ソーシャルIPOとは~ソーシャルファイナンスとは何か?②

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記事公開日:2020/11/13    最終更新日:2023/05/23

「ソーシャルIPO」とは、株式公開後も市場の論理に絡みとられて使命からの逸脱を起こさない新たな仕組みを構築しようという考え方です。「ソーシャルIPO」を通じた収益性と社会性の双方をベースに企業価値が決まる新しい資本主義の世界観について解説します。

「社会的投資」の現在

私が所属する多摩大学社会的投資研究所は、具体的な社会的事業の支援を通じて、国内のソーシャルファイナンス、その中でも特に、収益性(経済的価値)と社会性(社会的価値)を同時に追求する新たな投資手法である「社会的投資」の普及を目指す、日本初のシンクタンクです。

社会的投資研究所は、おカネが社会の中で好循環することで、社会がより良い方向に変わっていく未来を構想しています。下図で示すように、コーポレートファイナンスは、グローバルな資本市場(株式市場、債券市場等)をバックに、営利法人である株式会社がどのように企業価値を上げていくかに焦点を当てたものですが、これがSDGsの考え方の浸透とともに、今、大きく変容してきています。

そして、今やどの企業でも行っているCSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)活動だけにとどまらず、 CSV(Creating Shared Value:共通価値の創造)、ESG(Environment, Social, Governance:環境、社会、ガバナンス)、SRI(Socially Responsible Investment:社会的責任投資)など、社会性や持続可能性に配慮しなければ、社会から受け入れられなくなりつつあります。

組織の社会性や持続可能性は「三方良し」に通じる

こうした社会性や持続可能性を意識した企業活動は、日本で古くから言われている近江商人の、「売り手よし、買い手よし、世間よし」という「三方良し」の発想に極めて近いものがあります。
逆に、従来は寄付や助成といった「返済不要な資金」で活動資金を賄っていたNPOや財団などの非営利法人も、毎年継続的に寄付集めをしなければならないことで疲弊してしまい、活動にsustainability(持続可能性)がないということが問題になっています。そのため、非営利法人であっても毎年一定程度の利益はあげられるようにしようという機運が高まっています。つまり、社会的事業を行うことで利益をあげて、それで自分の儲けにするというよりは、組織の持続可能性を高めていこうという発想です。

事業活動の社会性と社会活動の収益性が重なり合う未来

そもそも、「マネジメントの発明者」と呼ばれたピーター・ドラッカーが言うように、「利益は、企業や事業の目的ではなく条件なのである。また利益は、事業における意思決定の理由や原因や根拠ではなく妥当性の尺度」です。ですから、非営利法人が利益を出すということは、非営利法人の存在意義と何ら矛盾するものではありません。
こうして、営利法人は、より事業活動の社会性を意識するようになり、非営利法人は、より社会活動の収益性を意識するようになることで、お互いが相互に歩み寄り、それぞれの重なり合う領域が増えていくというのが、社会的投資研究所が構想している金融の未来なのです。

勿論、そうは言っても、戦争、難民、災害、貧困など、無償のおカネでしか解決できない社会課題の領域は必ず残ります。そうした領域は、引き続き、寄付や助成で賄っていく必要がありますが、多くの社会活動はより収益性・持続性を意識するようになっていくだろうということです。

【図1 コーポレートファイナンスとソーシャルファイナンスの歩み寄り】

ソーシャルIPO(社会的新規上場)とは

こうした問題意識の下で、社会的投資研究所が第一号の支援案件として手掛けているのが、ライフイズテック株式会社との「ソーシャルIPO(社会的新規上場)」の共同研究です。
https://life-is-tech.com/

同社は、「中学生・ 高校生の一人ひとりの可能性を最大限に伸ばす」というミッション(使命)を掲げた、中高生向けのIT・プログラミング教育に特化したエドテックスタートアップで、「ソーシャルIPO」というのは同社の造語です。
これまでのシリーズA~Cの3回の私募増資(非上場の段階での増資)では、投資契約書の中に「中高生を対象とした教育以外の事業は行わない」と明記して投資家の理解を得てきました。同様に、これから数年後に予定している株式公開後においても、市場の論理に絡みとられてこうした株主との間の相互理解が見失われ、自らが掲げた経営理念から逸脱してしまうミッションドリフト(会社の使命からの逸脱)を起こすことがないよう、新たな仕組みを構築しようというのが「ソーシャルIPO」の考え方です。

現在、その実現に向けて、優先株の上場、環境や社会に配慮した企業であることを示すBコープ*認証の取得や定款へのミッションの明記、上場後の社会的インパクト評価基準の策定、その計測におけるシステムとの連動などについて、両者が共同で研究・開発を進めています。

