SDGsを見据えた地球にも企業にも優しい「省エネ再エネ高度化投資促進税制」~経営者のための「中小企業税制」の基礎知識[第9回]

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最近、毎年のように大雨や台風、猛暑、暖冬といった異常気象が続いています。異常気象は建物や設備の損傷、浸水などの直接的な被害だけでなく、サプライチェーンの途絶や需要の減少など様々な形で、中小企業の経営にも大きな影響を与えます。

異常気象の大きな原因とされているのが地球温暖化です。中小企業も自らの経営課題として地球温暖化と向き合っていくべき時代が訪れています。

温暖化の現状と企業経営への影響

史上最強クラスの台風、記録的な大雨や高温など異常気象は、日本だけでなく世界各地で発生しています。

世界気象機関 (WMO)によると、こうした異常気象の頻発は長期的な地球温暖化の傾向と一致しているそうです。

1988年に設立された「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」では、これまで5回にわたって気候変動についての科学的知見の評価を行い、報告書としてとりまとめています。また、2018年の総会において「1.5℃特別報告書(正式名称「気候変動の脅威への世界的な対応の強化、持続可能な発展及び貧困撲滅の文脈において工業化以前の水準から1.5℃の気温上昇にかかる影響や関連する地球全体での温室効果ガス(GHG)排出経路に関する特別報告書」)」を公表しています。

この報告書では、世界の平均気温が2017年時点で工業化以前と比較して約1℃上昇し、現在の度合いで増加し続けると2030年から2052年までの間に平均気温が1.5℃まで上昇する可能性が高いこと、1.5°C上昇の場合と2°C上昇の場合では生じる影響に違いがあること、将来の平均気温上昇が1.5℃を大きく超えないようにするためには2050年前後に世界のCO2排出量が正味ゼロとなっている必要があること、そのためには低炭素社会への移行(transitions)が前提になることなどが示されました。

こうした気候変動による物理的な影響や社会全体の低炭素化は、企業にとって大きなリスクとなる可能性がある一方、前向きに取り組むことでチャンスとなる可能性も出てきます。

今後、異常気象に備えて事業の持続可能性を高めるとともに、気候変動対応に関連した製品やサービスを開発、販売する「適応ビジネス」が広がっていくと予想されています。自然災害の検知・予測システム、暑熱対策の技術や製品、節水・雨水の利用技術などはその一例です。

省エネのメリットと具体的な方法

中小企業における気候変動への対応として、もっとも身近ですぐ取り組めるのは、省エネルギー(以下、省エネ)対策でしょう。

省エネとは、電気、燃料、水道などの消費を抑えることであり、そのまま電気料金、燃料料金、水道料金などの経費削減につながります。

現在、エネルギーコストは電気料金の値上げや再生可能エネルギーの賦課金で上昇しつつあり、今後も地球温暖化対策税の導入や原油価格の上昇などでさらに高くなる可能性があります。

そうした中、省エネ対策によるコスト削減は、利益改善に直結します。例えば、年商1億円、営業利益率4%の中小企業において、年間のエネルギーコストが30万円削減できたとすると、30万円÷4%=750万円となり、売上高を750万円増やすのと同じ効果があるのです。

省エネを効果的に進めるためには、まず現状でどのくらいエネルギーを使っているのか、しっかりと把握することが何より重要です。例えば、受電盤に取り付けて事業所の電力使用量を常時監視し記録する「デマンド監視装置」を使うと、電力の時間的な推移を把握でき、無駄の発見や効果的な省エネ対策の立案、その効果の確認などがスムーズに行えます。

導入しやすい対策としては、LEDの導入など照明設備の見直しがあります。そもそも日本は世界的にみても照度基準がかなり明るく、それに慣れ過ぎている傾向があります。したがって東京都では、事務所の机上照度を500ルクス以下にすることを推奨しています。照明を間引いたり、空室や不要な場所でこまめに消灯することなどはすぐに導入できるでしょう。

