時代を超えて生き残る 「本当に価値ある100年企業」とは

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本記事では、2020年9月15日開催のシンポジウム「THE EXPO 百年の計」に登壇いただいた、経営者・経営学者の方のお話しをさらに深堀りします。
今回は、株式会社経営共創基盤 IGPIグループ会長 冨山 和彦氏にうかがいます。

100年に1度のコロナショック、乗り切れれば100年企業になれる?

この原稿を著している2020年、「コロナショック」が到来しています。生産も消費も落ち込む中、破壊的ともいえる危機が日本中の企業に襲いかかっている。まさに未曾有の事態です。しかしそもそも、これはコロナの時期だけの危機でしょうか。

いいえ。コロナ以前から起きている危機があります。それは、グローバル化とデジタル化による破壊的イノベーションが同時にやって来ているところ。これまで世界を席巻してきた家電系の大企業に代わり、「GAFA(Google、Amazon、Facebook、Appleの頭文字)」と呼ばれる巨大IT企業が台頭するなど、明らかに世界経済のパワーバランスが変わってきています。ぼやぼやしていると、必死に守り通してきた既存事業があっという間に姿を消すことになりかねません。

このような時代の中で、100年企業を目指す会社、あるいは100年続くような強い組織づくりを行うためには、どうあるべきなのか。振り返ってみると、10年ちょっと前にリーマンショックが起き、「世界経済の危機」が叫ばれました。そして今はコロナです。「100年に1度」といわれるような危機がおよそ10年ごとに訪れていることを考えると、コロナをうまく乗り切ったとしても、従来通りの企業のあり方、経営のやり方を続けていては、とても生き残ることはできないと私は考えています。

100年企業とは、古い経営体質を守る企業ではない

では、どうすればよいか。その答えを見いだすヒントが「過去の歴史」の中にあります。1960年代、高度経済成長期の「所得倍増計画」が日本を沸かせていた時代、日本企業は、新卒一括採用、終身年功制といった仕組みによって、気心の知れた同じ顔ぶれで長年働き続ける組織集団を作り上げました。安い賃金で勤勉に働く人が大量生産を生み出す経済社会において、まさに打ってつけの組織でした。これが「日本型カイシャモデル」です。これによって日本は大成功をおさめ、世界の経済大国へと上り詰めていきました。

ところがバブル経済が崩壊して以降、「日本型カイシャモデル」が限界を迎えていることが見えてきたのです。象徴的だったのは、1990年代から繰り広げられた世界的なIT競争。日本企業は、圧倒的な技術力、資金力、生産力を持っていたにもかかわらず、海外のベンチャー企業にまったく歯が立たなかったのです。

なぜそんなことになったのか。分かりやすくいえば、長年にわたって野球をやっていた組織がサッカーの試合に挑まなければならないくらい、大きなビジネスモデルの変革が起こっていたからです。コツコツと真面目に改善を積み重ね、何もかも作り込んで市場に投入する従来のやり方ではなく、未完成でもかまわないのでともかく市場に出し、すばやくPDCAを回す。このビジネスモデルに、「日本型カイシャモデル」は太刀打ちできませんでした。これがIT分野で日本がトップに立てなかった最大の要因です。

こうした歴史から学びとれること。それは、年功序列、終身雇用、集団主義に代表される「日本型カイシャモデル」を存続させることは、100年企業の条件にはなり得ないということです。そう言うと、「年功序列や終身雇用といった『日本の伝統文化』を捨てろと言うのか」という声が聞こえてきそうですが、私は逆に「それは本当にニッポンの伝統文化なのですか?」と問いたいのです。

そもそも、「日本型カイシャモデル」が築かれたのは高度成長期です。それよりもっと昔の江戸時代には、実はまったく正反対のモデルが日本社会の主流を占めていました。庶民の職業は終身雇用どころか、かなり流動的だったし、女性のほとんどは働いており、専業主婦はめったにいませんでした。要するに、「日本型カイシャモデル」の「女性は家庭。男性は会社。社員はみんな働き者で、会社のために粉骨砕身するモーレツ社員」という姿とは、まったく違った社会が広がっていたのです。伝統文化というのなら、むしろ江戸時代の姿のほうがニッポンの伝統文化です。

生き残るのは「変化できる会社」

この30年間、次々にやってきた経済危機の中で、コロナショックは間違いなく最大級の破壊性を持っています。

その渦中を生き抜き、次の時代にコマを進めるために、企業の大中小、伝統企業とベンチャー企業を問わず、私はすべての経営者にこう言いたい。「今こそ、日本型カイシャモデルからの決別を宣言し、それを実行に移そう!」と。

