100年以上続く会社のカギは「番頭さん」「メインバンク」「株の承継」にあり

日本には創業100年を超える長寿企業が多く存在します。その数は2020年時点で33,000社を超えており、全世界の100年超企業全体の約4割を超えていると言われています。日本は世界的にみても長寿企業大国なのです。

では、なぜ日本は長寿企業大国となることができたのでしょうか。なぜ日本企業は長く継続することができたのでしょうか。その理由は様々なものがありますが、最も大切な要素の一つは「お金」に関することです。というのも、会社が経営を続けていく上ではお金(=Cash)は必須で、支払うべき時期に支払うべきものを支払えなくなった時、つまりお金が無くなった時に、会社がなくなる(倒産する)可能性が出てきます。逆に言えば、お金がある限り会社はなくならない、少なくとも法人格が消滅することなく継続することができます。

本稿では、多くの長寿企業のサポートをさせて頂いてきた経験から、長寿企業(今回は株式会社に限ります)に見られるお金に関わる特徴を3つご紹介します。

会社のお金の状況は貸借対照表に現れますので、その大きな3つの枠(資産の部、負債の部、純資産の部)に従って、特徴を説明します。

投資の判断基準は「最悪のケース」を想定して身の丈にあったものを

1つ目の特徴は「資産の部」に関わるものです。資産の部では会社が調達した資金を何に使っているかを確認することができますが、長寿企業では事業投資の場面(お金の使い方)で共通の特徴が見られます。

非上場企業の場合、上場企業に比べて投資家からプレッシャーが少なく、資金の使用使途を経営者が比較的自由に決められます。そのため会社によって投資方針・お金の使い方も様々ですが、長寿企業の場合、事業投資、特に長期の事業投資を行う場合は、最悪のケースを十分に想定し、万が一のことがあっても会社の存続に大きな影響を及ぼさない範囲で投資を行う点に特徴があります。ハイリスク・ハイリターンを求める投資を行うケースは少なく、リスクの許容が可能な範囲での投資(身の丈にあった投資)を積み重ねるケースが多くなります。

会社経営をしていると、大きなリスクをとって成長を求める必要がある場合もありますが、長寿企業では成長よりも存続に対する意識が強いことが背景にあると言えるでしょう。企業活動をする上では「儲けること」も大切ですが、長寿企業では「儲けること」に加えて「企業の存続に与える影響」が当たり前のように判断軸の一つになっているのです。

企業の存続を優先した意思決定の例をご紹介します。

製造業を営む長寿企業のP社は、取引先であるA社から、受注すれば売上も利益も倍増する大きな追加受注の相談を受けました。傍から見ると「おいしい」案件のように見えますが、P社の経営者は受注を断ります。P社の経営者は、A社への依存度が高まりA社に万が一のことがあった場合にP社の企業の存続が危ぶまれる可能性があることを懸念して、収益性の観点からは魅力的であろう受注を断るという意思決定をしたのです。背景には、売上を倍増させるための巨額投資が身の丈にあったものではないことも影響しています。

このような判断軸が長寿企業の経営者に当たり前のように備わっているかというと、そうではないケースも散見されます。長寿企業には「番頭さん」と呼ばれる方がいるケースが多いですが、多くの長寿企業に共通しているのは、番頭さん(もしくはそれに準ずる方)が身の丈にあった投資の感覚をもっている点です。「身の丈にあった投資がいくらか」が具体的に形式知化されているわけではありませんが、番頭さんは、企業の存続に対する危機感を強く持ち、常に最悪のケースを想定しています。経営者は、番頭さんの投資の感覚の影響も受けながら、時間をかけて同じような判断軸を身に着けていくこともあります。

経営者、番頭さんがこのような感覚を持っていると、企業の文化としても「身の丈にあった投資」が当たり前となり、現場からもハイリスク・ハイリターンの案件が上がりにくいというのも特徴です。会社全体が「身の丈にあった投資」を行うことが当然のようになると、自然と「身の丈にあった投資案件」が多く集まってくるようにもなります。ある意味の好循環です。

