地方企業がやるべき持続可能なビジネス戦略
〜過疎の時代を生き抜く持続可能なまちづくり〜

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高齢化と人口減少が進むなか、将来の消滅が懸念される「限界集落」が増えています。さびれていく地方都市は、どのようなまちづくりに取り組むべきなのか、長岡市(新潟県)で活性化構想に取り組む長岡造形大学教授の渡邉誠介氏にお聞きしました。

限界集落で急速に増える「デジタル住民」

いま、長岡市(新潟県)の山古志地区で取り組んでいる「仮想山古志プロジェクト」が、DX時代の新しいまちおこしとして、海外からも注目されています。

2005年に長岡市に編入合併されるまで「山古志村」だった同地区は、錦鯉の発祥地として知られます。また、美しい棚田や「牛の角突き」と呼ばれる闘牛など、観光資源に恵まれた特徴的な地域ですが、2004年の新潟県中越地震の際、村に通じる道路が寸断されて孤立し、およそ2,100人の全住民が村外への避難を余儀なくされました。

避難指示が解除された後も同地区には1,400人しか戻りませんでした。それからわずか十数年、住民は800人にまで減っています。しかも、その半数以上が65歳以上という典型的な限界集落で、仮想山古志ブロジェクトはまさに集落の存亡をかけた挑戦といえます。

注目すべきは、暗号資産(仮想通貨)に用いられるブロックチェーンという最先端の技術を活用した「デジタル住民」を募っていることです。錦鯉をモチーフにしたアート作品をNFT(改ざんが不可能なデジタルデータ)として発行し、それを購入した人がデジタル住民になるという仕組みです。

2021年12月に発売して以来、約3カ月間でデジタル住民は実際の住民の数を超えました。現実の過疎を食いとめるためにDXをどう活用すべきか、今後は課題も残されているものの、山古志の魅力を若い世代に届けるという意味で、たいへん興味深い活動だと思います。

「工場の祭典」が従業員の意識を変える

長岡市では積極的な姿勢で地域振興に取り組んでおり、私も「摂田屋」という地区のまちおこしに参加しています。

長岡市は、戊辰戦争と太平洋戦争の戦災によって、残念なことに、歴史的な街並みの大半を失ってしまいました。しかし、摂田屋地区は市街地から少し離れていたおかげで延焼をまぬがれました。そのおかげで中世以来、醸造業とともに形成されてきた景観を受け継いでいます。私も学生たちとともに、有力な商人の屋敷や醸造蔵が残る歴史的な街並みを観光資源として役立てようと、勉強会やさまざまなイベントを企画してまちおこしのお手伝いをしてきました。

一方、産学連携によるオープンイノベーションにも取り組んでいます。「米百俵」の土地柄なのか、人口27万人の中都市ながら、長岡市には高等教育機関が5校(4大学、1高専)もあります。NaDeC BASEというコワーキングスペースを拠点に、その恵まれた環境を活かして、地元企業との共同研究や起業支援などを行ってきました。

もともと、私の専門は発展途上国の都市計画で、タイに留学していたころはスラムの路上生活者たちに混じって、まちづくりや住環境の改善にかかわったこともあります。そうした経験もふまえると、まちづくりのポイントは「街と個人の肯定感をいかに高めるか」、にあるような気がしています。さらにいえば、街だけでも、個人だけでもなく、地域とその構成員としての自分自身を肯定すること。これこそがみんなの幸福につながる。そう気づく人が増えれば、まちづくりは望ましい形になるのではないでしょうか。

地元の食材を購入するのもいい例です。たとえば、地元経済がいかに潤い、自治体の税収もどの程度増えるのか。そこが「見える化」されれば、地産地消にも手応えが感じられます。個人の自己肯定感も高まり、積極的に協力してくれるようになるでしょう。

また、地域通貨を発行し、現状ではボランティアに頼っている仕事に報酬が支払われるようにするのも一案です。放置された空き家の掃除をしたら1,000円分の地域通貨が支払われて、その1,000円で市内のどの食堂でも昼ごはんが食べられる。こんな仕組みも地域と個人の肯定感を高めるのに有効です。ただし、貢献に対する対価が適正でないと長くは続かないでしょう。

もちろん、企業の役割も小さくありません。ワークライフバランスに配慮して、子育て世代の従業員が働きやすい環境を整備する、DXによって生産性を高めるなど、経営者の決断しだいで人材の流出を食いとめることはできます。

実際、長岡市のサカタ製作所という建築金具メーカーは、従業員150名ほどの中堅企業でありながら、育児休暇の取得率は100パーセントだそうです。こうした会社が増えれば、地元での就職が現実的な選択肢の一つになり得るのではないでしょうか。

また、長岡市の隣の三条市で行われている「燕三条 工場の祭典」は、従業員が地域の一員であることを自覚するうえでも、意義深い取り組みです。

これは、金属加工業の集積地として知られる三条市と燕市および周辺地区の工場見学イベントで、2013年に始まってから規模が拡大し、コロナ禍の直前には参加工場が113工場に増えて、来場者ものべ5万6,000人を数えるまでになりました。

かつて製造現場は3Kといわれて若者に敬遠されてきましたが、見学者のなかには「こういう職場で働いてみたい」と思う子どもも増えてくるでしょう。また、部外者の視線が従業員によい刺激を与えるという副次的効果もあります。地元の若い世代に対してオフィスや工場を開放し、将来の就職先候補として自社を認知してもらう意味は小さくないと思います。

ビジネスチャンスは田舎にこそある

まちづくりには、おそらく数学のような定理や公式はありません。近江八幡市(滋賀県)のように、強力なリーダーシップが観光まちおこしを成功させることもあれば、小布施町(長野県)のように、行政との緊密な連携によって住民の意識が変わっていく例もあります。いずれにせよ、当事者である住民が楽しみながら、ゆっくりと時間をかけて郷土愛を深めていくような取り組みが望ましいのではないでしょうか。

地方には自然も残されていて、その気にさえなれば、都市生活では決して味わえない精神的なゆとりを感じながら暮らすことができます。私の同僚にも野菜づくりを楽しむアメリカ出身の教員がいます。彼は、家族では食べきれないからと、収穫の時期になると大量の野菜を差し入れてくれます。仕事を終えて子どもとキャンプに出かけたり、自宅の庭で友人たちとバーベキューを楽しむなど、都会で暮らす人があこがれるような人間らしい生活も、地方の街は実現しやすいのです。

コロナ禍以降、働き方は変わりつつあります。むしろ、地方で暮らすことのほうが贅沢なのではないか、と感じる人が増えているのではないでしょうか。ビジネスチャンスは田舎にこそある、という時代が目の前まできているのかもしれません。

お話を聞いた方

渡邉 誠介 氏わたなべ せいすけ

長岡造形大学教授

1963年生まれ。東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻博士課程修了。JICA派遣専門家などを経て、現職。専門は発展途上国の都市計画理論、地方中小都市の中心市街地活性化、観光とまちおこし。長岡市のNaDeC構想推進コンソーシアム運営委員長も務める。

[編集]一般社団法人100年企業戦略研究所
[企画・制作協力]東洋経済新報社ブランドスタジオ

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