健康食品市場拡大に向けた三生医薬の挑戦
~世界に誇るカプセル技術で「第2の健康食品ブーム」を~

目次
「マーケット規模を今の3倍にする」――。三生医薬株式会社の今村朗社長が掲げるこの目標は、単なる企業の成長戦略ではなく、健康食品業界全体を変革しようという強い意志の表れです。同社は1993年の創業以来、固体や液体などの物質をカプセル内に封入するカプセル技術を武器に健康食品業界の先頭を走り続け、顧客や消費者と向き合いながら成長してきました。同社が見つめる、日本の健康食品の未来のあり方とは。事業の変遷とこれからの成長戦略、そして“第2の健康食品ブーム”を切り開く構想に迫ります。
広がるカプセルの可能性 3つのフェーズでたどる事業の変遷と現在地
三生医薬は長年培ってきたカプセル技術を基盤に、健康食品や医薬品の企画・開発・受託製造を手がける、静岡県に本社を置く企業です。1993年にほかのカプセル製造会社からスピンアウトする形で創業し、1ラインでの製造からスタートしました。1980年代の終わり頃から2010年代半ばまでは、ちょうど健康食品ブーム。時代の追い風を受けて急速に成長していきました。
その後、2014年に米国の投資ファンドであるカーライル・グループが同社を買収し、経営の第2フェーズが始まりました。ファンドの方針により同社は「選択と集中」を進めることに。医薬品や健康食品、化粧品、日用品など多角的に展開してきた事業を整理して、健康食品と医薬品に特化する戦略を取りました。
その中で、カプセルの新たな可能性が見えてきます。きっかけとなったのが、「シームレスカプセル」でした。つなぎ目がないうえに、オイルや香料を閉じ込めることができ、食品以外の用途にも応用することができます。さらに近年は、使用時にカプセルを潰して香りを出す「フレーバーカプセル」の市場が拡大し、売上が急成長。こうした製造技術を持つ数少ない企業としてグローバル市場でも高く評価され、取引を拡大していきました。
「カプセルはもっといろいろな用途を考えていけるのではないか」――。そんな気付きから、新規用途開発のための部署を新設し、カプセルの新たな可能性の開拓に取り組み始めます。
2021年には、後発医薬品大手の東和薬品が新たな親会社となり、第3フェーズに入りました。「世界の人々の心と身体の健康に貢献する」をミッションとして、カプセルの新規用途を追求するとともに、食品やサプリメント以外の製品の展開も始めました。
技術力・提案力・サポート力──競争優位を支える3本柱
三生医薬が掲げるミッションの実現を支えるのは、創業から現在までに培ってきた「製剤技術力」「ソリューション力」「サポート力」の3つの力です。
同社はソフトカプセル、ハードカプセル、シームレスカプセル、ゼリー、ドリンクなど、幅広い製品を製造できる技術と工場設備を備えています。さらに、植物性の被膜のソフトカプセルや、グミのようにかんで食べられるソフトカプセルの特許技術を保有。腸で溶ける腸溶性カプセルをはじめ、原料(カプセルの内包物)に合わせて溶けるタイミングを調整したカプセルを作ることができる高い製剤技術を誇ります。また、中身となる原料の開発も独自に進めており、カプセルなどの製品開発に生かしています。
こうした高い製剤技術をもとに、健康食品の販売会社などの顧客と共に製品を作り上げる「ソリューション力」も大きな強みです。東京にある同社の試作体感スタジオ「ADC(アプリケーション・デベロップメント・センター)」では、顧客の目の前で試作や調整を行うことができ、製品開発のリードタイムの大幅な短縮にもつながっています。
「製剤技術と原料を組み合わせて提案するだけでなく、お客様に満足いただける製品をよりスピーディーに作ることができるのが、他社にない強みです」と今村社長は話します。
加えて、長年の経験による「サポート力」も特長です。科学的根拠を基に商品の機能性を表示できる機能性表示食品制度は、消費者庁への届出内容に不備がある場合は差し戻しがあり、届出が受理されるまでに数カ月かかることもあります。そうした中で、これまでに累計693件(2025年9月時点)の届出を支援してきた同社の経験とノウハウを生かし、制度面でのサポートも行っています。
「カプセルのプロ」として、製造から販売まで強力にサポートする。これが三生医薬の揺るぎない武器となっているのです。
「第2の健康食品ブーム」への期待と市場の可能性
現在の日本の健康食品市場の成長は年率2〜3%。年率10%前後で成長していた1980年代後半~2010年代半ばの健康食品ブームと比べれば落ち着いてはいるものの、「市場が縮小しているとは考えていない」と今村社長は話します。
その背景にあるのが、市場が持つ潜在的な可能性です。
「日本のサプリメント摂取率は約25〜30%。一方、アメリカでは70%と約2~3倍の割合です。さらに、高度医療が進み医療費の高騰も懸念される中、ヘルスケアや予防医療の重要性が増しており、健康食品市場のポテンシャルは非常に大きいと考えています」
大きな可能性がある一方で、課題となっているのは消費者からの信頼です。健康食品は性質上すぐに効果が出るものではなく、継続して摂取することが求められます。また、食品の機能性を表示できる保健機能食品以外のいわゆる「健康食品」は、法律上、効果や機能をうたうことができません。そうした現状の中で、課題解決の糸口について今村社長はこう語ります。
「『健康食品は怪しい』という印象は、まだ世の中に根強くあると思います。だからこそ、健康食品が安心・安全であることを消費者に理解してもらい、効果を実感してもらえるようになれば、必ず市場は拡大すると思うのです。時間はかかっても、第2の健康食品ブームは訪れると考えていますし、そのように変えていくのが私たちの仕事です」
