ポストコロナからの経済回復~大胆な刺激策による「長期停滞」から脱却

世界経済はいま、新型コロナ以前から続く「長期停滞」の最中にあると言えます。この状態から脱却するには、各国政府はいま何を実行しようとしているのでしょう? どんな政策を採るべきなのでしょう? そのヒントとなるのが、いま注目を集めるDXやGX、さらには不動産への投資です。バランスシートが大きく変化しつつある昨今の世界状況を、経済学者である伊藤元重氏に、マクロ経済的な視野でお話いただきました。

コロナ以前への回復から、それ以上の成長へ

2020年に発生した新型コロナによって、世界経済は大きく崩れはじめました。しかし、2021年において世界経済は、コロナ以前のレベルまで着実に回復(リバウンド)しつつあり、それに留まらず、さらなる成長を達成(リカバリー)することが予想されています。

それを裏付けるIMF(国際通貨基金)の経済成長予測(GDP成長率)は、2022年以降、世界全体で6%、アメリカにおいては7%という、非常に高い成長率を想定しています。

そうした数値に影響を与えているのが、バイデン政権の政策です。バイデン政権では20兆円ほどの予算を投じ、コロナ以前の経済的状態へ復興させるだけなく、それ以上の経済発展を画策しつつ、さまざまな政策を開始しています。

再生可能エネルギーや水素社会の実現など、気候変動に対応するための政策が推進されると同時に、デジタル社会へ移行するためのインフラ整備も行われようとしています。また、アメリカにおいてこれから本格的に議論されるものとしては、社会保障や教育など、国民の幸せと利益につながる政策が想定されています。

このようにアメリカでは、新型コロナによる経済的ダメージを凌駕するために、政府が経済活動に強く介入する「大きな政府」を想定し、さまざま政策を実行しているのです。

「長期停滞」からの脱却に味方する「超低金利」

バイデン政権がこうした政策を採る背景には、コロナ以前から続くアメリカ経済における「長期停滞」が影響しています。

ローレンス・サマーズという経済学者をご存じでしょうか? 彼は16歳でハーバード大学に入学し、のちに同学長もつとめ、クリントン政権下では財務長官を務めた人物なのですが、彼はこんな主張をしています。

「長期停滞のなかで低金利な状態にあり、そのため経済が低成長なアメリカにおいては、『供給サイド』を刺激するような大胆な政策が必要である」

単に財政支出をして景気を刺激することが「需要サイド」だとすれば、経済を好転させるには、企業が健全な投資活動を行うなどの「供給サイド」を活性化させ、米国内の生産性や、経済成長率を引き延ばす必要がある、と説いているのです。

いま世界が注目しているのは、気候変動問題に対応することによって経済を促進させるグリーン・トランスフォーメーション「GX」や、すでに世界を席巻しているデジタル・トランスフォーメーション「DX」です。こうした新しい事業に着手することで、アメリカ、強いては世界経済の活性化が実現すると考えられているのです。

そして、それを実行する際、現在のような世界的な「超低金利」な状態であれば、政府が莫大な予算をつぎ込んだとしても、その利子負担、財政負担は軽くなります。つまり、いまこそ大きな改革を推し進める好機だと言えるのです。

こうしたサマーズの思想は現在の米政権に、非常に大きな影響を与えています。財政支出するだけでなく、DXやGXなど新しい産業を育成する……、言い換えれば「財政政策と産業政策の連携」が非常に重要なポイントになるのです。

動きはじめた世界、日本が採るべき大胆な刺激策

欧州でも同じ動きが起きています。ポストコロナの経済活性化のために、EU各国における大胆な財政支出が予定されています。ここでも「グリーン・ディール」(Green Deal)、つまり再生可能エネルギーや、EV(電気自動車)へのシフトを促進するための投資に注目が集まっています。

また、中国ではもっと大きな規模で、EVや半導体をはじめとするデジタル分野に、莫大な資金が投じられようとしています。

では、日本でこうした動きは発生しないのでしょうか? 現在もコロナ禍にあるため、まだ本格的な議論にはなっていませんが、コロナ以前から続く長期停滞から脱却するには、日本政府も大胆な刺激策を採る必要があるでしょう。

日本においては諸外国よりも強い「財政制約」がありますが、それを理由に大胆な刺激策が採れない、と言っている場合ではありません。今後、日本でも必ず、こうした政策が政治における中心的議論になるはずです。

注視すべき金融市場と金利動向

経済が長期停滞にある場合に注視するものとして、「資産価格と実体経済の乖離」が挙げられます。株価や不動産価格などの資産価格が高いのに、実体経済の状態が悪い状況に陥る原因としては「低金利」の影響があります。

もし経済が本当に回復するとすれば、低金利な状態は解消され、「実質金利」、つまり「市場金利」の上昇圧力となるはずです。経済が回復しているのに金利が上がらないという状況はあり得ません。

いま注目が集まる米国のFRBによる金融政策の動向によっては、「名目金利」も上がっていくと思われます。それには米政府による財政政策が大きな影響を与えるでしょう。経済が好転する契機を見逃さないために、私たちはこれらの点に注目する必要があるのです。

不動産投資のタイミング

日本や世界の経済がリバウンド、さらにはリカバリーする局面においては、「不動産投資」に対する視点が重要になってきます。「資産としての不動産」は、株式などと同様な側面を持っています。不動産というものは、社会においても個々人においても、資産として重要な役割を担っています。

しかし、株式や債券とは違って、金利が上昇し、経済が大きく動けば動くほど、「分散投資としての不動産投資の価値」が高まると言えます。つまり、資産価値としてだけではなく、投資価値としての不動産が、より重要な意味を持つわけです。

これからの日本や世界の経済が、「リカバリー」な状態になるとすれば、経済構造そのものが変わってくるはずです。グリーンとデジタルを中心に、社会が大きく変化するわけですから、その際には当然、都市の構造、不動産の価値も変わってくるでしょう。そういう意味においても、不動産に積極的に投資していく時期として、いまはとても面白いタイミングだと思います。

すでにアメリカや欧州では大きな改革が始まっていて、日本もそれに追随すると考えています。しかし、場合によってはリカバリーな状態にはならず、リバウンドで終わってしまうかもしれません。日本はまだコロナ禍にあり、厳しい状況が続いていますが、私たちはいましばらくの間、経済政策や経済動向を注視し、その行方を見届ける必要があるのです。

お話を聞いた方

経済学者/東京大学名誉教授、学習院大学国際社会科学部教授 伊藤 元重

1951年生まれ。静岡県静岡市生まれ。経済学者。専門は国際経済学、ミクロ経済学。東京大学経済学部卒業。ロチェスター大学大学院経済学部博士課程修了、同大学院にて経済学博士号(Ph.D.)取得。東京大学名誉教授。学習院大学国際社会科学部教授。復興庁復興推進委員会委員長。主な著書に『ネットニュースではわからない本当の日本経済入門』(2021年)、『伊藤元重が警告する日本の未来』(2017年)、『東大名物教授がゼミで教えている人生で大切なこと』(2014年)(以上はすべて東洋経済新報社)。『ビジネス・エコノミクス』(2021年、日本経済新聞社)、『入門経済学』(2015年、日本評論社)など。テレビ東京「ワールドビジネスサテライト」におけるコメンテーターなど、各メディアにも多数出演。