一方で、非上場企業、特に株主と経営陣が同じ場合は、逆に思い切った投資ができることも強みの一つになりますので、状況によってはリスクをとった投資をする必要がある点も忘れてはなりません。

銀行は唯一に近い資金調達手段であり、大切にすべき存在

2つ目は「負債の部」に関わる特徴です。一般的に、株式会社が行う資金調達手段は、①株主からの出資を受ける方法、②融資を受ける方法の2つがあります。①は、既存株主もしくは新規投資家から会社に資金を入れてもらい、会社からは株式を発行して株主となってもらう手段です。②は金融機関等から、お金を借りるという手段です。

株式会社はいずれの手段も選択することが可能です。しかし、①株主からの出資を受ける方法は、非上場企業の場合、株主となる主体が見つからない等の理由から、選択できないケースが少なくありません。出資者の第一候補となる既存株主は資金力が乏しいケースが多く、仮に資金力を有する投資家を見つけてきたとしても、投資家は将来株式を売却できなければ資金の回収ができないところ、非上場企業である限りは株式を市場で売却することができないため、投資するという判断に至らないのです。日本の会社の99%以上が非上場企業であり、多くの会社は①の方法は選択が難しいということになります。

そうなると、非上場企業の資金調達手段は、②融資を受けるという方法にほぼ限られます。融資を受ける先は、最も有力なのが融資をすることを生業とする銀行(信用金庫等も含む)です。銀行以外も融資の可能性はありますが、融資から得られるリターンは金利のみであることに鑑みると、融資を実行するに至る経済的理由がないケースが多く、銀行以外からの融資の実現可能性は高くありません。会社が資金調達をする際には、銀行以外にはなかなか現実的な選択肢がないというのが実情です。

では、長寿企業は銀行とどのような関係を築いているのでしょうか。

多くの長寿企業では、メインバンクと呼ばれる銀行(もしくはそれに準ずる銀行)と「良好な関係」を構築しています。「良好な関係」とは、銀行と定期的にコミュニケーションをとる機会があり、銀行に会社のことをよく理解していただき、必要な時に必要な額の融資を受けられる関係です。

会社を取り巻く事業環境は刻々と変化し、時には会社にとって厳しい状況となることもあります。昨今のコロナの影響もそうですが、会社ではコントロールできない外部環境の変化により、急な資金需要が生じることがあります。その時に、ほぼ唯一といえる資金調達手段である銀行からの融資を受けられるかどうかは、会社の存続に大きな影響を及ぼします。

長寿企業と呼ばれる会社は、有事の際の銀行からの融資の可能性を想定し、会社の状況が良い時も悪い時も銀行とのコミュニケーションを心掛けているケースが多く存在します。会社から銀行への定期的な情報提供はもちろんですが、時には銀行から提案を受ける金融商品等の購入なども、良いコミュニケーションの一つと言えるでしょう。

飲食業を営むS社の例を見てみましょう。財務体質が良いS社でしたが、新型コロナウイルスの影響で手元Cashは急激に減少しました。取引銀行に相談したところ、支店長の協力のもと、数カ月で年間売上の1/3に相当する金額の融資を受けられ、コロナ禍においても新店出店などに投資ができています。

S社が同業他社に先駆けて早期に多額の融資を受けることができたのは、平時から銀行と良好な関係を構築していたからです。S社は業績が好調な時期にも銀行との定期的なコミュニケーションを欠かしませんでした。四半期に1回の業績報告、年に1回の決算報告と次年度の事業計画の説明、加えて、支店長や担当者の異動時にもコミュニケーションをとっていました。また、新店出店時の設備資金は手元Cashではなく銀行からの融資で賄う等、日ごろから融資を受けやすい下地もありました。

平時のコミュニケーションがあったことで有事に融資を受けることができた良い例です。

銀行としても、会社との日々のコミュニケーションの中で会社のビジネス・財務の状況を十分理解しておくことで、有事の際に短期間で融資を実行できる素地ができます。将来の事業計画・資金計画に関する情報があると、早期の融資実現にプラス材料になるようです。

