経済動乱のいまこそ「お金を追うな、仕事を追え」

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コロナ禍、そして混迷の国際情勢など、目まぐるしく状況が変化する現在の世界。まさしく動乱期ともいえるいま、「100年先」に残る企業の条件とは何か。そして、経営者・リーダーには何が求められるのか。大企業から中小企業まで幅広く経営コンサルティングを手がける小宮コンサルタンツ代表取締役CEOの小宮一慶氏にお話しいただく連載の第一回です。

100年先のためにも、目の前の1年が大切

私がお付き合いしている会社に、傳來(でんらい)工房という京都の企業があります。同社は金閣寺の塔の金物や皇居二重橋の欄干などをつくっているのですが、創業は平安時代ですから約1200年前にあたります。これはさすがに特殊な事例でしょうが、たとえば自社を100年先まで続けようと考えたとき、何が大事になるかといえば、長期事業構想を持つとともに、まずは目の前の1年に注力することです。ならば、そのときに経営者などのリーダーにははたして何が求められるのか、本連載では考えていきたいと思います。

折からの新型コロナウイルスの感染拡大、そしていまではウクライナ情勢や円安など、世の中の状況は目まぐるしく変化しています。しかし、企業にとっては結局のところ「お客さまのニーズにどう応えるか」が重要です。そのためには、必要であれば自分たちの意識や働き方までも含めて変わらなければなりません。

「お金を追うな、仕事を追え」とは、10年ほど前に亡くなられた曹洞宗のお坊さん・藤本幸邦先生から教わった言葉です。私はいまも肝に銘じている言葉で、いい仕事をすれば業績は後からついてくるものです。たとえば、東芝が業績を著しく悪化させたことはご存じのとおりですが、その理由の元をただせば利益を目的化して、最初から数字を追いかけていたことだと私は認識しています。

それでは、「仕事を追う」とは具体的に何を指すのでしょうか。ピーター・ドラッカーは企業の使命を「特有の使命を果たす」ことと定義していますが、私は「QPS」、すなわちQuality、Price、Serviceの独自性を追求することが、必然的に他社への差別化へとつながると考えています。Qualityはあらためて説明するまでもなく商品の品質で、Priceは価格、 Serviceは「その他のS」のことで、たとえば「お店が自宅の近くだから買った」というケースは商品そのものの質や値段は他とは変わりないが、差別化のひとつの要因です。

イノベーションで意識すべき「5つの“P”」

各企業は、いまこそ固有のQPSを考え、差別化を図らなければなりません。なぜならば、日本は長い間経済が停滞しているうえに、現在の日本銀行の政策はいわば「嵐のなかで窓を開けよう」と呼び掛けているようなものであり、これからインフレが起きる可能性がきわめて高いからです。4月には2%以上のインフレ率となりました。しかし、仕入れを表す企業物価は10%上昇しています。ですから、できる限り多くの企業は、値上げが可能なら直ちに値上げするべきです。さらにいえば値上げを可能にするためにもQPSの組み合わせを速やかに再考し、他社との差別化を急がなければなりません。

値上げについては、多くの会社がこの30年間実行していません。食品会社であれば、値段は据え置きで商品の分量を減らすケースのほうがこれまでは圧倒的に多かったでしょう。もちろん、それも一つの企業戦略ですが、しかし「右に倣え」とばかりに他社と同じ対策を採っているようでは、QPSの差別化はできません。お客さまが本当に求めていることは何なのかを考えるべきだし、その意味では現代ほどマーケティングの優劣が業績の差に表れるときはありません。そこで重要になるのがイノベーションです。

ドラッカーはイノベーションについて「新しい価値を創造することだ」と話していますが、そこで意識するべきが“Products(商品)”、“Price(金額)”、“Place(流通)”、“Promotion(宣伝)”です。そこに私は“Partner(協力相手)”も加えて、「マーケティングの5つの“P”」のどこかでイノベーションを起こすことを考えるべきだと言っています。たとえば、私のお客さまの、印刷サービスを手掛けているプリントパックは、ネット印刷に注力して業績を向上させましたが、これは“Place(流通)”を劇的に変えて“Price”を下げたことが成功要因でした。

たしかに激動の時代であることは明白ですが、環境がどう変化しようともお客さまはその商品やサービスが自分がのぞむQPSであれば買うことに違いはありません。Q、P、Sでどう差別化していくか(=特有の使命を果たすか)を深く考えることがどの時代も大切なのです。

数字ばかりを追いかける前に必要なこと

長く続く企業はどんな組織ですか?――とは、私がよく受ける質問です。じつはこの問いには明確な答えがあって、回答としてよく例にあげるのが宗教団体です。それこそ1000年以上続いている団体だってたくさんありますよね。その理由を考えるならば、彼らは「考え方」を求心力としているからです。

