自己株式取得の税負担を軽減する「みなし配当課税の特例」とは?
~中小企業経営者のための事業承継の豆知識[第8回]

事業承継を検討するにあたり、経営に関与していない株主から株式を集約するためであったり、会社の創業者としての利益を確定させたりするために、株式をその発行会社に買い取ってもらうことがあります。

発行会社からみると、この行為を「自己株式の取得」といいますが、ここには多額の税金負担が発生します。

今回、自己株式の取得にまつわる税金まわりと、税負担を軽くする特例について説明していきます。

※記事は2020年8月31日時点での情報により構成しています。

なぜ自己株式の取得には、多額の税負担が発生するのか

自己株式を取得するにあたり、株主に払う金銭は、一部は資本金の払い戻し、一部は会社が蓄積してきた利益の分配と考えます。このうち利益の分配と扱われる金額については、当該株主が配当金を受け取ったものとみなされ、所得税(住民税を含む)が課税されます。

「配当金にかかる所得税は20%」と知られていますが、それは上場企業から支払われる配当金のことです。上場していない会社から受け取る配当金は、総合課税として最大で55%近くの税金がかかります。

たとえば、会社の資本金が1,000万円、会社の利益積立金が9,000万円、純資産合計が1億円の会社があったとします。この会社が発行している株式は合計100株で、すべて創業者が持っていたとしましょう。ある時、創業者は会社に対して50株分の株式を5,000万円で買い取ってもらうことにしました。この時、創業者が会社からもらう5,000万円は、500万円が資本金の払戻し、4,500万円が、会社が蓄積した利益の分配と考えます。

利益の分配とされる金額は、配当金とみなされて総合課税の対象となるため、非常に大きな税金の負担が発生します。これを「みなし配当課税」といいます。このような現象が起こるため、安易に自己株取得を検討していると、金銭を受け取る株主側では多額の税負担が発生してしまうのです。

そこで本来、総合課税されてしまう自社株式の買い取りの際の税負担を軽くしてくれる特例があるのです。

相続で取得した株式を、発行会社に譲渡した場合の特例とは

「みなし配当課税の特例」と呼ばれるその特例は、簡単に言うと「株式を相続した人が、相続が発生してから3年10カ月以内にその株式を発行会社に売却した場合には、(本来、総合課税されるところ)20%だけの課税にする」というものです。

先ほど説明した通り、本来、自己株式の取得をした場合には、配当金とみなされた金額には最大で55%近くの税金がかかります。会社から株主に払うお金は同じ金額でも、かたや55%の税金、かたや20%の税金となるわけです。この差は、とてつもなく大きいものです。

たとえば、ある経営者がいました。この方には長男と長女、2人の子どもがいて、将来、長男に会社を継がせようと考えています。そして経営者が持っている会社の株価は10億円で、ほかの資産は1,000万円くらいしかなかったとします。

株式10億円は長男に、そのほかの資産1,000万円を長女に相続させるのでは、あまりにもバランスが取れません。そこで経営者は長女にも5億円の資産を残してあげようと、会社の株式を5億円分、自分の会社に売却して現金に変えました。しかし翌年の確定申告で所得税と住民税が約2億5000万円もかかることに……。結局、長女には税金を支払ったあとの2億5000万円しか残してあげることができませんでした。

そこで前述の特例がでてきます。経営者の生前中に自社株買い取りを実施せずに、長女に株式5億円分を相続させます。そして株式を相続した長女は、3年10カ月以内に株式を会社に買い取ってもらいます。この場合には、長女にかかる所得税は20%になるため、1億円だけの納税で済みます。生前中に自社株買いをした場合には2億5,000万円だった税金が、相続後であれば1億円で済むというわけです。

「みなし配当課税の特例」にリスクはないのか?

前述の事例では、非常に大きな税金対策となりましたが、①株式の半分を長女に相続させた後に、長女が自身を経営者にするよう主張する ②長女が買取り金額に納得ができないと主張する というような危険性もはらんでいます。

①のリスクは、生前中に会社の株式を無議決権株式に変更するなど、種類株を導入すればクリアできますが、②は種類株を導入してもリスクを完全に失くすことはできません。

強い信頼関係のある家族であればおすすめできる方法ですが、揉める可能性が少しでもあるのであれば、税金対策だけで相続後の自己株式の取得を計画するのは、止めておいたほうが無難かもしれません。

またこの特例には「配偶者が株式を相続した場合には、配偶者はこの特例が使えない可能性が高い」という大きな落とし穴もあります。

なぜなら、この特例は、「相続税が課税された人」がその株式を発行会社に売却した場合に使える特例だからです。

相続税の基礎控除を超える金額の財産を持っている人が亡くなった場合には、その相続人には相続税が課税されます。しかし夫婦間の相続は、最低でも1億6,000万円まで相続税が課税されない「配偶者の税額軽減」という特例があるのです。

この特例があるため、配偶者には相続税が課税されないケースが非常に多いのです。そのため、配偶者が株式を相続した場合、3年10カ月以内に株式を会社に売却しても「みなし配当課税の特例」を使うことはできずに、総合課税になってしまうのです。

みなし配当課税の特例を使う場合には、自社株買いをする日までに「みなし配当課税の特例に関する届出書」を、その会社に提出しなければいけません。提出を受けた会社は、その年の翌年の1月31日までに所轄の税務署に提出します。

また相続後3年10カ月以内に、相続したものを売却した場合には「取得費加算の特例」という別の特例も使うことが可能です。この特例は株式だけでなく、相続した不動産などにも使えます。また「取得費加算の特例」と「みなし配当課税の特例」は、どちらも併用することが可能です。

著者

円満相続税理士法人 代表 税理士橘 慶太

大学受験の失敗から一念発起し税理士を志す。大学在学中に税理士試験に4科目合格(法人税法の公開模試では全国1位)し、大学卒業前から国内最大手の税理士法人に正社員として入社する。
勤務税理士時代は相続専門の部署で6年間、相続税に専念。これまで手掛けた相続税申告は、上場企業の創業家や芸能人を含め、通算400件以上。また、銀行や証券会社を中心に、年間130回以上の相続税セミナーの講師を務め、27歳という若さで管理職に抜擢される。
2017年1月に独立開業し、現在6名の相続専門税理士が在籍する円満相続税理士法人の代表を務める。週刊ポストや日本経済新聞、幻冬舎、女性自身など、様々メディアから取材を受けている。また、自身で運営しているYouTubeのチャンネル登録者は4万人を超えており、相続分野では日本一のチャンネルに成長している。
円満相続税理士法人:https://osd-souzoku.jp/

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