『誇りある金融 バリュー・ベース・バンキングの核心』「価値」を大切にする新しい金融のあり方とは

誇りある金融 バリュー・ベース・バンキングの核心
新田 信行(著), 江上 広行(著)
発行:近代セールス社
発売日:2020年5月1日

 

本書の冒頭で、思想家チャールズ・アイゼンシュタインの、「バンカーとは、おカネを美しく使う人を探してくる人のことをいう」(『聖なる経済学』)という言葉が紹介されている。本書のタイトルである「誇りある金融」とは、こういう金融のことをいうのであろう。では逆に、「誇りのない金融」とはどういうものか。

銀行は、しばしば「晴れの日に傘を貸して雨の日に取り上げる」と言われる。自らの本分を忘れて、自分はリスクを取らずに金で金を儲けようとする輩(やから)に見えてしまうから、「金貸し」だとか「銀行屋」だとか揶揄されてしまうのではないだろうか。そうした中で、多くの銀行員が自分の仕事にプライドを持てなくなっている。

経済学者シュンペーターは「新結合」という言葉を用いて、資本主義社会におけるイノベーションによる破壊と創造の重要性を説いた。彼は、事業意欲は旺盛だが資金力のない起業家をサポートする、リスクマネーの供給者としての銀行の役割を強調した。イノベーションには銀行の存在が必須であり、それをサポートするのが銀行の本分だというのである。

逆に、有無を言わさず物的担保や人的保証を取ってリスクを一方的に起業家に押しつけるのは、単なる「金貸し」の仕事であって、本来の銀行の役割ではないのである。もちろん、そうなった責任の一端は、過去20年にわたって「おいこら」式の行政で銀行を萎縮させてきた金融当局にもあるのだが。

リーマンショックを引き起こした金融の暴走への反省に立って、バリュー・ベース・バンキングを実践する国際ネットワークであるGABV(The Global Alliance for Banking on Values)が創設されたのは、2009年のことだ。ここでいうバリュー・ベース・バンキングとは、利益だけでなく「価値」も大切にする金融のことである。

GABVは環境金融の先駆者として知られるオランダのトリオドス銀行などが中心になって、環境、社会、経済のトリプルボトムラインの達成を重視した銀行経営を展開する世界の金融機関の連携組織として立ち上げられた。現在、60余りの金融機関が参加している。その取り組みは、金融面からSDGs(持続可能な開発目標)をリードするものとして高く評価されている。

日本から初めてここに参加したのが、本書の著者の一人、新田信行が会長を務める第一勧業信用組合だ。そして、こうしたGABVの理念・活動を日本の金融に応用しようと始まったのが、新田が議長を務めるJPBV(一般社団法人価値を大切にする金融実践者の会)であり、その代表理事兼事務局長が、もう一人の著者の江上広行である。

本書には、次の時代の持続可能な金融を築いていくには何が必要かについての新田と江上の対話、GABVの行動原則やJPBVの理念、加盟金融機関の具体的な活動状況など、これからの金融の進むべき方向性が明確に示されている。

世界経済がリーマンショックを超えるコロナ危機に直撃され、金融の役割の再定義を迫られている今、日本の金融に携わるすべての人々に読んでもらいたい一冊である。

※『週刊東洋経済』2020年8月22日号掲載

著者

株式会社ボルテックス 100年企業戦略研究所 所長堀内 勉

多摩大学社会的投資研究所教授・副所長
東京大学法学部卒業、ハーバード大学法律大学院修士課程修了、Institute for Strategic Leadership(ISL)修了、東京大学 Executive Management Program(EMP)修了。日本興業銀行、ゴールドマンサックス証券、森ビル・インベストメントマネジメント社長を経て、2015年まで森ビル取締役専務執行役員CFO。田村学園理事・評議員、麻布学園評議員、社会変革推進財団評議員、立命館大学稲盛経営哲学研究センター「人の資本主義」研究プロジェクト・ステアリングコミッティー委員、日本CFO協会主任研究委員 他。
2020年7月、株式会社ボルテックス100年企業戦略研究所所長に就任。
ライフワークは資本主義とソーシャルファイナンスの研究。趣味は料理、ワイン、アート鑑賞、工芸品収集と読書。読書のジャンルは経済から哲学・思想、歴史、科学、芸術、料理まで多岐にわたり、東洋経済などで複数の書評を連載している。著書に、『コーポレートファイナンス実践講座』(中央経済社)、『ファイナンスの哲学』(ダイヤモンド社)、『資本主義はどこに向かうのか』(日本評論社)