M&Aを活用した事業承継、そのメリット・デメリット
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※百計オンラインの過去記事(2018/07/19公開)より転載
「少子高齢化で後継者がいない」「国内市場が縮小する中、今後の成長プランが描けない」といった悩みを抱える企業が増えています。また、後継者がいても必ずしも家業を継がねばならないという時代でもなく、事業環境が厳しさを増す中で、親族や従業員に跡を継がせるのは忍びないと考える経営者も多いです。そうした中、事業承継に悩む中小企業のエグジット策としてM&Aが注目されています。主に、売り手側の企業から見たM&Aによる事業承継のメリット・デメリットを見て行きましょう。
M&Aを活用した事業承継のメリット
・後継者問題の解決
廃業を考えた時、長年勤めてくれた従業員の将来や取引先への説明など、経営者の悩みは多いです。また、家業として長く続けてきた事業を自分の代でたたむとなると、先代に申し訳が立たないという方もいるでしょう。その点、M&Aで優良企業に自社の将来を託すことで、最小限の費用で後継者問題を根本的に解決することができます。
・事業継続と拡大が期待できる
M&Aを戦略的に利用して、将来のビジョンを持つ優良企業に自社の未来を託すことで、新たな道が開けることがあります。自社にはない技術力や資本を持っている企業からの支援を得て、海外展開や新規事業への参入、技術開発など、新たな未来が描けるかもしれません。また、不採算部門のみを売却することで、強みとなるコア事業に集中するという選択肢もあります。
・廃業コストがかからない
会社を廃業するには、思った以上にコストがかかります。例えば、設備や在庫の処分費、店舗物件の原状回復費などです。また、廃業に関する手続きや税務の専門家への報酬、従業員の解雇に伴う補償に加えて、経営者自身の生活も考えなくてはなりません。中小企業の場合、廃業後も引き続き、経営者が債務の返済に追われることもあります。
そのため、廃業にかかる費用と、事業譲渡によって得られる代金からM&Aの仲介手数料を差し引いた金額を比べて、M&Aの方が手元に残るものが多いのであれば、M&Aという選択肢を選ぶべきでしょう。
・創業者利益
事業を売却して現金化することで、創業者は利益を得ることができます。年金に頼らずとも、安心して第二の人生を始める資金を得られることは、M&Aで事業承継する大きなメリットです。趣味に没頭しても良いし、売却で得た資金で新しく事業を興すのも良いでしょう。長年にわたり会社を維持・発展させてきた創業者自身も、M&Aによって報われるべきです。
M&Aを活用した事業承継のデメリット
・想定していた価格で事業譲渡できない、買い手が現れない
企業はM&A市場において、「将来的に収益をどれくらい見込めるか」で評価がなされます。現状の業績が良い事業や企業であっても、将来的に頭打ちになるとすれば、企業価値が低く見積もられる可能性があり、想定していた価格で事業譲渡できないことがあります。最悪の場合、会社を売りたくても買い手が見つからないという事態が起きる可能性があります。
・企業統合による社内の混乱
M&Aで会社を譲渡するとなると、従業員に混乱や不安を呼ぶ可能性があります。契約が本格的にまとまるまで、社内や取引先、金融機関にはM&Aを検討していることを伏せておきましょう。
M&Aが決定した場合、社内システムの変更・統合、書類上の手続きなど、各部門の担当者に多くの負担をかけることがあります。スケジュールには余裕をもって臨みましょう。
・従業員の離職
統合にともない、従業員の雇用や労働条件が変更されたり、企業ごとに派閥争いが発生したりした場合、長年勤めていた従業員がモチベーションを失って、離れていく可能性があります。経営者の最後の務めとして、従業員の雇用や労働条件については相手方と十分に話し合うことをおすすめします。
・取引先の反発や契約打ち切り
企業統合や事業売却によって契約条件が変更されたり、担当者が変わったりした場合、長年築き上げてきた取引先の反発を招くことがあります。契約を打ち切られたり、関係が悪化したりすることがないよう、M&Aが決まったら経営者がきちんと取引先に対し、引継ぎをすべきでしょう。
成功するM&Aのために
ここまで、売り手側の企業から見たM&Aによる事業承継のメリット・デメリットを見てきました。M&Aというと、バブル崩壊後の「ハゲタカ」を連想する方も多いかもしれませんが、メリットに比べてデメリットは案外少ないものです。
適切なタイミングでより高く売却するためにも、専門家によるアドバイスを受けることをおすすめします。
著者
株式会社ボルテックス 100年企業戦略研究所
1社でも多くの100年企業を創出するために。
ボルテックスのシンクタンク『100年企業戦略研究所』は、長寿企業の事業継続性に関する調査・分析をはじめ、「東京」の強みやその将来性について独自の研究を続けています。