事業会社によるインパクト投資

 

2021年5月26日、500 Startups主催の、「事業会社によるインパクト投資」をテーマとしたウェビナーが開催されました。その概要をImpactShareというインパクト投資に関するニュースレターが紹介しています。

500 Startupsというのは、アメリカのVC(Venture Capital、ベンチャーキャピタル) で、2010年の設立以来、世界のアーリーステージ(企業が起業した直後の早い時期)のベンチャー企業2,500社以上に投資し、271件のエグジット(上場などによる投資資金の回収)を実現させてきました。

同時に、500 Startupsは、シリコンバレーに本拠地を構える世界有数のアクセラレーター(Accelerator)でもあります。アクセラレーターというのは、スタートアップ企業のビジネス拡大のための資金投資やノウハウ提供などの支援事業を行う組織のことを言います。数週間から数カ月といった短期的支援で、ビジネスを急速に成長させる支援プログラムを提供します。

インパクト投資については、以前、本コラムでもご紹介しましたが、次のように定義されています。
「財務的リターンと並行して、ポジティブで測定可能な社会的及び環境的インパクトを同時に生み出すことを意図する投資行動を指します。従来、投資は「リスク」と「リターン」という2つの軸により価値判断が下されてきました。これに「インパクト」という第3の軸を取り入れた投資、かつ、事業や活動の成果として生じる社会的・環境的な変化や効果を把握し、社会的なリターンと財務的なリターンの双方を両立させることを意図した投資を、インパクト投資と呼びます。」(GSG国内諮問委員会)

また、インパクトを追求する運用機関がどのような他社や他団体から資産を受託しているのかについては、Global Impact Investing Network(GIIN)というインパクト投資に関する世界的ネットワーク組織から、以下の数字が公表されています。
・GIINに活動報告をした186の運用機関は、1,250億USドル(2019年末時点)のインパクト資産を運用。
・運用機関の平均投資額は6億7,300万USドルで、中央値は8,900万USドル弱。
・運用機関の総資産額に占める割合を見ると、年金基金や退職金基金が全体の18%を占めている。次いで、16%が個人になっている。
・活動報告した運用機関のうち、60%の運用機関には、委託者の中に財団が、56%の運用機関には富裕層が、約半分はファミリーオフィスがいる。

事業会社によるベンチャー投資は、CVC(Corporate Venture Capital、コーポレートベンチャーキャピタル)として日本でもよく知られていますが、近年、これをインパクト投資に活用しようという動きが活発化しています。

例えば、AmazonのClimate Tech FundやMicrosoftのファンドなどが有名です。事業会社がインパクト投資を実行する際、このように自社内にCVCを創設し、自社で運用することもあれば、他のベンチャーキャピタルなどが運用するファンドに投資することもあります。これに加えて、ファンドという形態を取らずに直接投資している場合もあります。

それでは以下、今、どのような事業会社がどのようにインパクト投資をしているのかについて、5月26日のウェビナーの内容を概観してみます。
今回のウェビナーには、以下の4社の担当者と500 Startupsからのモデレーターが参加しました。
Caludine Emeott氏:Senior Director, Salesforce Impact Fund
Ryan Macpherson氏:Portfolio & Investment Manager, Impact Investing, Autodesk Foundation
Ken Gustavsen氏:Executive Director, Social Business Innovation, Merck
Moses Choi氏:Director, Sustainable Finance, RBC Capital Markets
モデレーター Vijay Rajendran氏:Head, Corporate Growth, 500 Startups

