「そっくりスイーツ」「お祭りで屋台」──創業400年の老舗和菓子店が挑む “新しい地域密着” のカタチとは?

先代から受け継がれる「新しいものづくり」の風土

田久保善彦(以下、田久保):虎屋本舗さんといえば「そっくりスイーツ」が話題です。「たこ焼きにしか見えないシュークリーム」「ざるそばそっくりのモンブラン」など、見ているだけで面白いし、どんな味がするんだろうと食べてみたくなります。400年の歴史を持つ老舗和菓子店という固定観念からは想像できない斬新な商品ですね。

たこ焼きにしか見えないシュークリームとチョコっと餃子

高田海道(以下、高田):父が「創業400年の節目に当たる2020年に事業承継する」と表明したタイミングで、私は東京での仕事を辞めて虎屋に帰ってきました。そのときすでに、「そっくりスイーツ」は毎年一品、新作を出すことになっていて、職人さんたちにとってはそれが当たり前になっていました。

田久保:職人さんたちから「こんな邪道な商品はつくりたくない」というような反発はなかったのでしょうか。

高田:やっぱり当初は「これは和菓子ではない」とか、「のれんに傷がつく」という声が上がったそうです。半分の店長・職人が反対しましたが、31歳の若さで16代当主を継いだ父が自分の信念を貫いたことで、反対する人は店を去っていきました。以来、当社にはチャレンジする文化が形成されていったのです。私が17代目を継承してありがたかったことの一つは、この文化があったことです。
「面白いから、やってみましょう」というのが当社の職人気質です。これは他社にはない当社の特異性だと思います。

田久保:虎屋の優位性は職人のフレキシビリティにあり、というわけですね。

地域性を超えるオンライン時代の顧客

田久保:虎屋本舗さんは、和菓子作り教室を開いたり、地元のお祭りに参加するなど、地域活動を活発にされています。老舗企業に対する地元からの期待もあると思いますが、地域とはどんな関係を結んでいこうとされていますか。

高田:昔から、地元のお客様のことは「五八様」と呼んで大切にしてきました。五×八で四十。「しじゅう(いつも)」お客様になってくださるという意味です。どこまでいっても地元のお客様がすべての基盤になっているのが、お菓子屋の宿命だと思います。
お年寄り世代がお供え物として買ってくださり、現役世代が挨拶の品として買ってくださり、子供世代のためにケーキやスイーツを買ってくださる。このように、世代を超えて人びとに親しまれているのを見ることが、お菓子屋として一番うれしいシーンです。
しかし、今は商品の力だけでお客様をつなぎ止めておくのが難しい時代になりました。

田久保:この地域で事業を行う意味は何か――そのことが問われているわけですね。

高田:そこで、お祭りで屋台を出したり、学校や幼稚園、地域のコミュニティなどでお菓子作り教室を開いたり、地元との絆を深める活動に力を入れています。地方というのは、やはり地元のつながりが強く、共存共栄で成り立っている面があります。こうした活動の積み重ねが地元ブランドを形成する原動力になっていると思いますので、これからも密度を高めていきたいと考えています。

田久保:冷凍技術が発達し、全国どこへでも配送できるようになりました。地元に閉じているだけでは経営が頭打ちになる面もあると思います。エリアについての今後の戦略はいかがですか。

高田:じつは今、オンラインの和菓子教室のニーズが高まっています。首都圏のタワーマンションに住む人たちのグループなど、全国各地にさまざまなコミュニティがあります。
回を重ねると、次第に関係性が密になり、参加者の子どもたちともやり取りができるようになってきます。そこで関係性を築けた方々からは、必ずネットで注文をいただけます。
物理的には距離があっても、オンラインでも継続的にお客様になってくださるのではないかという感触です。

田久保:和菓子教室などで培ってきた地元とのコミュニケーションのやり方が、オンラインでも生かされているわけですね。まさに“新しい地域密着企業”の姿です。

次世代に文化として残せるような菓子作り

田久保:2019年に外務省の「ジャパンSDGsアワード」を受賞されました。これは瀬戸内の離島を回って子供たちに向けた和菓子教室を開催されたことが評価されたものです。
また、定年を75歳に引き上げるなど、高齢者ダイバーシティ経営にも力を入れていらっしゃいます。今、虎屋本舗さんが直面している経営課題や、今後を見据えて取り組まれていることは何ですか。

高田:父は、低迷していた虎屋本舗をヒット商品で立て直しました。ものづくりの企業は、やはりヒット商品ありき、革新的サービスありきではないかと思います。
大事なことは、会社の屋台骨になるほどのヒット商品、革新的サービスを、私の代でも出せるかどうかです。次の世代にも文化として残せるようなお菓子をつくること、それが私の課題です。

田久保:とてもスケールの大きなお話ですが、400年続いた会社を継ぐ重みやプレッシャーをどうとらえていらっしゃいますか。

高田:先日、同世代のソーシャルベンチャーの人たちと対話をする機会がありました。彼らの話を聞いて、われわれ中小企業とはスピード感が違うし、とっているリスクにも大きな差があるのを感じました。
ゼロから価値を生み出していく彼らからすれば、既存の価値をこれほど持っていることは、とてもうらやましいと思うはずです。都市圏のベンチャーと比べれば、われわれが置かれている境遇は全然苦労ではないなと思いました。

田久保:「ここだけは変えない、変えてはいけない」という点はあるのですか。

高田:「変えてはいけない」というところは、それほどないと思いますが、
「餡のレシピだけは変えるな」とも言われています。あと、和菓子屋が一番やってはいけないことは、「のし」の間違いです。お供え物の「のし」は、お客様の「顔」と同じです。ですから絶対に間違いがあってはならない。ここだけはデジタルにせず、いまだに手書きです。

田久保:長寿企業には、必ずそのような「伝説」がありますね。現代的な会社に欠けているのはそこだと思います。伝えなければならない「何か」が抜けていく。
それが伝承されているところはさすがです。400年の長寿の一因を見せていただいたような気がしました。

お話を聞いた方

高田 海道 氏 株式会社虎屋本舗 第十七代当主 代表取締役社長

早稲田大学政治経済学部卒業、グロービス経営大学院にてMBA(経営学修士)取得。不動産会社勤務、参議院議員秘書を経て、2013年地元広島県福山市の株式会社虎屋本舗へ入社。2021年には創業401年を迎え、東京オリンピック聖火ランナーを機に第十七代当主として就任。

田久保 善彦 氏 グロービス経営大学院 経営研究科 研究科長、学校法人グロービス経営大学院 常務理事

慶應義塾大学理工学部卒業、学士(工学)、修士(工学)、博士(学術)。スイスIMD PEDコース修了。株式会社三菱総合研究所を経て現職。経済同友会幹事、経済同友会・規制制度改革委員会副委員長(2019年度)、ベンチャー企業社外取締役、顧問等も務める。著書に『ビジネス数字力を鍛える』『社内を動かす力』(ダイヤモンド社)など多数。