法定雇用率2.2%…障害者が活躍する組織をつくるには?
~中小企業経営者のためのダイバーシティ講座<第4回>

日本は2007年に、65歳以上の高齢者の人口割合が全体の21%以上を占める、超高齢化社会へ突入しました。

2025年には高齢者の人口割合が30%の大台に乗りますから、現在より労働力不足が深刻になることは明らかです。これまで、新卒か中途の日本人のみを正社員として採用してきた中小企業も、本格的に方針転換しなくてはなりません。

本連載では「これまで被雇用者として、企業内で重視されてこなかった層」や「社会的なマイノリティとして、企業内でポテンシャルを発揮する機会が与えられてこなかった層」までの価値を再認識し、組織づくりの参考にしていきます。今回は「障害者」を取り上げます。

障害者を採用するメリットとは

厚生労働省が2019年12月に発表した『障害者雇用状況』によると、2019年6月時点の雇用障害者数は、約56万人。この数値は前年に比べ4.8%の上昇で、過去最高値を更新しました。

そもそも従業員を45.5人以上雇用している企業は、障害者を1人以上雇用しなくてはなりません。障害者雇用促進法が「従業員に占める障害者の割合を法定雇用率(民間企業の場合は2.2%)以上にしなくてならない」と義務付けているからです。この雇用率を達成できない場合、不足人数ひとりにつき50,000円という金額を毎月納めなければなりません。経営者は「障害者を引き受けられるだろうか…」と後ろ向きに考えるのではなく、実態を大局から判断したうえで、メリットに目を向けていく必要があるのです。

なお障害の範囲は身体だけでなく、知的、精神までと多岐に渡ります。中にはハンディキャップを補う、優秀な技術を持つ障害者の存在も。また専門職から事務、そして製造など、多彩な現場で活躍している障害者が多いことも、知っておくと良いでしょう。

メリット1.障害者の労働力が生産性向上を推進

2020年は新型コロナウィルスの流行に伴い、テレワークの普及が加速しました。その成果については賛否両論あるものの、不測の事態を受け、多くの人が改めて「効率的な働き方」について考える機会を持ったようです。

こうした流れを鑑みたうえで障害者の労働力を見つめ直すと、その雇用は企業の生産性に貢献することがわかります。現在のスタッフが抱える業務の一部を障害者に担当してもらうことで、作業効率が向上する可能性が高いからです。

業務の最適化を図ることで、「多くのスタッフがそれぞれの適正に応じた仕事に取り組みやすくなる」「残業や休日出勤および、その費用削減につながる」など、障害者雇用には数多くのメリットが含まれているのです。

メリット2.障害者は企業価値向上の基盤を支える

90年代から2000年代にかけて「世界各国の大企業が、環境に多大な負荷を与えている」などの問題が表面化しました。また人間より利益を追求する高度資本主義のあり方に、多くの人々が異議を唱えた結果、企業の社会的責任へ注目が集まるようになりました。

近年の国際的な大企業は、商品やサービスの開発する段階で「社会貢献」という付加価値を確認するようになりました。また国内の中小企業も、優秀な人材を確保したり、上場を果たすためには、クリーンな経営体制が必要という認識が広まっています。

内閣府の発表によると、令和元年の障害者人口は約963万人で、全体の約7.6%を占める数値となっています。彼らを積極的に雇用し、自立して活躍する場を設けることは、大きな社会貢献につながり、「社会的な責任を果たしている企業」として企業価値の向上につながるのです。

 

[図表1]障害者数(推計)

障害者数(推計)

(出所)内閣府「令和元年版 障害者白書」より株式会社ボルテックス100年企業戦略研究所が作成
※単位は万人
注1: 精神障害者の数は、ICD-10の「V精神及び行動の障害」から知的障害(精神遅滞)を除いた数に、てんかんとアルツハイマーの数を加えた患者数に対応している
注2: 身体障害児・者の施設入所者数には、高齢者関係施設入所者は含まれていない。
注3: 四捨五入で人数を出しているため、合計が一致しない場合がある

メリット3.助成制度にも注目を

障害者を雇用することで企業にもたらされる助成制度がいくつか存在しています。その一例を紹介しましょう。

■特定求職者雇用開発助成金
障害者や高齢者を、雇用保険の一般被保険者として雇用する場合に支給される。金額はひとりにつき40万~240万円で、支給期間は1~3年。

■トライアル雇用助成金
障害者を試験的に雇用した場合などに支給される。金額はひとりにつき最大月4万円で、支給期間は最大1年間。

■障害者雇用安定助成金
専門のジョブコーチによる指導が必要な障害者を雇用した場合に支給される。ジョブコーチが訪問型なのか、企業在籍型なのかにより、支給額は異なる。

