ファミリー企業の強みとは~次代を育てる若手登用のすすめ

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「成長」から「持続」へ。「業績的価値」から「社会的価値」へ。企業のあり方や経営目標の尺度が変化する中、日本のファミリー企業への関心が高まっています。ファミリー企業の強みはどこにあるのか。ファミリー企業から学べる点は何か。多様な観点からファミリービジネスを研究する柳川範之教授に聞きました。

ファミリー企業の活性化が経済再生のカギ

日本企業、とくに地方の中堅中小企業においては、ファミリー企業が多くを占めています。
その中では、ファミリーの強みを生かしたよい経営をされているところもあれば、残念ながらファミリーであることがマイナスに働き経営を悪くしているところもあり、その二極化が進んでいるというのが現状です。
ファミリー企業の活性化は、地方創生、そして日本経済活性化のカギを握る重要な要素の一つです。

ファミリー企業の特徴として、長期的な視野を持って経営ができることが挙げられます。
一般的に、企業の経営トップは自分の在任中にどれだけ成果を出せるかという点が評価されます。そのことを重視すればするほど、短期間で結果を出そうと経営目線が短いタイムスパンになりがちです。
他方、ファミリー企業の場合、子孫の代まで経営基盤が継続されていくことを重視するので、自分の在任期間だけで終わらない長期的な未来を見据えた経営が志向されます。経営方針が持続することで、例えば地域や社会に対する貢献という面でも、一時的・単発的な活動にとどまらず、持続的に取り組むことが可能になります。

次に「所有と経営が分離していない」こともファミリー企業の特徴です。
オーナーがマネジメントすることで、エージェンシーコスト※が抑えられ、企業価値を総合的に高めていくような動きが取りやすくなります。
ただし、これらの特徴は、ファミリー企業にとっての強みであると同時に、場合によっては弱みにもなります。
例えば長期的視野で経営ができる点は、それが経営の緩みにつながり、放漫経営が放置されるという危険性があります。
上場企業であれば定期的な業績評価があり、十分な成果を上げなければ退任させられることもあります。それがよい意味で経営に緊張感をもたらしたり、あるいは経営のモチベーションになったりしています。

ところが、ファミリー企業の場合、長年の間トップに君臨することができ、そうすると周囲の声を寄せつけず独断で物事を進めてしまう可能性が高まります。加えて「所有と経営が分離していない」がゆえに、不適格な経営者が居座り続けたり、会社を私物化し従業員の利益をないがしろにしたりするなど、経営の腐敗を招くケースもあります。
したがって、「長期的な視野が重要か、短期的な業績を重視すべきか」「所有と経営は一致するのがよいのか、分離すべきなのか」という問題ではなく、双方プラス面とマイナス面があり、どちらにも転ぶ可能性があるのだから、できるだけプラス面を伸ばし、マイナス面を小さくしていくことが重要になるのです。

※経営者と株主との間に生じる利益対立や情報の偏りから起きる企業価値の低下や経済的損失

日本のファミリー企業が見直される理由

人口が減少し縮小する国内経済の中で、中小企業を中心に、従来の「成長」から「持続」へと経営目標がシフトする傾向が見られます。また、業績だけで企業価値を測るのではなく、企業の社会的存在価値が問われる時代になってきています。
そういう意味で、いま日本のファミリー企業に改めて注目が寄せられています。
というのは、創業200年を超える老舗企業のほとんどはファミリー企業であるからです。

これらの企業はしっかりとした企業理念を持ち、商品やサービスを通して、また日々のさまざまな活動を通して地域や社会に貢献することを目指し、またそのことが評価されています。
これは、今日言われるところの「パーパス経営」にも通ずるあり方です。日本のファミリー企業は、パーパス経営という言葉が生まれるずっと以前から、それを実践してきました。経営の先進的な取り組みの行き着く先が、じつは日本の長寿企業が長年やってきたことだったという事実に、いま目が向けられているのです。
とはいえ、ファミリー企業がこれまでの経営スタイルをまったく変えなくてよいという話にはなりません。

