提供するミクシィ

SNS運営に始まり、現在はエンタメ事業が好調な株式会社ミクシィは、就業しながらの学び直しを支援する「スキルアップ支援プログラム」を用意しています。

「業務成果に繋がる自己成長」が対象で、英会話や資格取得、そしてプログラミング学習などのサービスを特別優待で利用できるようです。また同社は「病児保育&ベビーシッター補助制度」を設けるなど、スタッフの働きやすさに配慮した福利厚生制度を多数用意している企業です。

リカレント教育専用の休職制度を用意したヤフー

ポータルサイトのYahoo! JAPANなどを運営するeコマース企業・ヤフー株式会社は、キャリア施策のひとつとして、勉学専用の休職制度を用意しています。

普段の業務を離れ、専門知識や語学力をより集中的に習得できる機会の提供を目的としており、勤続3年以上の正社員が対象。最長2年間の取得を可能としています。

また上記以外にも、日本女子大学や関西学院大学といった教育機関が、リカレント教育専門の課程を設けるなどの動きも活発化しています。学ぶ者を受け入れる場は、今後もより増加していくでしょう。

人生100年時代、リカレント教育は企業にとっても大きなメリットをもたらす

人生100年時代が到来したいま、個人がより長く社会で活躍するために、「学び」の必要性は増すばかりです。

また、スタッフのリカレント教育を推進することは企業にとっても大きなメリットをもたらします。スタッフがリカレント教育を通じて業務に直結する技術や知識を獲得することは、業務効率改善や生産性向上に大きく寄与するためです。

国内には労働者の長期的な能力開発促進のため、企業が負担した経費や訓練期間中の賃金の一部を助成する「人材開発支援助成金」なども用意されています。

企業経営者は多様な就労体制を実現する環境づくりとともに、スタッフ個人にとっても、企業にとっても重要なリカレント教育について、知識を深めておくべきといえるでしょう。

著者

株式会社ボルテックス 100年企業戦略研究所

1社でも多くの100年企業を創出するために。
ボルテックスのシンクタンク『100年企業戦略研究所』は、長寿企業の事業継続性に関する
調査・分析をはじめ、「東京」の強みやその将来性について独自の研究を続けています。

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