相続税の落とし穴?事業承継を成功させる「名義株対策」4つのポイント~中小企業経営者のための事業承継の豆知識[第6回]

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相続税の税務調査は、相続税を申告した4件に1件の割合で行われ、その8割以上で追徴課税が課せられています。そして会社の経営者は、圧倒的に高い確率で税務調査が行われます。そこで問題になるのが「名義株」です。

今回は、事業承継を見据える中小企業の経営者であれば、必ず知っておきたい「名義株」についてみていきましょう。

※記事は2020年8月31日時点での情報により構成しています。

税務調査で名義株と認定され40億円の追徴課税

名義株式が問題視され追徴課税を課せられた例として、過去のニュースを見ていきましょう。数年前、戸建て住宅大手の会長遺族が、東京国税局の税務調査を受け、約80億円の申告漏れを指摘されるという報道がありました。相続税の追徴税額は過少申告加算税を含めて約40億円だといわれています。

遺族は元会長の不動産や預金などを相続財産として申告。しかし、株を保有する資産管理会社の株式の一部は、元会長の長男名義だとして申告しておらず、長男は取得資金を実質的には負担していなかったようです。

東京国税局は、この株式は元会長のものであり、遺族は相続財産として申告する必要があったと判断しました。つまり「長男名義になっている株式は、名義は長男でも、実質的には亡くなった父親の株式だから、相続税を40億円追徴課税する」と判断したのです。

そもそも「名義株」とはなんなのか?

そもそも会社の株式には相続税がかかります。それも業績の良い会社であればあるほど、株価は高くなるので、相続税も高くなります。

そうすると多くの経営者は「自分名義の株式では相続税がかかる。初めから家族名義であれば、相続税はかからない」と考えるでしょう。

しかし会社の株式を譲ることは、会社の経営権を譲るのと同じ意味を持ちます。そうすると「相続税は少なくしたいが、会社の経営権は渡したくない」というジレンマが発生します。そこで「株式の名義は親族などに書き換えるが、経営に口出しをさせないようにしよう」と考えるのです。

この状態で相続が発生した場合、妻や子ども名義になっている株式にも、経営者の財産として相続税が課税されます。このとき問題視されるのが「妻や子ども名義の株式は、果たして誰のものなのか」ということです。

株式の名義は妻や子どもであっても、真実の所有者は経営者から変わっていません。相続税が課税される財産は、名義が誰であるかは関係なく、真実の所有者に課税されます。

このように、名義人と真実の所有者が異なっている株式のことを「名義株」といいます。ほかの人の名前の株式でも、実質的には亡くなった人の株式と認定された場合には、相続税の対象となり、多額の追徴課税を要求されます。税務調査では、このようなケースが非常に多いのです。

「名義株で追徴課税」を防ぐ、4つのチェックポイント

経営者に相続が発生すると、非常に高い確率で相続税の税務調査が行われます。前述の通り、税務調査が入れば8割以上が追徴課税となり、多くの場合、名義株が指摘されます。その額が何億円、ということも珍しくありません。そこで、このような事態を防止するために、4つのチェックポイントを確認しておきましょう。

ポイント1 配当金の受取状況

配当金を出している会社であれば、その配当金を株主が受け取っているかチェックされます。たとえば、株式の名義人は妻なのに、実際の配当金は夫の預金口座に入金されているような場合、名義株と認定される恐れがあります。

配当金は必ずその名義人の預金口座に入金することや、配当金の受領書には直筆でサインをさせて、それをしっかりと保存しておくことを徹底しておきましょう。

ポイント2 取締役会の議事録

会社の株主が変わるときは、原則として、取締役会の承認が必要です。当然、会社の株式を贈与するときにも承認が必要ですが、この時の議事録を見せるよう税務署からいわれます。中小企業の場合、議事録を作っていない会社が多く、議事録がないと名義株と認定されるリスクが高まります。

ポイント3 株式の入手ルート

たとえば、妻名義の株式があったとしましょう。税務調査では、どの株式をどのように手に入れたのか、下記のような質問がされます。入手ルートが明確でないと判断されれば、名義株と認定されてしまいます。

・贈与で取得したのであれば、贈与契約書はあるか?
・その当時、贈与税の申告はしたか?
・買い取ったのであれば、売買契約書はあるか?
・売った側は、所得税の申告はしたか?
・売却代金を支払ったか?
・出資したのであれば、いくら出資したのか?
・そのお金は自分で用意したのか?
・その当時それだけの資産をもっていたか?

ポイント4 株主としての自覚

税務調査官から「自分がいつから株主になっていたかご存知ですか?」と質問され、「実はわからないんですよ。いつの間にか株主になっていました」と応える――。これが典型的な名義株のパターンです。

経営者が110万円の範囲内で子どもに贈与しているように見せかけ、勝手に株式の名義を子どもたちに書き換えているケースが多くみられます。

子どもたちからすると、知らない間に株主になっていた、という状態になるので、そのような場合、名義株と認定されます。

名義株は、会社の顧問税理士でさえもしっかりと見ていないケースが散見されます。名義株の問題がクリアになっていない状態で事業承継を進めても、いざ相続が発生した際に、すべてがひっくり返されてしまいます。

今後、事業承継を進めるのであれば、名義株と認定されるリスクが少しでもないか、徹底的に確認しておくことが重要です。

著者

橘 慶太

円満相続税理士法人 代表 税理士

大学受験の失敗から一念発起し税理士を志す。大学在学中に税理士試験に4科目合格(法人税法の公開模試では全国1位)し、大学卒業前から国内最大手の税理士法人に正社員として入社する。 勤務税理士時代は相続専門の部署で6年間、相続税に専念。これまで手掛けた相続税申告は、上場企業の創業家や芸能人を含め、通算400件以上。また、銀行や証券会社を中心に、年間130回以上の相続税セミナーの講師を務め、27歳という若さで管理職に抜擢される。 2017年1月に独立開業し、現在6名の相続専門税理士が在籍する円満相続税理士法人の代表を務める。週刊ポストや日本経済新聞、幻冬舎、女性自身など、様々メディアから取材を受けている。また、自身で運営しているYouTubeのチャンネル登録者は4万人を超えており、相続分野では日本一のチャンネルに成長している。
円満相続税理士法人:https://osd-souzoku.jp/

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