変えなければならないのは、経営の「見える化」です。
昔は経営の内実があいまいでも、事業が成り立っていました。例えばファミリー企業の従業員は、ファミリーと会社がどのような関係になっているのか、十分に知らされることはありませんでした。
しかし、現在ではコーポレートガバナンスの重要性が浸透し、利益相反行為を排除することが社会の基本スタンスになっています。経営の透明性を高め、ファミリーと企業経営がきちんと峻別されていることをステークホルダーに明示しなければならない時代になったのです。

早い段階からの後継者育成を

団塊の世代の高齢化に伴い、いま日本のファミリー企業にも世代交代の波が押し寄せています。事業承継、後継者育成は、ファミリー企業に限らず、非ファミリー企業にとっても大きな経営課題です。
経営を担う人材をどう選び、どのようなプロセスで育成していくのか。継承のタイミングはいつがいいのか。これらは難しい判断になるでしょう。
元来、ファミリー企業は子どもに継がせるというアドバンテージがありました。早いうちから陰に陽に後継者としての自覚を促すような家庭環境や仕組みがあるなど、長期的な事業承継戦略を立てることができました。

近年は価値観の変化で従来のようにシンプルに子どもに継がせるというわけにはいかなくなりましたが、早い段階から時間をかけて後継者を育成していくというやり方は、多くの企業が参考にすべき事柄です。
サクセッションプラン(後継者育成計画)に成功の方程式があるわけではありません。ただ、多くの事例を検討していくと、その中に重要なヒントが見出されることがあります。

1つは、「後継者との距離感」です。近すぎると後継者の一挙手一投足が目に入り、やることなすことにいちいち口出しをしてしまいがちです。これは後継者の自由な活動と意思決定を阻害することになります。
したがって、最初から、あるいは一定の段階が来たら、別のフロア、別の棟、別の事業所など、両者が物理的に離れることも有効です。

ファミリー企業の世代交代「ファストトラック」から学ぶ

もう1つは、「自分が得意でない分野を後継者に任せる」という方法です。DXやネット戦略など、近年のビジネスツールは加速度的に進化しており、若い人ほどそれらのツールに早くから親しんでいます。先代・前任者が容易に口出しできない分野を任せることで、独自の意思決定を早くから経験させることができます。
それが発展すれば「別会社を任せる」ことにつながるかもしれません。別会社で日々経営判断を重ねることで、後継者としての地力を身につける機会になります。

日本には経営者を育てるためのファストトラック(特別な昇進コース)を持つ企業が少ないという課題があります。経営トップに就任する年齢が高く、これが日本のマネジメント人材の層の薄さにつながっているのです。
その点、ファミリー企業では若くして経営トップに就任するケースが少なくありません。「若い経営者を育てる」という視点で、非ファミリー企業がファミリー企業に学ぶ点は多々あるはずです。

後継問題では世代間ギャップによる対立や衝突がしばしば起こりますが、世代による違いがあるからこそ世代交代は意味を持ちます。若い経営者の価値観によって、新しい時代環境に合った新しい商品やサービスの提供、新しい販売戦略、人事戦略を採用できたりします。

経営の透明性を高め、ガバナンスが機能していることをステークホルダーに示すなどの条件をクリアすれば、ファミリー企業が強みを発揮していく余地はまだまだあるはずです。
それは非ファミリー企業にとっても次世代の経営モデルとなり、自社の持続的発展を後押ししてくれるのではないでしょうか。

お話を聞いた方

柳川 範之 氏(やながわ のりゆき)

東京大学大学院経済学研究科教授

東京大学大学院経済学研究科・経済学部教授。中学卒業後、父親の海外転勤に伴いブラジルへ。高校に行かずに独学生活を送る。大検を受け慶應義塾大学経済学部通信教育課程へ入学。卒業後、東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。経済学博士(東京大学)。主な著書に『法と企業行動の経済分析』(日本経済新聞出版社)『40 歳からの会社に頼らない働き方』(ちくま新書)『Unlearn 人生100 年時代の新しい「学び」』(共著、日経BP)『東大教授が教える独学勉強法』(草思社文庫)など多数。

[編集] 一般社団法人100年企業戦略研究所
[企画・制作協力]東洋経済新報社ブランドスタジオ

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