維持するのか、手放すべきか…中小企業と不動産の関係
~アフターコロナを見据え、中小企業経営者は何をすべきか【第3回】

コロナ禍の出口が見えない中、持続化給付金の申請は2021年2月15日に締め切られました。このままでは、危機に直面する中小企業がさらに増えると見込まれています。しかし廃業を踏みとどまり、再生の道を模索する企業も数多くあります。

今回はコロナ禍不況で不動産の売却など資産の組み換えを考える企業が増えている中、中小企業はどのように不動産と向き合っていけばいいのか、企業再生のスペシャリストとして活躍する坂本利秋氏に話を伺いました。

前回までの連載はこちら
第1回「2021年、中小企業経営者に求められる資質が激変する」
第2回「コロナ禍で危機に直面する中小企業…「企業再生」を実現するには?」

中小企業が不動産を所有するメリット

コロナ禍で窮地に立たされ、不動産の売却を検討している中小企業の経営者もおられるのではないでしょうか。しかし坂本氏は、できるだけ売却は見合わせたほうがよいと考えているそうです。中小企業が不動産を保有するメリットについて聞きました。

坂本 「まず外部に向けた信用力を維持するため、売却は控えたほうが良いです。特に地方都市の中小企業に顕著な傾向なのですが、自社ビルや工場などの存在は、地域での信用として機能しています。『あの会社は、あの場所でずっと経営を続けている』という事実が、地域や取引先に浸透しているのです。もし経営を続ける前提で売却を検討するとなると、逆に『あそこはもう危ない』と、イメージダウンに繋がってしまう可能性があります。それなら借入の担保にするなど、緊急事態の回避に役立てるほうが、よほど得策ではないでしょうか」

また坂本氏は、都心にある中小企業の自社ビルについても、同様だと言います。

坂本 「これは都心の物件に限った話なのですが、自社不動産を活用して『不動産担保ローン』を受けることができます。融資実行までの期間が短いことがメリットのひとつです。さらに、通常の融資では会社の業績が審査対象となりますが、不動産担保ローンの場合は、土地や建物の不動産価値だけが審査対象となるため、業績の芳しくない企業でも利用できるというメリットもあります。このように自社保有の不動産には多くのメリットがありますので、持ち続けていたほうが安心。事業継承の際、相続対策にもなりますからね」

さらに坂本氏は自社不動産の売却が、社内スタッフに与える動揺を懸念します。

坂本 「自社ビルや工場を手放すという決断が、周囲に与える負の影響も考慮すべきです。不動産の売却は必ず社員に伝わります。あえて謄本を入手せずとも、各所より情報が入ってくるものですから、売却は慎重に検討しましょう。ただ、例外もあります。これは特に都心の不動産についていえることなのですが、相場的に見て『絶対に今が売り時』という判断が可能なようであれば、売却の検討も、方法のひとつです」

いま、新規獲得のチャンスも訪れている

「経営者の不動産取得に関する悩み」は決して特殊でなく、業績の良い中小企業によく見受けられると、坂本氏は言います。しかしコロナ禍の現在において、リーズナブルな不動産取得が実現する例もあると、指摘してくれました。

坂本 「これは投資でなく、あくまで工場など実需物件の新規取得に関する話ですが、非常時ならではのお買い得が実現するケースもあります。工場物件は流動性が低く、再開発や解体、そして土壌改良に費用がかかるので、一般の投資家からは敬遠されがちです。このため、コロナ禍で『工場を手放さねばならなくなった』という経営者は、廉価での取引に応じざるを得ないのです。工場新設を検討していた会社にとっては、いまがチャンス。『普通では考えられない値段で購入できた』という話を、たまに耳にしますね。コロナ禍が好機として機能した業界もありますから、業績が好調なら、賃貸から購入へのシフトを検討しても良いでしょう」

また坂本氏は法人による不動産賃貸事業についても肯定的な意見を持っています。

坂本 「近年はさまざまなビジネスやサービス、そしてスペースがシェアの方向で洗練されつつあります。不動産についてもコワーキングスペースやレンタル会議室、そして区画ごとにレンタル可能な美容室など、活用法は無限大と言えます。法人ならではの付加価値をプラスした物件の経営が可能ならば、本業以外に不動産賃貸事業に進出しても良いかもしれません」

 

「アフターコロナを見据え、中小企業経営者は何をすべきなのか」を考える、本連載。最終回となる次回は、「コロナ禍を踏み越え、100年企業を目指すためにどうすべきなのか」を考えていくことにします。

 

お話を聞いた方

認定事業再生士(CTP)/合同会社スラッシュ 代表坂本 利秋
坂本 利秋

東京大学大学院工学系研究科卒業。日商岩井(現双日)にて、数千億円の資産運用を経験。その後、ITベンチャー企業に転身。国内初SNS企業の財務執行役員に就任し、その後上場企業に売却、30代で三井物産子会社の取締役に就任し企業成長に貢献、グループ売上高1,000億円の上場IT企業の経営管理部長として企業再生を行う。
中小企業の経営者のためだけに徹底的に支援したいという思いから、2009年より中小企業の売却、事業再生支援を行う。中小企業の再生人材不足が危機的な状況にあることから、2020年より企業再生人材の養成講座を開講する。

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