株式の承継を経営課題の一つとして認識し、時間をかけて対応

3つ目は「純資産の部(資本)」に関わる特徴です。会社が継続するためには資本を受け継いでいくことが必要です。株式会社の場合、資本(=株式)を持つ株主に相続があった場合、誰かに株式を引き継ぐ必要がありますが、その際に相続税が課されることもしばしばです。

非上場企業の場合は株式を現金化できないケースが多く、相続税の負担が個人に重くのしかかります。特に財務体質の良い会社、収益性の高い会社では、株式に係る相続税が多額になることも多く、株式の承継は企業が長期にわたり存続するための大きな論点の一つです。

では長寿企業は株式の承継にどのように対応しているのでしょうか。

多くの長寿企業では、株式の承継を経営課題の一つに捉え、事業経営を行うことと並行して株式の承継について常に検討をしています。

株式に係る相続税の支払いは、本来、個人の問題(相続税の納税は株主個人で行うものであり会社とは関係ない)ではあるものの、株式を引き継ぐべき人が相続税の支払いができないことを理由に株式を引き継げない場合、会社の存続が危ぶまれるケースがあります。株主個人で相続税の負担ができない場合、相続により引き継いだ株式を会社に売却し(会社からすると自己株式取得)、会社の資金を個人に移したうえで相続税を支払う方法がありますが、そうなると、相続が発生して相続税の負担が生じるたびに、会社から財産が流出することとなります。会社が株式の承継について取り組むことで、会社からの財産の流出を抑えることにもつながる可能性があるのです。

創業100年を超える製薬業界のI社は、会社の経営課題の一つに「資本政策」を堂々と掲げています。I社は、資本を維持できなければ会社の存続が危ぶまれるという危機感を持ち、資本政策(=株式の承継)を株主である創業家だけではなく役員全員で取り組むべき課題と捉えています。取締役会等では経営戦略や人事制度と並行して当たり前のように資本政策に関する議論がなされます。株式の承継に対する意識の高さを感じます。

株式の承継の検討は利益を生むものではなく、一方で時間とコストを要します。しかし、会社を存続させるため、及び、会社からの財産の流出を抑えられる可能性があるという点からは、会社として当然にして取り組むべき論点(経営者として取り組まない理由はない)であり、多くの長寿企業では当たり前のように経営課題の一つとしてとらえ、日々検討しているのです。

加えて、株式の承継の検討は、株式の評価額等のお金の面だけではなく、事業を誰にどのように承継するかといったお金以外の面も考慮する必要があるため、数年単位で時間を要することもあります。検討に要する時間軸を理解し、短期間での効果を求めるのではなく長期的な効果を求めて施策の検討を続ける点も長寿企業に見られる共通点です。

今回は長寿企業に見られるお金に関わる特徴をご紹介いたしました。長寿企業への道は一歩一歩ということになりますが、本稿が長寿企業に関与するすべての方の参考になれば幸いです。

著者

蒲地 正英氏 グロービス経営大学院 准教授/税理士法人カマチ 代表社員

PwC税理士法人にて、日系オーナー企業のクライアントを中心に、事業承継、M&A組織再編成、資本政策、IPO支援、企業再生、連結会計、連結納税、海外展開進出サポート等の総合的な会計及び税務コンサルティング業務に多数従事。金融機関における事業承継対策専門チームのアドバイザーも努める。
相続対策・事業承継のコンサルティング業務では上場企業から中小企業まで100件以上の案件に関与し、現在も多くの経営者から相談を受けている。
PwC退職後に税理士法人カマチの代表社員に就任。蒲地公認会計士事務所代表、バリュエンスホールディングス株式会社社外取締役、株式会社メドレー社外監査役、千房ホールディングス株式会社社外取締役、その他役員の兼務多数。グロービス経営大学院准教授。公認会計士、税理士。
共著:『完全ガイド事業承継・相続対策の法律と税務』(税務研究会)、『国際資産税ガイド』(大蔵財務協会) など。