ビッグデータと企業経営
14-5. AIマップ、今できること

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AI(人工知能)の世界で今、一体何ができるのでしょうか。ここでは、人工知能学会が作成している「AIマップ」で見てみましょう。AIマップは2019年にβ版が作成され、2023年5月にはβ版2.0に改訂されています。AIマップには、AIシステムによる解決が期待される課題を整理した「AI課題マップ」と、どういう技術で何ができるのかを整理した「AI技術マップ」があります。

AI課題マップは「系統・課題名称」ごとに色分けしたカードに分類されており、その1つに「数値予測」と書かれたカードがあります。数値予測とは、少し先の未来の数値を当てることです。その応用事例を表すキーワードとして、エネルギー消費、価格、列車の遅延状況、病院の待ち時間、渋滞時間、電力需要、気象などがあげられています。

これらのような予測を行う「予測マシン」を作るには、どうしたらいいか。予測マシンでは「数値」を学習したり、「テキスト(文章)」を学習したりする必要があります。そのための手法として、先ほど紹介した「ニューラルネットワーク」や「ディープラーニング(深層学習)」といった一連の手法のほかに、「スパースモデリング」、「シミュレーション」「マーケットデザイン」「ベイズ推定」など、さまざまな手法や技術があります。

この中には、伝統的な手法である「回帰分析」も入ってきますし、時間の要素が入ってくる手法には「状態空間モデル」や、経済の「時系列モデル」、さまざまなカルマンフィルターを始めとした「フィルタリング」の技術も重要になってきます。

AIマップを見ると、「数値予測」以外にも、「確率を予測する」「運転を制御する」「運転計画をつくる」「予測候補を提示する」など、さまざまな応用例が出てきます。これらを1つにまとめると「予測・制御系」という領域となります。

状態を認識することで「空き家」の検知も可能に

AI課題マップの中の「認識・推定系」という領域では、「状態を推定する」という技術があります。そのためにはセンサーなどの技術や、画像を含む観測技術を使います。画像やセンサーを使いながら、モノの状態を推定することによって異常を検知したりします。

広い意味で、「空き家」を認識・推定することも、異常の検知の1つといえるかもしれません。家は人が住んでいるのが「正常な状態」であるとするなら、空き家は「異常な状態」ということになります。

「認識・推定系」には「認証」という技術があります。最近では、さまざまな認証技術が開発されていますが、顔認証などの「認証」のほかに、対象となる性質を「指標化する」、画像や音情報から「メディアを認識する」、機器の劣化などの「状態変化を検出する」などがあり、パターン認識によって「センサーデータを認識する」こともできます。

AI課題マップには「分析・要約系」「設計・デザイン系」「生成・対話系」などがあり、さまざまな技術を使いながら、私たちはこれらの社会課題をどう解決できるかを考えています。

人の姿勢や表情を認識することで生産性の変化を推定

私たちの研究室で行ってきた過去の研究を、いくつか紹介しましょう。

「認識する」という技術を使って「オフィスの中での生産的な衝突の可能性を高める」という研究を行いました。これはワークグループの中で物理的な距離によって相互作用や関与が減少するという研究です。人と人との距離感に着目した研究ですが、コロナ禍による人々の接触制限が始まる以前に開始しました。オフィスにおける人々の距離感やワーカーの状態を認識することで、オフィスの中での生産性をどう高めるかを考察しました。

MIT(マサチューセッツ工科大学)のメディアラボでリサーチヘッドをしていたアレックス(サンディ)・ペントランド氏らと行った研究ですが、これは「Mediated Atmospheres(媒介された雰囲気)」と呼ばれるものです。カメラやセンサーからワーカーの姿勢、表情や動作を見て、分析します。それによって、この人が「そろそろ眠くなってきている」とか、「生産性が落ちてきている」とかが分かれば、照明やサウンド、壁に映る風景を変化させることによって、その人の生産性がどのように変わるのかを研究しました。

不動産価格のデータから予測モデルを作成

次の研究は、単純な「数値予測」です。中東のアラブ首長国連邦の都市であるドバイでは、2008年9月のリーマンショックの前に不動産投資が非常に活発に行われていました。しかし、リーマンショックの直後に海外の資金が一気に逃げてしまって、不動産投資市場が壊滅的な状態になってしまいました。そこで、不動産市場の透明性を高めることで、投資資金の出入りが自由になる、潤沢にお金が入ってくる、さまざまなお金が入ってくるような市場を作ろうとしたのです。これはドバイの政府機関であるランドデパートメントとの共同研究でした。

ドバイでは、不動産の取引価格について、取引して30分以内にどこでいくらで取引されたかが登記所に登記されて、30分以内に政府のデータベースに反映されます。このデータベースを使うことで、リアルタイムに1つ1つの建物の不動産価格を予測するというプロジェクトでした。

データベースから観察された売買データを使ってドバイ全域の価格を予測します。レント(賃貸)のデータも使うことができますが、レントはその瞬間取引された価格だけでなく、いま賃貸中の価格も常に観察することができます。このようにリアルタイムに入ってくる多様でボリュームのあるビッグデータを使うことによって数値予測モデルを作るのです。これにより、ドバイのランドデパートメントは早期にブロックチェーン技術を導入し、結果として不動産取引の透明性の向上と活性化を実現しました。

ドバイの登記所であるトラスティ―オフィスを紹介します。日本の役所や法務局に行って登記などの手続きをすると、随分待たされたりすることがあります。ここでは、原則30分以内に登記と抵当権の設定を同時に完了させることができます。

ドバイにはハピネス大臣がいて「ハピネス指標」という指標を作っています。これは、ドバイの住民が生活していくうえでハピネスをどれくらい感じるか、またはアンハピネスをどれくらい感じるかを示すものです。役所に行って随分と待たされれば、その人はアンハッピーな気分になるでしょう。ハピネス指標を示すダッシュボードが公開されていて、30分以内に登記が完了できなかった件数が毎日公表されるので、ここで働いている人たちは必ず30分以内に登記を終わらせようと頑張っています。これが「数値予測」の事例です。

スピーカー

清水 千弘

一橋大学教授・麗澤大学国際総合研究機構副機構長

1967年岐阜県大垣市生まれ。東京工業大学大学院理工学研究科博士後期課程中退、東京大学大学院新領域創成科学研究科博士(環境学)。麗澤大学教授、日本大学教授、東京大学特任教授を経て現職。また、財団法人日本不動産研究所研究員、株式会社リクルート住宅総合研究所主任研究員、キャノングローバル戦略研究所主席研究員、金融庁金融研究センター特別研究官などの研究機関にも従事。専門は指数理論、ビッグデータ解析、不動産経済学。主な著書に『不動産市場分析』(単著)、『市場分析のための統計学入門』(単著)、『不動産市場の計量経済分析』(共著)、『不動産テック』(編著)、『Property Price Index』(共著)など。 マサチューセッツ工科大学不動産研究センター研究員、総務省統計委員会臨時委員を務める。米国不動産カウンセラー協会メンバー。

【コラム制作協力】有限会社エフプランニング 取締役 千葉利宏

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