* Bコープ(B Corporation)とは、「公益」に資する会社に与えられる認証。「B」は「Benefit(利益)」を意味しており、従業員や顧客といった全てのステークホルダーに対する包括的な利益を指している。アメリカのペンシルバニア州の非営利団体「B Lab」により2006年に発足した。環境・社会に配慮した事業を行っており、5つの分野(ガバナンス、従業員、コミュニティ、環境、カスタマー)から構成される透明性や説明責任などの基準を満たすことが認証条件。

その中で特に重要なのが、「株主が納得できる形で社会的インパクトを計測・開示すること」です。そのために、これまでサービスを受講した数万人の中高生の一部を対象に調査を実施して、進路の変更、アプリのリリース、起業など、受講生の人生と彼らが社会に与えた影響を調べることで、独自の指標化を進めています。

ソーシャルIPO実現の意義

2008年の世界的な金融危機、いわゆるリーマン・ショック以降の企業の社会的責任論や、社会性や持続可能性に対する企業の問題意識は飛躍的に高まっています。そして、その最先端にあるのが、ライフイズテックに代表される収益性と社会性の実現を同時に目指す社会的企業です。

そもそも株式会社は、一人では実現できない事業を多くの資金と人を集めて継続的に行う仕組みで、1602年に設立されたオランダ東インド会社が世界初の株式会社と言われています。株式会社は、小口の資本(資金)を社会全体から広く集めることを可能にすると同時に、リスク分散を可能にする仕組みでもありました。

「社会」という視点から見ると、その目的は皆で力を合わせてより良い社会を作り上げていくことにあるはずです。ところが株式市場の現状を見ると、株価は、ROE(自己資本利益率)やROA(純資産利益率)に代表される財務指標に基づいて決まるという資本の論理にがんじがらめに縛られてしまい、上場をしたがゆえに当初の理念を逸脱してしまうという残念な企業の例は、枚挙にいとまがありません。

資金の出し手である投資家サイドでも、ここ数年で社会の持続可能性を意識したESG投資が急速に浸透し、ただ高いリターンさえ上げれば良い、株主が無条件に偉いといった単純な見方は、もはや社会に受け入れられなくなっています。
こうした動きを更に一歩推し進め、投資家が積極的に社会的企業に投資を行う、あるいは自らの判断で能動的に社会的事業に資金を投入して後押しするようになれば、収益至上主義だったこれまでの株式市場は大きく変容する可能性があります。

ライフイズテックが「ソーシャルIPO」を通じて世の中に問い掛けようとしているのは、こうした収益性と社会性の双方をベースに企業価値が決まる新しい資本主義の世界観です。そこでは、経済的価値だけが判断基準であった株式市場の中に社会的価値という新しい尺度が組み込まれることで、これまでとは全く異なった資本の論理が駆動し始めることになります。

「ソーシャルIPO」が実現して新しいIPOのモデルケースになれば、それまで資本市場から距離を置いていた社会企業家たちにとっても、新しい資金調達の道を開く大きなブレークスルーとなるものと思います。

インパクト投資とは~ソーシャルファイナンスとは何か?③」に続きます。

著者

堀内 勉

一般社団法人100年企業戦略研究所 所長/多摩大学大学院経営情報学研究科教授、多摩大学サステナビリティ経営研究所所長

多摩大学大学院経営情報学研究科教授、多摩大学サステナビリティ経営研究所所長。東京大学法学部卒業、ハーバード大学法律大学院修士課程修了、Institute for Strategic Leadership(ISL)修了、東京大学 Executive Management Program(EMP)修了。日本興業銀行、ゴールドマンサックス証券、森ビル・インベストメントマネジメント社長、森ビル取締役専務執行役員CFO、アクアイグニス取締役会長などを歴任。 現在、アジアソサエティ・ジャパンセンター理事・アート委員会共同委員長、川村文化芸術振興財団理事、田村学園理事・評議員、麻布学園評議員、社会変革推進財団評議員、READYFOR財団評議員、立命館大学稲盛経営哲学研究センター「人の資本主義」研究プロジェクト・ステアリングコミッティー委員、上智大学「知のエグゼクティブサロン」プログラムコーディネーター、日本CFO協会主任研究委員 他。 主たる研究テーマはソーシャルファイナンス、企業のサステナビリティ、資本主義。趣味は料理、ワイン、アート鑑賞、工芸品収集と読書。読書のジャンルは経済から哲学・思想、歴史、科学、芸術、料理まで多岐にわたり、プロの書評家でもある。著書に、『コーポレートファイナンス実践講座』(中央経済社)、『ファイナンスの哲学』(ダイヤモンド社)、『資本主義はどこに向かうのか』(日本評論社)、『読書大全 世界のビジネスリーダーが読んでいる経済・哲学・歴史・科学200冊』(日経BP)
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