「マーケットを3倍に、シェアを2倍に、売上高を6倍にする」という今村社長の言葉は、単なる目標ではなく、戦略に裏打ちされた確信でもあります。
信頼の再構築と強化を目指して 業界構造を変えるリーダーシップ
三生医薬が目指すマーケット拡大に欠かせない、消費者からの「信頼」。そのためには、安心安全な製品作りはもちろんのこと、健康食品についての正しい情報を発信していくことが必要だと今村社長は話します。
それに取り組むため、受託製造会社だけを束ねた業界団体「一般社団法人 日本健康食品工業会(日健工)」を2025年1月に発起人4社で立ち上げました。健康食品業界は主に、販売会社、原料会社、受託製造会社によって成り立っています。これまで、それら全体の業界団体はありましたが、受託製造会社だけが集まる団体はありませんでした。
政府は現在、安全基準の厳格化を進めており、業界全体に対しても品質管理の強化を求めています。その中で、長年にわたって健康食品のバリューチェーンを中心的な存在として支えてきた受託製造会社は、消費者の信頼回復においてこれまで以上に重要な役割と責務を担っているといえます。
一方で、消費者からは、製品を作っているのは販売会社であると見られがちです。信頼の重要性が増しているにもかかわらず、「誰が作っているかが見えにくい」という課題があるのです。
そこで日健工では、健康食品業界の健全な発展に向けて受託製造会社が連携し、正しい情報を発信できるようにしたのです。今村社長は同団体への期待をこう話します。
「活動を通じて、『日健工に所属している会社の製品は安心だから買いたい』と思って手に取っていただけるようなムーブメントを作ることができれば、マーケット拡大の一助になるのではないかと考えています」
“隠れる”から“誇る”へ 業界のカルチャーを変革したい
今村社長は2015年に財務責任者として三生医薬に入社し、2022年に社長に就任しました。
会社の成長に伴い、今や社員数は840名(2025年7月現在)。営業拠点や製造拠点も全国各地に広がっています。企業規模が大きくなった分、社内で組織の垣根を超えた連携が難しくなってきたことが課題だと、今村社長は感じています。そこで、「以前の三生医薬のように、お客様のための最高の製品を、社員みんなで協力し合って作りたい」という思いの下、連携を深めるための取り組みを進めています。
一方で、変革を目指した新たな挑戦も進めています。これまで健康食品業界において、受託製造会社は「黒子」であることに徹してきたといいます。「販売するのはお客様であり、受託製造会社はその裏で作るだけの存在だ」――と。
しかし、消費者が安心して購入し、また、受託製造会社も誇りを持って提供するためには、もっと表に出ていく必要があると今村社長は話します。
「健康食品業界の未来にとっても、受託製造会社で働く人たちが、『私がこれを作ったんだよ』と胸を張って誰かに話せる状態にすることのほうが隠れることよりも大事だと思うんです」
会社の枠を超え、業界のカルチャーをも変えるべく、三生医薬はさまざまな挑戦に取り組んでいるのです。
恐れず、歩みを止めない 変革に求められる姿勢とは
市場規模、市場シェア、そして売上高の拡大に向けて、同社はほかにも多様な試みを行っています。
「健康に資する企業であるからには、作り手である自分たちも健康であり、自信と誇りを持ってお客様に製品を届けられるようになりたい。そのような考えから、まずは社内から変革するため、社員に4種類のサプリ半年分を配布しました。今後健康診断を控えており、社員たちが身をもって効果を実感する機会になればと期待しています」
さらに、2025年10月には、受託製造の常識を変えるような新たな2つのサービスも発表しました。「顧客ごとに専門家チームがアイデア段階から上市まで伴走する『オーダーメイド型』支援」と「届出準備から販売後フォローまで一貫支援する、業界初の『サブスク型』機能性表示食品サポート」です。これらのサービスにより、顧客や消費者が安心できる商品作りをさらに加速させていく考えです。
また、利用者個人の健康状態や理想像に応じてセミパーソナライズされたサプリを提案するプラットフォームのリリースを来春に予定しているほか、今後はサプリが抱える「短期的には効果が見えづらい」「飲み忘れる」といった課題にも挑戦する予定だといいます。
最後に、これからの次代を担うリーダー像について尋ねると、今村社長はこう語りました。
「私は、変化しないこと自体がリスクだと思っています。だから、恐れずつねに変化すること。そして、会社だけでなくマーケットの変革をも自分たちが成し遂げていくのだという意志を持って実行し、リードすることが重要だと思います」
受託製造を軸に、これまでの業界のあり方を見直し、変革に取り組んでいる三生医薬。その根底には「世界の人々の心と身体の健康に貢献する」という揺るぎないミッションがあります。30年以上培ってきた技術と、変化を恐れない姿勢で、同社は健康食品業界の新しい時代を切り開こうとしています。

お話を聞いた方
今村 朗 氏(いまむら あきら)
三生医薬株式会社 代表取締役社長
日本マクドナルド株式会社取締役を務めた後、2015年8月に三生医薬の専務執行役員兼CFOとして入社。2022年に代表取締役社長就任。
[編集]一般社団法人100年企業戦略研究所
[企画・制作協力]東洋経済新報社ブランドスタジオ