松下幸之助さんは友人の勧めで天理教の本部に行ったとき、信者の方々がお金ではなく神様のために一所懸命に働いている姿をみて、雷に撃たれたような衝撃を受けたと語っています。人や組織が私利私欲のために動いているようでは、長続きしません。現に松下さんはあくまでもよりよい社会の実現のために事業を行なっており、これも松下電器(現パナソニック)が世界に冠たる企業に成長を遂げた大きな理由の一つでした。

お金をニンジンにしてお尻を叩けば従業員が働くかといえば、そんなことはありません。そのような会社は、短期的には業績を向上させられるかもしれませんが、長期的には続きません。「金の切れ目が縁の切れ目」といいますが、そもそもお客さまは会社の金儲けには何の関心もないのですから、やはりいい商品をつくって売り続けるほかないのであり、それなのに数字を闇雲に求め続ければ、お客さまは離れていき、従業員にしてもより条件のいい会社へと移るだけでしょう。

しかし、現在の日本企業を見渡せば、残念ながら数字ばかりを追いかけている会社が少なくないように思います。なぜそうなるかを私なりに考えると、経営者などのリーダーが「生き方」の勉強を疎かにしているからではないでしょうか。

企業理念などの基本的な考え方は、本来であれば宗教団体のように、100年先であろうが1000年先であろうが変わらないものでなければいけません。でも、経営者が人間の何たるかや生き方を学ばずに哲学がないから、目先の数字だけを上げればいいと思い込んでしまっている。とくに上場している企業であれば、株主の目も気になるからその傾向が強くなるでしょう。

しかし繰り返しますが、数字を上げることは当然ではあるものの、それが目的化してしまうと、従業員は疲弊するばかりだし、何よりもお客さまはそんな企業を好みません。企業にとっては金儲けも大切ですが、自分たちが何のために事業を行なっているのか、社会にどう貢献するかという基本的な考え方を貫き通さなければ、とくにいまの時代には通用しないはずです。

リーダーが学ぶべき三つのポイント

それでは、経営者をはじめとするリーダーは会社経営を成功させるために、何をどのように学べばいいのでしょうか。第1回の締めくくりとして、私が考える三つのポイントを開陳したいと思います。私のお客さまに必ずお願いしていることです。まず一つは、新聞を読むことです。大きな記事の最初の数段落だけでもいいので読んでほしいのです。これはつまり、世の中の動きをよく知るということと同義です。「会社」という文字は「社会」の反対です。世情を知らずにお客さまのニーズに合わせられないことは、容易に想像できるでしょう。

二つめは、経営者であれば経営の勉強をすることです。ゴルフをやるならばゴルフの基本を学ぶべきなのと同じ話で、経営にも「経営の基本」があります。私がよく推薦するのは、ファーストリテイリング会長兼社長を務める柳井正さんの『経営者になるためのノート』(PHP研究所)で、とても秀逸な経営書なので読むことをお勧めします。もちろん、今日紹介したドラッカーの本などを手に取るのもいいでしょう。私の本なら『経営者の教科書』が基本です。

そして最後の三つめがもっとも重要で、何千年もの人類の歴史のなかで、多くの人が「正しい」として語り継がれてきたものを学ぶことです。儒教や仏教、キリスト教などの宗教でもいいし、松下幸之助さんや京セラを世界的企業に押し上げた稲盛和夫さんの本を読むことでもいい。長い歴史のなかで正しいと評価されてきたものには真理があるわけで、そこから学ぶことが成功の根本ということを意外にも多くの人が気づいていないように思います。

お気づきのように、ここで紹介した三つのポイントは何も特別であったり難しかったりすることではありません。しっかりと根気強く続けていけば、高い確率で経営や人生が上手く回り始めるはずです。ウクライナ情勢やインフレなど目の前の状況に右往左往するよりは、まずは自分の足元を固めて、お客さまのために何ができるかを考えることが、いまもっとも大切なことなのです。

著者

小宮 一慶 氏こみや かずよし

株式会社小宮コンサルタンツ代表取締役CEO

大企業から中小企業まで、企業規模や業種を問わず幅広く経営コンサルティング活動を行なう一方、講演や新聞・雑誌の執筆、テレビ出演も行なう。『小宮一慶の「日経新聞」深読み講座』(日本経済新聞出版社)、『社長の心得』 (ディスカヴァー携書)『経営が必ずうまくいく考え方』(PHPビジネス新書)など著書多数。

[編集] 一般社団法人100年企業戦略研究所
[企画・制作協力] 株式会社PHP研究所 企画普及部

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