『SDGs投資 資産運用しながら社会貢献』「資本主義の父」渋沢栄一、SDGsとの深い関係

SDGs投資 資産運用しながら社会貢献
渋澤 健(著/文)
発行:朝日新聞出版
発売日:2020年5月13日

 

本書の著者・渋澤健は、日本の「資本主義の父」渋沢栄一の玄孫(やしゃご)だ。彼は、外資系金融会社や投資ファンドを経て、現在は長期の積立型投資信託を主軸とするコモンズ投信のファウンダー兼会長を務めている。

栄一が、その代表的著作『論語と算盤(そろばん)』で説き、実践した経営哲学は、倫理と利潤の両立を目指す「道徳経済合一説」である。著者は、こうした栄一の経営思想を引き継いで「論語と算盤」経営塾という私塾を立ち上げ、経営者育成にも尽力している。

本書のタイトルにもある「SDGs(Sustainable Development Goals)」とは何か。これは、2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記載されている、世界が30年までに達成すべき「持続可能な開発目標」のことだ。貧困撲滅、気候変動対策、不平等是正などから成る、持続可能な社会を実現するための17の目標と、それを細分化した169のターゲットから構成されている。「誰一人取り残さない社会の実現」というのが、その中核的理念である。

著者は、このSDGsと『論語と算盤』の目指すところは、どちらも同じくサステナビリティ(持続可能性)だと考える。『論語と算盤』の教えは、一見繋がらない異分子や無駄、矛盾同士を繋ぐ「“と”の力を持とう」、つまり「論語」と「算盤」のような相いれないものが車の両輪のように互いに協力し合う「と(and)」の力の重要性を説くものだという。白か黒か、倫理か利潤かという二者択一の「か(or)」ではなく両方ともを選ぶということだ。

そして、こうした「と」の力を問い続ける『論語と算盤』の現代的かつ地球的規模での実践がSDGsであり、これをさらに一歩進めて、投資と結びつける「SDGs投資」を実現することが、自らの果たすべき使命だと考えている。

栄一が活躍した明治維新期は、それまでの江戸時代の常識がいっさい通じない、見えない未来を信じる力が求められる時代だった。そうした時代にあって、彼は500の会社と600もの教育機関、病院、社会福祉施設、社会活動団体の設立に携わった。

そして彼自身は、経済活動の根幹を「合本主義」と表現した。彼が銀行を興したのは、「しずくの一滴一滴がやがて大河になる」という「合本」の考えによるものだった。個人の小さなお金を集めることで、国家の経済力の基盤を作る。それが発想の原点なのである。同様に著者も、われわれ一人ひとりは微力であっても、「自分のために働いて自分のために使う」というMe(自分)の世界から一歩踏み出して、We(われわれ)の力を結集し、「社会に還元するためにお金を使う」ことで、社会を変えていこうと訴えている。

本書は、金融の素人にはわかりにくい、ESG(環境・社会・企業統治)とSDGsの違いや、SDGsを実現するための「インパクト投資」という新しい投資手法など、『論語と算盤』をヒントに、個人でもできるSDGs投資の実践方法をわかりやすく紹介している。コロナ禍後の世界をどう展望するかを考える上でも、今読むべき重要な一冊である。

※『週刊東洋経済』2020年7月11日号掲載

著者

株式会社ボルテックス 100年企業戦略研究所 所長堀内 勉

多摩大学社会的投資研究所教授・副所長
東京大学法学部卒業、ハーバード大学法律大学院修士課程修了、Institute for Strategic Leadership(ISL)修了、東京大学 Executive Management Program(EMP)修了。日本興業銀行、ゴールドマンサックス証券、森ビル・インベストメントマネジメント社長を経て、2015年まで森ビル取締役専務執行役員CFO。田村学園理事・評議員、麻布学園評議員、社会変革推進財団評議員、立命館大学稲盛経営哲学研究センター「人の資本主義」研究プロジェクト・ステアリングコミッティー委員、日本CFO協会主任研究委員 他。
2020年7月、株式会社ボルテックス100年企業戦略研究所所長に就任。
ライフワークは資本主義とソーシャルファイナンスの研究。趣味は料理、ワイン、アート鑑賞、工芸品収集と読書。読書のジャンルは経済から哲学・思想、歴史、科学、芸術、料理まで多岐にわたり、東洋経済などで複数の書評を連載している。著書に、『コーポレートファイナンス実践講座』(中央経済社)、『ファイナンスの哲学』(ダイヤモンド社)、『資本主義はどこに向かうのか』(日本評論社)