ビッグデータと企業経営
14-6. 生成AIを予測に活用する

「ビッグデータと企業経営<br>14-6. 生成AIを予測に活用する」のアイキャッチ画像

目次

生成AIを活用した営業シミュレーションシステムの開発

2022年11月に米国オープンAI社の「Chat GPT」が公開され、「生成AI」が広く知られるようになりました。生成AIを使って何ができるのか。プロファイリング技術を使って得られた結果にもとづいて、明日営業マンが商談に行くときに商談相手からどのような言葉が出てくるのかを予測する、そのような技術があります。このとき、言葉を分かりやすく、人間が普通に話すように文章化することが必要になりますが、その文章化に生成AIが使えます。

これは、AIを活用した日本のIT企業、エクサウィザーズとの共同研究でした。ここでは銀行のケースを紹介します。

明日、営業に伺う予定の顧客の情報があります。生年月日は1967年10月21日、性別は女性、氏名は山田花子さん。家族は5人。配偶者がいて、子供は長女が27歳、長男が26歳、次男が22歳。趣味はテニスだとしましょう。銀行に加入したのは、もう随分と前からで、1992年から30年以上のお客様です。そうした情報は事前に顧客情報データから分かるので、そこからプロファイリングを行います。

明日、営業マンはNISA(少額投資非課税制度)の提案をしたいと考えています。その時に山田花子さんの職歴などから、どれぐらいのビジネススキルを持っているのか、知識を持っているのか、また投資経験がどれぐらいあるのかが分かります。提案の難易度を優しくするのか、難しくてもよいか。口調としては、関西のご出身なので、関西弁のほうがいいのではないか。練習したいシナリオをある程度設定したうえで、明日山田花子さんから出てくる言葉をプロファイリングし、生成AIで言葉にして営業の練習ができます。

このようにしてロールプレイ(役割演技)をした後には、音声を認識させて、練習内容を評価できます。「山田さん、こんにちは」という挨拶から始まり、相手とのやり取りをするなかで、NISA勧誘の営業トレーニングをしている営業マンが、きちんとアイスブレイク(雰囲気づくりの手法)ができているか。あらかじめプロファイリングした結果から、リコメンド(推奨)する金融商品に為替リスクが含まれていれば、ドルコスト平均法の説明ができているか。こうした説明が抜けていると、金融商品のリスクを正しく説明できていないことになるので、事前の営業トレーニングで評価しておくのです。

生成AIで交渉履歴を自動作成して営業マンを評価

このような営業シミュレーションシステムが進化すると、何ができるようになるのか。金融商品取引法の改正により、現在では認知機能の低下が見られる70歳以上の高齢者に対する金融商品の販売は、2人体制で行われることが求められています。そのときに1人を音声のAIアバターとして連れて行き、顧客との会話を録音します。その録音を使って、アイスブレイクができているか、どのような説明ができているのかをチェックすることで、2人で説明するのと同じ効果が得られると考えられます。

生成AIを使うことで、実際の営業日誌を自動的に作成することもできます。生成AIは、「何々について2,000字以内に要約して」「5,000字に要約して」「文字を全部起こして」という作業は得意です。

さらに、その要約や文章をテーマごとに分割することもできます。私の講義は、大学の教室で行うと110分くらいで話す内容が、オンライン講座になると30分くらいで終わってしまうことがあります。いかに教室での講義では余計な話が多いかということかもしれません。その余計な話の中にも、実は大事な要素を含めて話しているのですが、そのような話はオンライン講義の中では除かれてしまいます。

会話の中には必ず「不要区間」が存在しています。この不要区間を区別して、文字を起こし、テーマごとに分割し、重要文を抽出してChatGPTなどの生成AIで箇条書きに成形する。それによって不要区分を区別して重要な部分だけを取り出し、交渉履歴として残すべきドラフト(原案)を作成できます。

この交渉履歴を分析することで、優れた営業マンの条件が浮かび上がってきます。ただ、どの分野でも優れているとは限らないので、マッチングがすごく重要になります。50代半ばの女性である山田花子さんに営業する場合、20代半ばの女性営業が行ったほうがいいのか、30代の男性がいいのか、40代の女性がいいのか、同じ年代の女性または男性がいいのか。そのようなことも、データの蓄積により分かるようになります。

AIのモデルを使ってポイントを押さえた要約を作り、優れた営業マンの特性を抽出するシステムも共同研究しました。ある顧客Aさんにとっての優れた営業マンがどのような人なのかを逆にプロファイリングして、営業マンのリストの中から一番マッチング率の高い営業マンを選んで、ぶつけていくこともできます。

さらに要約したテキストからは、コンプライアンス(法令順守)の検知ができるので、病院などの営業現場で役立ちます。違反リスクを可視化し、問題表現を修正していく。それを使って営業担当者の教育をし直すとか、または営業のやり直しを行うとかに使えます。

企業と企業の連携にもマッチングアプリを活用

マッチングアプリは、「出会い系」というとあまりよくないイメージがありますが、婚活サイトとして安全に運営されているマッチングアプリも増えています。最近では、そうしたアプリで出会って結婚する人も多くなってきています。

人と人のマッチングでは、先ほど顧客と営業マンのマッチングについて紹介しましたが、企業と企業をマッチングすることもできます。企業のビッグデータを学習することで「この企業とこの企業をマッチングすると、新しいイノベーションを起こすことができるのではないか」といったマッチング予測も可能です。

マッチングアプリの新しい事例として、リース会社との協業で、企業と製造設備とのマッチングサービスも考えられています。IoTデバイスを埋め込んだ製造設備をリースして、その設備の稼働状況などのデータから企業と設備のマッチングを行います。IoTデバイスとAIを組み合わせることで、さまざまなマッチングビジネスがイメージできるでしょう。すでに実際の製造現場では、そのようなアプリを実現するためのさまざまな実験が行われています。

AIを活用したデータサービスは、広い意味での「予測」です。その応用事例として、さまざまなシステムやサービスが出てきていますが、それらを深く学んだ上で自社のDXをどう進めていくのかを考えることが重要でしょう。

スピーカー

清水 千弘

一橋大学教授・麗澤大学国際総合研究機構副機構長

1967年岐阜県大垣市生まれ。東京工業大学大学院理工学研究科博士後期課程中退、東京大学大学院新領域創成科学研究科博士(環境学)。麗澤大学教授、日本大学教授、東京大学特任教授を経て現職。また、財団法人日本不動産研究所研究員、株式会社リクルート住宅総合研究所主任研究員、キャノングローバル戦略研究所主席研究員、金融庁金融研究センター特別研究官などの研究機関にも従事。専門は指数理論、ビッグデータ解析、不動産経済学。主な著書に『不動産市場分析』(単著)、『市場分析のための統計学入門』(単著)、『不動産市場の計量経済分析』(共著)、『不動産テック』(編著)、『Property Price Index』(共著)など。 マサチューセッツ工科大学不動産研究センター研究員、総務省統計委員会臨時委員を務める。米国不動産カウンセラー協会メンバー。

【コラム制作協力】有限会社エフプランニング 取締役 千葉利宏

経営戦略から不動産マーケット展望まで 各分野の第一人者を招いたセミナーを開催中!

ボルテックス グループサイト

ボルテックス
東京オフィス検索
駐マップ
Vターンシップ
VRサポート
ボルテックス投資顧問
ボルテックスデジタル

登録料・年会費無料!経営に役立つ情報を配信
100年企業戦略
メンバーズ