経営者なら知っておきたい後継者育成のポイント
〜経験者が教える先延ばしにしないための秘策とは〜

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経営者の高齢化が進む中、後継者がいない企業は全体の3割にのぼるともいわれます。いまや貴重な存在となった後継者候補に対して、経営者はどのような方針で育成に臨むべきなのでしょうか。後継者育成に詳しい高橋秀仁氏に聞きました。

後継者育成の先延ばしは「百害あって一利なし」

われわれの日常に大きな影響を及ぼしたコロナ禍は、事業承継にも深刻な停滞をもたらしました。目の前の課題への対応に忙殺され、後継者育成や相続対策など、数年がかりで取り組むはずだった計画を延期したり、中断を余儀なくされたりした経営者も少なくないはずです。

また、かつての日常を取り戻しつつある現在も厳しい経営環境が続いていることから、いまだに事業承継に向けた取り組みを再開できていない会社も見受けられます。しかしながら、そうして「いつかそのうち」と先延ばしにしていても、事業承継に着手できるタイミングは訪れないでしょう。あらゆる条件が整った理想的な環境など、現実的には望むべくもないからです。

後継者にとっては、経営環境が厳しい時期ほど、学びが多いものです。そうした意味で、昨今の状況は後継者に成長を促すチャンスです。むしろ、この難しい局面を経験豊富な経営者が乗り切ってしまうと、後継者から成長の機会を奪ってしまうだけでなく、近頃の後継者によく見られる受け身の姿勢を強めてしまうことにもなりかねません。

もし、何らかの事情で事業承継を先延ばしにしてきたのであれば、早急に具体的な行動を起こすべきではないでしょうか。中でも、後継者育成の先延ばしは「百害あって一利なし」です。

後継者を育てて、会社を末永く発展させることは経営者しかできないことです。事業承継に成功している松下幸之助さんや稲森和夫さんなど、多くの経営者が行っていることです。

レストラン事業からの撤退で味わった2代目の挫折

実は、私自身も2代目で、かつて事業承継に苦しんだ経験があります。

飲食チェーンを退職し、婦人服のセレクトショップを経営していた家業に戻ったのは、私が28歳の時です。早速、子会社が運営していたレストランを任されました。父親は、赤字続きだったレストランの経営再建に取り組ませることで私に経験と実績を積ませ、やがては本業も任せるつもりだったようです。

しかし、その頃の私はあらゆる点で未熟でした。飲食店での経験を活かして業績の回復に努めたものの、チェーン店の手法が単店の経営に活用できるはずもなく、効果は現れませんでした。とにかく成果を出さなければと、セミナーや勉強会で学んだノウハウも導入しましたが、現場が混乱しただけでした。そうして赤字経営から脱することができないまま、3年後には撤退せざるを得なくなったのです。

その過程では、経営方針をめぐって父親と対立し、一時は口もきかないほど険悪な関係になってしまいました。レストランのスタッフたちからも信頼を失い、周囲の冷たい視線を感じながら、私は社内で孤立してしまったことを思い知りました。

その後、自分は後継者として何をすべきだったのかと自問する中で、中小企業診断士というコンサルティングの国家資格を取得することで、経営の基本を学びました。さらに、知識を実行へ移すためにマネジメントやコミュニケーションに関する心理学や脳科学も学びました。そうすると、自分の経営行動の何が正しくて、何が間違っているかを判断できるようになっていきます。失敗を回避することで、結局は成功へと近づき、婦人服店舗も多店舗に増やすことができました。やがて、身に付けた知見がかつての私と同じ境遇にいる後継者や事業承継に悩む経営者の役に立つのではないかと考えるようになり、事業承継の支援に取り組み始めました。以来、コンサルタントとして支援した会社は300社を超えます。

経営者と後継者の認識には微妙なズレがある

私自身の苦い経験もふまえたコンサルティングでは、経営者と後継者が自社の将来ビジョンを共有した「事業承継計画」の作成がプログラムの中核になります。事業承継のスケジュールを明確化して、各プロセスにおいて実現すべきテーマを時期と共に具体的に設定するのです。その際のポイントは、経営者と後継者の双方が「現社長」と「次の社長」として、落ち着いて話し合うことです。仮に両者の意見が違う場合、その意図や考えは、第三者であるコンサルタントが徹底的に間をとりもちます。

