100年企業レポートvol.11 大阪編
目次
はじめに
日本は創業100年を超える長寿企業(本レポートでは『100年企業』と呼ぶ)が世界で最も多い国である。その理由や影響を与える要素が何であるかを探ることを、本研究のテーマにした。そして各都道府県の100年企業の特性や傾向を明らかにし、100年企業を創出しやすい環境や要因について分析を行うことが本研究の目的である。
1.大阪府の100年企業に関する分析
瀬戸内海や大阪湾に向かって流れる川が合流する地点にある大阪は、古くから日本の政治や経済の中心地として栄えてきた。江戸時代になり、政治の中心は東京に移ったが、大阪は「天下の台所」と呼ばれ、全国の経済や物流を取り仕切る商業の中心地として重要な役割を果たしていた。
大阪府の100年企業数は、1,909社であり、全国2位である。
江戸時代以降、大阪では伝統文化から派生した浄瑠璃(人形劇)や能楽堂など大阪独自の歌舞伎町民を中心とした文化が成熟した。また、懐徳堂や適塾といった私塾の学問も広まった。こうした文化や学問の発展は、開放的な気風や旺盛な企業家精神を生み出し、大阪の経済成長につながっているのである。
本レポートでは、100年企業数に相関の高い指標別にレーダーチャートを用いて、大阪府の特性を分析した。
商業地平均価格を含む3指標において
平均を大きく上回る
古くから商業が発展し、有名な100年企業が多い大阪府は、事業所数と商業地平均価格は東京に次ぐ全国2位であり、働き世代(生産年齢人口数)も多い。面積は全国で2番目に小さいが、名実ともに西日本の経済の中心地となっている。
一方、全国平均と比べて失業率が高いことや、女性の就業率が低いなどの雇用環境の改善が課題であるが、自治体の取組みにより、徐々に改善が見られている。
2.大阪府の100年企業データ
①創業年は『明治後期』が最多
創業年の時代別では、最多が『明治後期』の構成比40.0%であった。次いで『大正以降』の36.1%、『明治前期』の15.9%、『江戸時代』の7.6%の順である。
江戸時代は天下の台所と呼ばれ商業が盛んであり、金物、味噌や乾物などの食品や医薬品など日用品の卸売りが多かった。明治以降は、商業機能に加えて近代工業が発展し、建築工事業や機械金属や化学製品の卸売りなどが増えた。また、近代都市化が進んだことにより、貸事務所業などの不動産業も増えたのだと考えられる。
②創業年TOP5
大阪府の創業年TOP5は下記の5社である。
第1位の株式会社金剛組は、全国でも1位となっている。
③市町村別は『大阪市』が最多
市町村別100年企業数では大阪市が1,396社で最多であった。大阪市をさらに区別で見ると、中央区(409社)、北区(160社)、西区(149社)の順である。
1位の大阪市では、『他に分類されないその他の卸売業』と『貸事務所業』がそれぞれ39社と最も多く、次いで『その他の化学製品卸売業』が38社である。
2位の堺市は、100年企業数132社であり、業種別に見ると『利器工匠具・手道具製造業』、『一般貨物自動車運送業』、『その他の建築材料卸売業』の3業種がそれぞれ5社である。
3位の東大阪市は、100年企業数113社であり、業種別に見ると『その他の産業機械器具卸売業』が5社と最も多く、次いで『金物卸売業』が4社、『伸線業』、『ボルト・ナット・ねじ等製造業』、『貸家業』の3業種がそれぞれ3社である。
④産業は4産業で全国2位
産業別では、『卸売・小売業、飲食店』が792社(構成比41.5%)と最も多かった。次いで、『製造業』647社(同33.9%)、『建設業』152社(同8.0%)の順である。
大阪府は、「天下の台所」と呼ばれ、日本全国の物流が集中する経済・商業の中心地として栄えていたため、『卸売・小売業』が古くから盛んであった。現在も大阪府の主要産業として、売上高の大半を占めている。
全国的に見ても、『製造業』、『卸売・小売業、飲食店』、『金融・保険業』、『運輸・通信業』の4産業が東京に次いで全国2位である。
⑤業種は『貸事務所業』が最多
業種別では、『貸事務所業』が70社で最多であった。合わせて『貸家業』(26社)も6位であり、不動産業が盛んな大都市の傾向が顕著である。地価の上昇も影響していると考えられる。
その他上位には、多種多様な卸売業が存在している。中でも近代工業の発展とともに大阪でいち早く発展した繊維・衣服関連産業、明治以降に工業都市としての大阪を支えた機械金属関連産業、そして商業地として人々の生活を支える日用品関連産業は大阪で古くから続く地場産業であり、今も大阪の経済を支えているということが分かる。
⑥資本金は『卸売・小売業』が上位
資本金別では、『1千万円以上~5千万円未満』が構成比63.3%と最も多かった。次いで、『5千万円以上~1億円未満』が10.9%、『1億円以上~10億円未満』が8.1%の順である。
資本金トップは株式会社りそな銀行(業種:普通銀行)が2,799億円。以下、パナソニック株式会社(業種:その他の民生用電気機械器具製造業)が2,587億円、大阪瓦斯株式会社(業種:ガス製造工場)が1,321億円の順である。
上位10社のうち純粋持株会社と製造業が各3社、大学が2社である。
⑦従業員数は『10,000人超』が6社
従業員別では、『10~49人』が構成比32.8%と最も多かった。次いで、『4人以下』が23.6%、『5~9人』が16.6%の順である。10人未満は約4割である。
大阪府の100年企業で、従業員10,000人を超える企業は6社あり、日本生命保険相互会社、パナソニック株式会社の2社は従業員50,000人を超える。
⑧売上高は『1億円以上~10億円未満』が最多
売上高別では、『1億円以上~10億円未満』が構成比39.3%と最も多かった。次いで、『1億円未満』が25.0%、『10億円以上~100億円未満』が24.3%の順である。
売上高上位10社のうち、製造業が5社と最も多く、次いで保険業が2社である。
⑨本業以外に貸事務所業を行っている企業は81社
大阪府で本業もしくは副業にて不動産業を行っている企業は165社であり、構成比では全国4位となっている。
そのうち、本業以外に貸事務所業を行っている企業は81社存在しており、上場企業は4社であった。
貸事務所業との組み合わせで多いのは、『純粋持株会社』が6社と最も多く、次いで『時計・眼鏡・光学機械小売業』が5社、『建築工事業』・『織物卸売業』がそれぞれ4社の順である。
データについて
・本レポートにおいて、創業100年以上経過した企業を『100年企業』と定義する。
・本レポートでは、信用調査機関の企業データから、創業年が1919年(大正8年)以前の企業を抽出した。
※創業年について
創業年が「○○年間」等のように元号もしくは時代のみ判明している場合は、その元号もしくは時代の最終年を創業年としている。ただし、江戸時代は前・中・後期に分けている。
※対象企業について
営利企業を中心としているが、非営利団体(学校、病院など)も含む。ただし、宗教法人は除いている。
※クラスター分類について
・本レポートの全国編にて、47 都道府県を7 クラスターに分類している。各クラスターについての詳細は全国編参照。
※本レポート記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本レポートは情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものでもありません。
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著者
株式会社ボルテックス 100年企業戦略研究所
1社でも多くの100年企業を創出するために。
ボルテックスのシンクタンク『100年企業戦略研究所』は、長寿企業の事業継続性に関する調査・分析をはじめ、「東京」の強みやその将来性について独自の研究を続けています。