100年企業レポート vol.06 鳥取編
目次
はじめに
日本は創業100年を超える長寿企業(本レポートでは『100年企業』と呼ぶ)が世界で最も多い国である。その理由や影響を与える要素が何であるかを探ることを、本研究のテーマにした。そして各都道府県の100年企業の特性や傾向を明らかにし、100年企業を創出しやすい環境や要因について分析を行うことが本研究の目的である。
1.鳥取県の100年企業に関する分析
南北2.4km、東西16km、最大高低差90m。広大な鳥取砂丘を有する鳥取県は、豊かな自然に囲まれている。自然に恵まれた環境の中で、二十世紀梨などの農産物が生産され、新鮮な海産物が水揚げされている。
また鳥取県では一次産業だけでなく、氷温技術などの独自の風土と天然資源を活用した最先端技術の開発により、付加価値の高い産業が発展したのである。
鳥取県の100年企業数は、229社であり、全国44位である。
250年以上前に鳥取県に伝えられた絣織りは、現在においてもその技術が根付いている。そのなかでも「倉吉絣(くらよしかすり)」「弓浜絣(ゆみはまかすり)」が有名である。
花、鳥、人名など日常生活に関連した柄が多く、藍色の地に白色の絣柄が特徴である絣織物は、江戸末期から大正時代にかけてさかんに作られ、農家の女性の手で絵絣が織られるようになった。
本レポートでは、100年企業数に相関の高い指標別にレーダーチャートを用いて、鳥取県の特性を分析した。
働き世代が少ない一方、女性就業に力を入れることで
有効求人倍率は平均を上回る
鳥取県は日本一人口が少ない県であり、働き世代(生産年齢人口数)と働き先(事業所数)も最も少ない。しかしこうした厳しい環境を背景に、女性就業率が全国4位と高く、有効求人倍率も平均を上回る等、県一丸となって社会的課題に取り組む姿勢が感じられる。そのような県民性が100年企業輩出率の高さにも表れていると言っても良いだろう。今後ますます加速する高齢化に対する相続対策や事業承継対策も県全体で取り組むと良いのではないだろうか。
2.鳥取県の100年企業データ
①創業年は『明治後期』が最多
創業年の時代別では、最多が『明治後期』の構成比46.5%であった。次いで『大正以降』の23.5%、『明治前期』の18.0%、『江戸時代』の12.0%の順である。
明治以前は酒造や旅館が多い。明治になると、殖産興業政策により繊維産業を中心に製造業や建築工事などの建設業も多くなり、産業近代化が進んだ。大正時代以降は、建設業、卸売・小売業、サービス業など様々な業種の企業が創業した。
②創業年TOP5
鳥取県の創業年TOP5は下記の5社である。
第1位の株式会社明石家は、全国で167位となっている。
③市町村別は『鳥取市』が最多
市町村別100年企業数では鳥取市が67社で最多であった。
1 位の鳥取市では、『内装工事業』が4 社と最も多く、次いで『生菓子製造業』、『酒類卸売業』、『婦人服小売業』、『旅館・ホテル』、『ガソリンスタンド』が各2 社であった。
2 位の米子市は、100 年企業数55 社であり、業種別に見ると『造園工事業』、『土木工事業』、『輸送用機械器具卸売業』、『その他の建築材料卸売業』、『呉服・服地小売業』、『男子服小売業』、『婦人服小売業』、『貸事務所業』の8 業種が各2 社である。
3 位の倉吉市は、100 年企業数32 社であり、業種別に見ると『呉服・服地小売業』、『他に分類されないその他の小売業』、『一般病院』の3 業種が各2 社である。
④産業は『卸売・小売業』が最多
産業別では、『卸売・小売業、飲食店』が119社(構成比52.0%)と最も多かった。次いで、『製造業』47社(同20.5%)、『サービス業』27社(同11.8%)の順である。
最も多い『卸売・小売業』については、呉服や婦人服などの衣服関連が多い。これは文明開化とともに紡績業の近代化が進み、明治から大正時代にかけて鳥取県に多くの製糸工業が創業したためと考えられる。
二十世紀梨に代表される農業や松葉ガニをはじめとする水産業などの一次産業が盛んな鳥取県だが、100年企業で見るとあまり見受けられないことがわかる。
⑤業種は『旅館・ホテル』が最多
業種別では、『旅館・ホテル』が11社で最多であり、次いで『清酒製造』が9社であった。100年企業輩出率の高い鳥取県では、古くから定着している業種が上位を占めている。
一方、『ガソリンスタンド』や『貸事務所業』については、もともと本業ではなかったが、時代の変化に対応していき業態変化をしたと思われる。そのような柔軟な対応をしてきた企業も比較的多いようである。
⑥資本金は『卸売・小売業』が上位
資本金別では、『1千万円以上~5千万円未満』が構成比42.0%と最も多かった。次いで、『1千万円未満』が35.0%、『5千万円以上~1億円未満』が5.0%の順である。
資本金トップは倉吉信用金庫(業種:信用金庫)が6.5億円。以下、株式会社德田商店(業種:その他の食料・飲料卸売業)が2.1億円、永瀬石油株式会社(業種:ガソリンスタンド)と米子製鋼株式会社(業種:鋳鋼製造業)が1億円の順であった。上位10社のうち7社が卸売・小売業であった。
⑦従業員数は『10人未満』が5割超え
従業員別では、『10~49人』が構成比35.5%と最も多かった。次いで、『4人以下』が28.0%、『5~9人』が27.5%の順である。10人未満で5割を超える。
鳥取県の100年企業の多くは小規模企業であり、500人を超える企業は無かった。公益社団法人鳥取県中部医師会が従業員200人を超え、最多であった。
⑧売上高は『1億円以上~10億円未満』が最多
売上高別では、『1億円以上~10億円未満』が構成比47.0%と最も多かった。次いで、『1億円未満』が42.5%、『10億円以上~100億円未満』が10.0%の順である。
売上高上位10社のうち、卸売・小売業が8社と最多であった。
⑨本業以外に貸事務所業を行っている企業は1社
鳥取県で本業もしくは副業にて不動産業を行っている企業は11社であり、構成比では全国27位となっている。
そのうち、本業以外に貸事務所業を行っている企業は1社存在しており、上場企業は0社であった。
貸事務所業との組み合わせは、『ガソリンスタンド』(1社)のみであり、本業以外で貸事務所業を行っている企業は少ない。
データについて
・本レポートにおいて、創業100年以上経過した企業を『100年企業』と定義する。
・本レポートでは、信用調査機関の企業データから、創業年が1919年(大正8年)以前の企業を抽出した。
※創業年について
創業年が「○○年間」等のように元号もしくは時代のみ判明している場合は、その元号もしくは時代の最終年を創業年としている。ただし、江戸時代は前・中・後期に分けている。
※対象企業について
営利企業を中心としているが、非営利団体(学校、病院など)も含む。ただし、宗教法人は除いている。
※クラスター分類について
・本レポートの全国編にて、47 都道府県を7 クラスターに分類している。各クラスターについての詳細は全国編参照。
※本レポート記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本レポートは情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものでもありません。
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著者
株式会社ボルテックス 100年企業戦略研究所
1社でも多くの100年企業を創出するために。
ボルテックスのシンクタンク『100年企業戦略研究所』は、長寿企業の事業継続性に関する調査・分析をはじめ、「東京」の強みやその将来性について独自の研究を続けています。