エアコンなどの空調は、夏と冬のエネルギー消費を増やす原因です。冷暖房の設定温度を1度緩和すると、空調の消費エネルギーは約10%削減できると言われており、東京都では夏は28度、冬は20度を目安に、それを上(下)まわらないよう調整することを推奨しています。エアコンのフィルターや室外機のファンを定期的に掃除することも、消費電力の削減につながります。

事務所で意外に電力を消費するのがパソコンや複合機などのOA機器です。長時間使用しない場合は電源をオフにしたり、待機電力の消費を防ぐためコンセントからプラグを抜いたりすると良いでしょう。スイッチ付きテーブルタップを使うことも有効とされています。なお、パソコンは1時間半以内であれば、電源をオフにするよりはスリープ状態のほうが省エネになるそうです。

そのほか、温水便座の設定温度管理(冬以外は便座のヒータースイッチを「切」にするなど)、漏水のチェックや節水器の採用など、ひとつひとつは小さな取り組みであっても、積み重なれば大きな効果となります。

なお、東京都では事業所向けの「賢い節電」7か条として次のようなポイントを挙げています。

1 500ルクス以下を徹底し、無駄を排除、照明照度の見直しを定着化

2 夏季は「実際の室温で28℃」を目安に、それを上回らないように上手に節電

3 OA機器の省エネモード設定を徹底

4 電力の「見える化」で、効果を共有しながら、みんなで実践(「デマンド監視装置」で最大使用電力を把握)

5 執務室等の環境に影響を与えず、機器の効率アップで省エネを

6 エレベーターの停止など効果が小さく負担が大きい取り組みは、原則的に実施しない

7 電力需要のひっ迫が予告された時に追加実施する取り組みを事前に計画化

中小企業の取り組みを支援する制度

国や自治体では、省エネについての中小企業の取り組みを支援するため、様々な制度を設けています。

ひとつは、国の「省エネ再エネ高度化投資促進税制」です。これは、2030 年度のエネルギーミックス実現に向け、省エネ法の規制対象事業者等を対象とした、大規模又は複数事業者の連携による高度な省エネ投資や、再エネの自立化・長期安定化に資する投資を促進する税制により、エネルギー利用の最適化・自給率向上を図ることを目的に創設されました。

その中で省エネについては、①生産設備等を対象とする大規模な省エネ投資(産業用ヒートポンプやコジェネレーションシステムの導入など)、②IoT等を活用し個社の枠を超えて複数事業者が連携する高度な省エネ投資(製造工程の統合・集約や物流拠点の共同化/共同輸配送など)に対して、特別償却 30%又は税額控除7%(中小企業のみ)の税額控除が受けられる税制措置を新設しました。

従来は2019年度(平成31年度末)までの予定でしたが、省エネについては、2020年度税制改正で令和3年度末まで延長の見込みになっています。

なお、この制度の利用にあたっては、青色申告書を提出していること、省エネ法における特定事業者または特定連鎖化事業者等であり、かつ同法の「事業者クラス分け評価制度」において直近2年度で連続してS評価であることなどの条件があるので注意が必要です。

また、東京都では「中小企業者向け省エネ促進税制」を設けています。都内の中小企業者が、東京都環境局の指定する導入推奨機器を取得した場合、法人事業税・個人事業税を減免するという制度です。

対象設備としては、エアコン・ガスヒートポンプ式冷暖房機、LED照明器具・LED誘導灯器具、小型ボイラー類、太陽光発電システム・太陽熱利用システムなどがあり、国の「省エネ再エネ高度化投資促進税制」と比べると、中小企業にも利用しやすい制度になっています。

省エネに関する税制優遇措置を紹介してきましたが、中小企業が省エネ対策を進めることは、税制面で大きなメリットがあるということだけではありません。省エネ対策を進めることで、業務環境が改善され、経費削減や新しい製品やサービスの開発にもつながるという複合的な視点で考えることが何より大切なことではないでしょうか。

著者

株式会社ボルテックス 100年企業戦略研究所

1社でも多くの100年企業を創出するために。
ボルテックスのシンクタンク『100年企業戦略研究所』は、長寿企業の事業継続性に関する調査・分析をはじめ、「東京」の強みやその将来性について独自の研究を続けています。

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