デジタル化、グローバル化のような破壊的イノベーションは、これからもやってきます。そうした時代の動きに対応するには、企業モデルの大変革が必要です。すなわち、日本企業のあり方を大きく変える「コーポレート・トランスフォーメーション」です。従来の日本企業は、同質性、固定性、一元性といったことが組織のキーワードになっていました。しかし今後は、多様性、流動性、多元性が重要になってきます。なぜなら、これからは持続的な変化適応力が必要とされるからです。

これは、同族経営を行ってきた100年企業についても言えることです。オーナー経営の良さを活かしながら、持続的に機能する会社を作りたいなら、「竈の灰までわれのモノ」といった搾取的、封建的なモデルから脱却するコーポレート・トランスフォーメーションを行う必要があります。

コーポレート・トランスフォーメーションが待ったなしの今、私は、既存事業でしっかりと稼ぎながら、次の時代を創り出す新事業を開発する「両利きの経営」が、より一層求められると思っています。「両利きの経営」を簡単に言えば、野球もサッカーも両立できるような多様性のある経営のあり方。そのポイントとなるのは「深化」と「探索」です。「深化」とは、稼ぎ頭となっている現在の事業を深め、収益力をより強固にする経営のこと。一方「探索」とは、新たな成長機会となる事業を模索し、ビジネスとしてものにしていく経営のことです。

サバイバルのための「成功の心得」8カ条

両利きの経営を成し遂げるには、トップの決断、つまり経営者の強烈なリーダーシップが不可欠です。私が目の当たりにしてきたサバイバル経営から学んだ「成功の心得」を列挙します。
①想像力…最悪を想定し、最善の準備をする
②透明性…会社を揺るがすバッド・ニュースから逃げない
③現金残高…危機のときに会社の生死を分けるのはキャッシュ。日繰りのキャッシュ管理で「今日」を生き残る
④捨てる覚悟…「あれも、これも」ではなく「あれか、これか」の優先順位をつけて決断
⑤独断即決…自分で決め、自分で責任をとり、間違いに気づいたら即座に朝令暮改
⑥タフネス…手段の選択について、いかなる批判にも耐える覚悟
⑦資本の名人…融資資金と出資資金の「二種類のお金」を用意する
⑧ネアカ…ベストを尽くしてダメなら次の手を考える、という居直り力

逆に、やってはいけない「べからず集」は以下です。
①見たい現実を見る…不都合な現実から目をそらしては危機を乗り切れない
②精神主義に頼る…経営陣が根性論を言い出したら会社は終わる
③人望を気にする…会社の存亡がかかっているとき、社員は「社長の人望」に関心など持たない
④衆議に頼る…危機のときの衆議は、何がやりたいのか分からない結論をもたらすだけ
⑤敗戦時のアリバイ作りに走る…最善を尽くした証拠作りをしている間に、会社が潰れる
⑥現場主義の意味を取り違える…現場の意見に迎合するだけでは、決断はできない
⑦情理に流される…情に流されると大きな判断ミスにつながる
⑧空気を読む…空気なんてどうでもいい。必要なのは合理的で冷徹な判断力と実行力

わが国の経済の主役は、大企業ではありません。GDPの大半を占めるローカルな中堅・中小企業です。そうした企業がコーポレート・トランスフォーメーションに取り組み、持続することが、価値ある100年企業を生み、日本経済復興のカギになるのではないでしょうか。

お話を聞いた方

冨山 和彦

株式会社経営共創基盤 IGPIグループ会長

1960年生まれ。ボストンコンサルティンググループ、コーポレイトディレクション代表取締役を経て、2003年に産業再生機構設立時に参画しCOOに就任。解散後、2007年に経営共創基盤を設立し、代表取締役CEO就任。2020年10月より現職。パナソニック社外取締役。経済同友会政策審議会委員長。財務省財政制度等審議会委員、内閣府税制調査会特別委員、内閣官房まち・ひと・しごと創生会議有識者、内閣府総合科学技術・イノベーション会議基本計画専門調査会委員等も務める。 主著に『なぜローカル経済から日本は甦るのか GとLの経済成長戦略』(PHP新書)、『コーポレート・トランスフォーメーション――日本の会社をつくり変える』(文藝春秋)。

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