そこでは、次のような議論が活発に行われました。
・2020年、アメリカにおけるVC(Venture Capital、ベンチャーキャピタル)による投資金額の20%はCVCが占めた。
・CVCによるインパクト投資への参入が進んでいる背景には、ここ20年ほどでESG(Environment, Social, Governance、環境・社会・ガバナンス)を会社の戦略に組み込むことが当然になってきていることがある。
・事業会社にとって、サステナビリティはもはや避けて通れないテーマである。ある調査報告によれば、99%の会社は事業経営にとってサステナビリティは重要であるとの結果が出ている。
・インパクト投資などのサステナブル投資市場が拡大している中で、CVCによるこの分野へ参入は一層拡大すると予想されている。
・その一方で、やはりCVCにおいても、①インパクトを創出するという意図に加え、②経営戦略上の位置付け、③経済的リターンの追求が重要である。
・投資先のインパクトの創出を優先するのか、それとも、戦略的投資なのだからその実現を優先するべきといった議論、リスクかリターンかといった議論は常に行われている。
・社会性を重視しているファンドでなければ、一般的なCVCと期待している投資リターンは全く同じだし、投資委員会も同じメンバー、投資判断材料も同じ。
・インパクトCVCにとって、①戦略的な投資が目的であること、②インパクトを追求すること、さらに、③市場リターンを追求することの3つを同時に実現させることが大事。一案件で3つすべての軸を最大化するのは難しいが、各案件で3つの軸のバランスに投資チームが納得できるかどうかを大事にしており、もし一つでも懸念があれば投資はしない。

なお、インパクトCVCの形態に関する調査については、Stanford Social Innovation Review(SSIR)で記事が公表されていて、ImpactShareでもその内容を以下のように紹介しています。
・インパクト投資市場全体で推定7,150億USドルのうち、事業会社によるインパクト投資は現在72億USドル以上を占めている。この金額は、2016年以降、年複利成長率54%で増加している。
・2020年だけでも、Amazon、Microsoft、Salesforce、TELUS、Citi、Unileverがそれぞれ1億USドルを超える投資を発表している。
・事業会社によるインパクト投資は、多くの場合、バランスシートを起点としている。企業は、オフバランスファンド、ドナーアドバイスファンド、ファンドオブファンズなどのスキームも活用するようになっている。
・現在、企業のインパクト戦略の70%は、企業のバランスシートを利用しており、13%はオフバランスのファンドストラクチャーを、15%は財団やその他のフィランソロピービークルを利用している。
・インパクトの焦点も様々で、55%が環境、次いで、社会正義(social justice)(35%)、人材開発・教育(23%)、健康(10%)となっている。
・2020年に開始された戦略のうち、46%がダイバーシティ、エクイティ、インクルージョンをインパクト分野として含んでいる。

【参考文献】
『500Startups主催ウェビナー「事業会社によるインパクト投資」概要 前編』(2021/6/15), ImpactShare https://impactshare.substack.com/p/500startups-(2021/7/22検索)
『500Startups主催ウェビナー「事業会社によるインパクト投資」概要 後編』(2021/7/2), ImpactShare https://impactshare.substack.com/p/500startups–542(2021/7/22検索)
「インパクトCVCの形態に関する調査」(2021/2/24),Stanford Social Innovation Review https://ssir.org/articles/entry/corporate_impact_investing_in_innovation#bio-footer(2021/7/22検索)
“2020 Annual Impact Investor Survey” (2021/6/11),GIIN https://thegiin.org/assets/GIIN%20Annual%20Impact%20Investor%20Survey%202020.pdf(2021/7/22検索)

著者

株式会社ボルテックス 100年企業戦略研究所 所長堀内 勉

多摩大学社会的投資研究所教授・副所長
東京大学法学部卒業、ハーバード大学法律大学院修士課程修了、Institute for Strategic Leadership(ISL)修了、東京大学 Executive Management Program(EMP)修了。日本興業銀行、ゴールドマンサックス証券、森ビル・インベストメントマネジメント社長を経て、2015年まで森ビル取締役専務執行役員CFO。田村学園理事・評議員、麻布学園評議員、社会変革推進財団評議員、立命館大学稲盛経営哲学研究センター「人の資本主義」研究プロジェクト・ステアリングコミッティー委員、日本CFO協会主任研究委員 他。
2020年7月、株式会社ボルテックス100年企業戦略研究所所長に就任。
ライフワークは資本主義とソーシャルファイナンスの研究。趣味は料理、ワイン、アート鑑賞、工芸品収集と読書。読書のジャンルは経済から哲学・思想、歴史、科学、芸術、料理まで多岐にわたり、東洋経済などで複数の書評を連載している。著書に、『コーポレートファイナンス実践講座』(中央経済社)、『ファイナンスの哲学』(ダイヤモンド社)、『資本主義はどこに向かうのか』(日本評論社)、『読書大全 世界のビジネスリーダーが読んでいる経済・哲学・歴史・科学200冊』(日経BP)