たとえば、後継者が受け継ぐべきであると思い込んでいた方針を経営者はあまり重視していなかった、というケースは少なくありません。また、取引先との関係やベテラン従業員の処遇など、過去の経緯から経営者が大切にしてきた習慣や人材の価値に後継者が気付いていないケースも見られます。

こうしたズレが生じるのは、たいてい両者のコミュニケーション不足が原因です。一般的には経営者に比べて後継者は経験が浅く、知見に乏しいことも考慮すべきでしょう。経営者としては、後継者の力量に合わせた伝え方を工夫する必要があります。

さらに、世代間で価値観が異なることも認識の相違の一因になります。既存のルールや習慣を若い世代が眺めると、どうしても欠点ばかりが目についてしまうのです。もちろん、そうした若者の視点が経営改善に役立つ場合もあるとはいえ、長く続いてきた仕組みには必ず受け継がれるだけの理由があると説き、後継者の理解を求めるべきでしょう。

小さな失敗を経験させて社長の仕事を教える

そうして経営者と後継者が認識をすり合わせながら作成する事業承継計画では「経営知識」と「経験」がプログラムの主軸になります。後継者が責任者となって、社内改善や新製品開発・販売など、ちょっとだけ背伸びしたチャレンジプログラムを実行するプロセスが成長を促します。

社業に影響を及ぼさない程度の小さな失敗を経験し、それを克服するプロセスを味わえば、後継者には自信が生まれます。経営知識を使った実践、小さな失敗、経営知識を活用した正しい修正案の実行。これらを管理し、順に実行させることが後継者育成において経営者が果たすべき重要な役割の一つです。

後継者育成に不可欠な知識ですが、ここでいう知識とは実務的な細かいものも含め、「社長の仕事」を理解させることと考えればよいでしょう。

言うまでもなく、経営者の日常業務は多岐にわたります。その根幹となる仕事は経営理念の実践・ビジョンの明確化・経営資源の配分です。それらを自社なりの基本的な型に落とし込み、後継者に教え、まずは型どおりに実践させてみるのです。経営者にとっては当然の日常業務であるからなのか、このプロセスは軽視されやすく、経営者の基本的な仕事がどういうものかを知らない後継者が少なくありません。実際、事業承継後、多くの後継者がこうした知識の不足によって、様々な経営問題に直面しています。

もっとも、留意すべきはあくまで基本形を伝えることです。経営者の個人的な成功体験や思い込みを押し付けてはいけません。そのために、後継者に伝える前に、自身の仕事ぶりが基本形にどの程度沿っているのか、改めて検証してみてもよいでしょう。後継者育成とは、経営者が自身の歩みを振り返る機会でもあるはずです。

100年企業になるためには優秀な後継者の存在が不可欠ですが、スムーズな事業承継を実現するのは経営者です。プロ野球であれば、監督が次の投手(後継者)に準備を指示してくれますが、会社においては経営者が先発投手であり、監督なのです。打者との対決に集中するあまり、ブルペンへの指示が遅れて困るのはチームや先発投手でしょう。いつか必ず訪れる継投の準備に手抜かりのないよう気を付けてください。

お話を聞いた方

高橋 秀仁 氏(たかはし しゅうじん)

中小企業診断士/株式会社高橋 代表取締役

1972年生まれ。1996年龍谷大学経営学部卒業。高級寝具販売会社、飲食チェーン勤務を経て、2000年婦人服のセレクトショップとイタリアンレストランを運営する株式会社高橋に入社。2004年中小企業診断士資格を取得し、経営コンサルティング「アシスト2代目」を開業。自身の経験をもとに、300社を超える企業で後継者育成支援コンサルティングを行ってきた。一般社団法人次世代経営協会理事長。事業承継コーチング協会理事長。著書に『がんばらない2代目が成功する、事業「勝」継の極意』(ギャラクシーブックス)がある。

[編集] 一般社団法人100年企業戦略研究所
[企画・制作協力]東洋経済新報社ブランドスタジオ

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