■障害者雇用安定助成金
障害者の雇用計画を作成し、新規に5人以上、その後10人以上継続雇用する、さらに施設内の設備整備を実行した中小企業主に支給される。金額は設備投資の額により変動する。

国もただ「障害者を雇用しなさい」と言っているわけではなく、支援体制を整備しています。障害者者雇用に前向きな姿勢を持つ企業は、ぜひ積極的に活用したいところです。

障害者を雇用する際に気をつけたいこと

ここまで障害者採用について、メリットを紹介してきました。しかしもちろん、注意しなくてはならない点があります。

厚生労働省は2018年6月に『障害者雇用実態調査』を実施しました。その中に設けられた「雇用にあたっての課題は?」という質問への回答内に、現状が抱える問題点がよく表れています。最も多かったのは「社内に適当な仕事があるかわからない」という答え。それ以外に「雇用イメージやノウハウがない」という回答も多く寄せられています。

 

[図表2]雇用するに当たっての課題

雇用するに当たっての課題

(出所)厚生労働省「平成30年度障害者雇用実態調査」より株式会社ボルテックス100年企業戦略研究所が作成
※複数回答4つまで
※本グラフでは19の選択肢のうち、任意の7つを表示

またエン・ジャパン株式会社が運営するサイト『人事のミカタ』が、約400社を対象に実施した2018年の調査からは「障害者の法定雇用率を達成しているのは、全体の約40%」という消極的な結果が導き出されました。

 

[図表3]障がい者法定雇用率 “2.2%” を満たしていますか ?

障がい者法定雇用率 “2.2%” を満たしていますか ?

(出所)エン・ジャパン株式会社「障がい者雇用実態調査2018」より株式会社ボルテックス100年企業戦略研究所が作成

既存スタッフが理解を深めることこそ最重要の課題

初めて障害者を雇用する場合、分からないことがたくさんあります。図表2にあげた以外にも「障害者雇用実態調査」では「もし長期休業してしまったら?」「採用の際、適性を判断できるか不安」などの意見があがっているのです。

しかし、最も大きな壁として立ちはだかるのは、既存スタッフの無理解です。また、「そもそも経営トップが理解してくれないかもしれない」という意見もあることが明らかになっています。

企業にとって障害者雇用には新た価値をもたす可能性があります。同じ職場で働くことにより多様性が高まり、今までになかったような新しい発想が生まれたり、助け合いの精神や社員間同士のコミュニケーションが活発するなど、職場の活性化にもつながります。社内が一丸となって意識改革に取り組み、雇用へ前向きになることこそ、最初の大きな一歩です。

もちろん雇用が軌道に乗るまでには、困難に直面することもあるでしょう。それでも手を付けないことには、何も始まりません。社内にしっかりとしたサポート体制を構築し、ノウハウを蓄積していけば、先述の課題を解決する糸口もひとつひとつ明確になっていくのです。

少子高齢化が深刻化する前に、障害者雇用を充分にコントロールできる力を蓄えておけば、企業の未来はきっと明るいものとなるはずです。

受け入れ態勢の整備が必要

図表2『障害者雇用実態調査』に含まれる「雇用の課題は?」という質問への回答には「安全面の配慮が適切にできるかどうか」という意見も含まれていました。

確かに実際の障害者雇用には、ソフト/ハード両面からの受け入れ態勢が必要となってきます。以下に具体例をあげてみましょう。

・階段の手すりやバリアフリー休憩室の増設、段差の積極的な排除など設備面の改善
・サテライトオフィスの新設(既存社屋での受け入れが難しい場合)
・適切な知識を深めた人事スタッフ/配属先スタッフ
・障害者職業生活相談員(既存スタッフが資格認定講習を受講)
・ジョブコーチ(社内または社外よりの派遣)
・既存スタッフに対する定期的な研修

こうした環境を整備するためには、多くの時間や費用が必要。先述の助成金も大いに役立ってくれるはずですので、ぜひ知識を深めておきたいところです。

 

障害者の雇用は、専門の人材派遣会社やハローワークなどを通じて行うのが一般的です。こうした組織の担当者は、障害者雇用に関する豊富な専門知識を有していますので、検討段階でも相談すると良いでしょう。

また独立行政法人が運営する「地域障害者職業センター」は、各都道府県内に1カ所以上の拠点を展開しています。雇用支援は随時受け付けられているほか、イベントやセミナーなども定期開催しているようなので、ぜひ積極的に足を運んでみましょう。

著者

株式会社ボルテックス 100年企業戦略研究所

1社でも多くの100年企業を創出するために。
ボルテックスのシンクタンク『100年企業戦略研究所』は、長寿企業の事業継続性に関する
調査・分析をはじめ、「東京」の強みやその将来性について独自の研究を続けています。

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