2023年に創業100年を迎える企業は2,649社、取り組みや創業年の出来事を紹介

目次
東京商工リサーチによると、2023年に創業100年を迎える企業は全国で2,649社あり、これらの企業をあわせると日本国内の創業100年以上の企業は4万2,966社にのぼります。100周年を迎えた企業の特徴や創業年の出来事、時代背景をみていきましょう。
2023年に創業100年を迎える企業は?
2023年に創業100年を迎える企業には、農林中央金庫、富士電機、富国生命保険、高砂熱学工業、髙山、東芝プラントシステム、ジューテック、オー・ジー、エクセディ、エスビー食品など、実力を備えた企業がそろいます。
2023年に創業100年を迎える主な企業

同じく東京商工リサーチの分析によると、周年(創業から50年、および100年単位)を迎える企業数と割合(構成比)は、創業50年が2万8,476社(91.4%)、創業100年が2,649社(8.5%)、創業200年が9社、創業300年と400年が各1社という結果でした。長寿企業大国の日本でも、200年以上存続する企業となるとわずかであることが分かります。
創業100年を超える企業の取り組み:サステナビリティと地域社会
現在の企業経営において、持続可能な社会と企業の成長を両立するSDGsやESGなど、世界的な基準に沿ったサステナビリティの視点が不可欠になっています。
一方で、グローバル化が進展する前に創業した日本の長寿企業には、身近な地域とのつながりを重視して、地域と共存共栄してきた例も少なくありません。
グロービス経営大学院の田久保善彦氏は、創業300年以上かつ売り上げがおおむね50億円以上の企業を「日本型サステナブル企業」と名付け、経営の特徴などをリサーチしています。
参考:『創業三○○年の長寿企業はなぜ栄え続けるのか』(東洋経済新報社)
リサーチを進めるなかで、これら超長寿企業と社会とのかかわりについて、近年重視されている企業の社会的責任(CSR:Corporate Social Responsibility)や共通価値の創造(CSV:Creating Shared Value)とは少し違った特徴が見出されたといいます。同氏はその特徴として、地域社会とのつながりを大切にし、良い意味で長期にわたって地域と「しがらんでいる」状態で、地域とともに価値を創造する経営を行っていることをあげています。
そして、地域とともに共存共栄しているが故に、ガバナンスが効きやすいことが企業存続の一要素であり、海外など「新たな地域」に進出する際にも、こうした超長寿企業の経営のあり方から学ぶべきことが多くあるとしています。
創業100年を迎える企業は、グローバル化やサステナビリティ、地域社会とどのように向き合っているのでしょうか。取り組みをみていきましょう。
創業100年を迎える企業①:農林中央金庫
農林中央金庫は、1923年に「産業組合中央金庫」として誕生した民間の金融機関です。JA(農業協同組合)、JF(漁業協同組合)、JForest(森林組合)などの組織の中央機関として、共同組織の会員に対して金融サービスの提供や事業の指導などを行っています。
農林中央金庫には、「持てるすべてを『いのち』に向けて。」というコーポレートブランドがありましたが、2021年にこれをパーパスとしてより分かりやすく表現しました。
持てるすべてを「いのち」に向けて。〜ステークホルダーのみなさまとともに、農林水産業をはぐくみ、豊かな食とくらしの未来をつくり、持続可能な地球環境に貢献していきます
サステナビリティについて、農林中央金庫は、気候変動や担い手不足、生物多様性の喪失などの農林水産業を取り巻く課題は、自社の事業基盤が抱える課題そのものであるとし、5つの課題とその取り組み方向を示しています。
そして、全国共通の取り組み以外にも、全国各地や海外の事業所を拠点に、それぞれの地域に合わせた取り組みを実施しています。具体的な取り組み事例として、日本農業経営大学校での次世代の農業経営者・リーダーの育成、ヨーロッパの現地法人の顧客への情報提供や対話を通じた、ビジネス機会の創出などがあります。
(参照:農林中央金庫HP)
創業100年を迎える企業②:富士電機
富士電機は、発電設備などの大型の電気機器や半導体、自動販売機などを製造しています。自動販売機はトップクラスの国内シェア率をほこり、飲料メーカーなどとの共同開発も盛んです。古河グループの中心的企業で、社名の由来は親会社の「古河」の『ふ』と技術提携したドイツのシーメンス社の『し』、漢字は富士山を想起できることから、この表記となったそうです。エレクトロニクスメーカーである富士通の母体になった企業でもあります。
富士電機の経営理念は
「豊かさへの貢献」「創造への挑戦」「自然との調和」
経営理念と一致したサステナビリティへの取り組みを行っています。
自社の中核事業であるエネルギー・環境事業でのSDGsへの貢献については、5つの重点目標を設定し、ESGとSDGsとの関連性も明確にしています。
また、全国の主要都市や海外の事業所を拠点に、各地域への貢献活動を行っています。具体的な取り組みとしては、インドネシア・スマトラ島西部に地熱発電所の設置において主要機器を調達し、再生可能エネルギーの普及に貢献している事例や、埼玉県鴻巣市などで地域の子供向けに理科教室を実施し、質の高い教育の機会を提供している事例があります。
(参照:富士電機HP)
ドイツの長寿企業シーメンスが登場
創業100年を迎える企業③:ジューテック
ジューテックは、合板を販売する『べニア商会』として出発しました。1923年9月に発生した関東大震災からの復興を願い、直後に事業を開始しています。日本の経済成長とともに成長し、現在は住宅資材の販売のほかにリフォームやリノベーションも手がけています。
スローガンは
突破力
新しい時代を切り拓くという思いのもと、創業90年を機に定められました。
ジューテックのサステナビリティの基本方針となっているのは、「私たちは未来ある子供たちのために地球にやさしい住環境と夢のある豊かな暮らしを提供します」という経営理念で、これを実現するための行動憲章も定めています。
事業に関連して、環境に配慮した商品やエシカル商品の販売を拡大するほか、多様な人材がいきいきと働ける職場環境の整備などを重点課題とし、SDGsに貢献しています。ESGへの具体的な取り組みとして、神奈川県や栃木県での森林の造成・育成および整備や、東日本大震災の津波被害を後世に伝えるためのさくら並木植樹活動に参画しています。
(参照:ジューテックHP)
創業100年を迎える企業④:エスビー食品
エスビー食品は、カレーや香辛料を製造・販売する大手食品メーカーです。ライフスタイルの変化や食の多様化に対応して、味や種類のみならず、商品の形状なども進化・発展させながら、人々のくらしをサポートしています。
創業理念、企業理念に加えてビジョンや行動規範を掲げ、従業員一人ひとりが同じ方向を向いて活動できるようにしています。
創業理念
美味求真
お客様に喜んでいただくために、ただひたすらにまっすぐに“本物のおいしさ”を追い求めます。
企業理念
食卓に、自然としあわせを。
サステナビリティへの取り組みについては、人権方針、環境基本方針、サステナビリティ調達基本方針を定め、理念や行動規範とどのようにつながっているかを示しています。
具体的な取り組みとしては、食品ロスの削減や省資源化に対応した商品パッケージの開発・導入、生産過程での食品廃棄物の削減や水質汚染の防止、物流のモーダルシフトによるCO2の排出量削減などがあります。
地域社会においては、全国各所で「S&B杯ちびっ子健康マラソン」の開催、フードバンク活動の支援などに取り組んでいます。
(参照:エスビー食品HP)
創業年の出来事―1923年はどのような年だったのか
前年の1922年に目を向けてみると、国内で米騒動をきっかけに日本農民組合が結成され、海外では世界初の社会主義国家、ソビエト社会主義共和国連邦が建国された年でした。1920年代は、第一次世界大戦後の協議が終わりヨーロッパに一時の平穏が訪れた一方で、戦争特需にわいたアメリカや日本が一転して不景気に陥り、世界恐慌へと向かう狭間の期間でもありました。1923年がどのような年だったのか主な出来事をたどりましょう。
日本国内では1923年9月1日に関東大震災が起き、神奈川と東京をはじめ、茨城、千葉、静岡東部などの広範囲に甚大な被害がでました。この未曾有の大災害による死者・行方不明者は約10万5,000人とされています。首都機能は麻痺し、交通網も寸断されました。被災した人々が相互扶助や復興に取り組む裏で、官憲による無政府主義者や労働運動の指導者の殺害、デマの拡散による朝鮮人虐殺など、混乱に乗じた事件、情報伝達手段の喪失に端を発する事件も起きました。
その後数年間に、日本では地震などによる災害が頻発し、多額の復興費用を賄うために発行した震災手形が不良債権化して金融恐慌が起こりました。
海外では、1923年1月、第一次世界大戦の敗戦国ドイツからの賠償が滞ったことを理由に、フランスなどがルール地方を占領しました。これに反発したドイツ政府が労働者にストライキを指示し、その経済的支援のために大量の紙幣が発行されました。これにより、戦中からインフレだったドイツはハイパーインフレに陥りました。
こうした社会経済情勢の悪化や第一次世界大戦の戦勝国に対する不満は、第二次世界大戦勃発の一因となりました。
創業100年にいたる秘訣を探る
こうした混乱の時代を超え、企業を存続させるための秘訣はあるのでしょうか。
前出のグロービス経営大学院の田久保善彦氏は、長寿企業のキーワードのひとつに「身の丈経営」をあげ、3つのポイントに分解して考察しています。
身の丈経営のポイント① 本業重視の事業成長
明確に自社の強み、コアとなる力を理解して自社の強みにフォーカスし続ける
身の丈経営のポイント② 長期視点に立った新規事業への挑戦
成長の数字を目的化するのではなく、企業の継続を目的とし、少しずつ事業の幅出しにチャレンジする
身の丈経営のポイント③ 有事の際は、大胆に動く
継続のための執念を燃やし、大胆な意思決定・投資などを行う
これを適えるために、平時から経営の安定性を確保し、危機に耐えられる財務力を維持することに配慮している
創業100年を迎える企業は、関東大震災、阪神淡路大震災、東日本大震災などの天災や、第二次世界大戦、東西冷戦、バブル崩壊、リーマンショック、コロナ禍などの経済危機を乗り越えてきました。
不連続な変化や経済危機が頻発する令和時代にこそ、長寿企業から学ぶべきことがあるのではないでしょうか。

著者
一般社団法人100年企業戦略研究所
この国に1社でも多くの100年企業を創出することを目指して。
『100年企業戦略研究所』は、長寿企業に学ぶ経営哲学・リーダー論・財務戦略に加え、東京を中心とした都市力に関する調査・研究など、100年企業を実現するための企業経営のあり方についての情報を発信しています。