100年企業レポート vol.17 福岡編
目次
はじめに
日本は創業100年を超える長寿企業(本レポートでは『100年企業』と呼ぶ)が世界で最も多い国である。その理由や影響を与える要素が何であるかを探ることを、本研究のテーマにした。そして各都道府県の100年企業の特性や傾向を明らかにし、100年企業を創出しやすい環境や要因について分析を行うことが本研究の目的である。
1.福岡県の100年企業に関する分析
日本の南部に位置し、古代より日本の玄関口として中国大陸や朝鮮半島と交流していた福岡県。かつては、大宰府政庁や鴻臚館(こうろかん)といった外交施設が存在し、栄えていた。今もなお、博多空港や博多港といった空海のどちらも海外、日本、九州を結んでおり、移動の拠点として栄えているのである。
福岡県の100年企業数は、847社であり、全国13位である。
また、福岡県と言えば辛子明太子やもつ鍋を思い浮かべる方が多いのではないだろうか。しか し、福岡県の特産物はそれだけではない。たけのこや唐辛子、かいわれ大根が全国 1 位、いち ごやキウイ、水菜が全国 2 位の生産量を誇る。そして、ラーメンが有名な福岡県では、ラーメ ン用小⻨(ラー⻨)の生産も盛んなのである。
本レポートでは、100年企業数に相関の高い指標別にレーダーチャートを用いて、福岡県の特性を分析した。
九州経済を牽引する福岡県、
働き先などの3指標が10位以内に
福岡は九州経済の中心地として、多くの企業が支店を構える都市であり、働き世代(生産年齢人口数)と働き先(事業所数)が多い。また人件費やオフィス賃料が他の大都市と比較して割安であり、創業支援の取組みも充実していることから、ビジネスを始めるには最適な環境であり、開業率が高いのも特徴である。
一方、福岡県は九州の中心地でありながら、相続税課税割合はそれほど高くない。これは課税される層が博多市や北九州市など限定的なためである。しかし、今後地価の二極化が進むにつれて、相続税対策が重要になると想定される。
2.福岡県の100年企業データ
①創業年は『明治後期』が最多
創業年の時代別では、最多が『明治後期』の構成比40.7%であった。次いで『大正以降』の31.6%、『明治前期』の19.8%、『江戸時代』の7.6%の順である。
江戸時代に編纂された『筑前国続風土記』によると、福岡には造り酒屋が613軒あったとされている。また西南戦争の士気高揚に福岡の酒が用いられるほど酒造が盛んであった。明治以降は北九州工業地帯の発展や重化学コンビナートの形成が進んだ。土木工事業などの建設業が近代化を支えたのである。
②創業年TOP5
福岡県の創業年TOP5は下記の5社である。
第1位の有限会社復古堂は、全国で40位となっている。
③市町村別は『福岡市』が最多
市町村別100年企業数では福岡市が229社で最多であった。
1位の福岡市では、『建築工事業』が9社と最も多く、次いで『他に分類されないその他の卸売業』、『一般病院』、『他に分類されない非営利的団体』の3業種がそれぞれ6社である。
2位の北九州市は、100年企業数170社であり、業種別に見ると『その他の産業機械器具卸売業』が5社と最も多く、次いで『建築工事業』、『オフセット印刷業(紙)』、『石油卸売業』、『一般病院』の4業種がそれぞれ4社である。
3位の久留米市は、100年企業数95社であり、業種別に見ると『清酒製造業』が5社と最も多く、次いで『建築工事業』、『雑穀・豆類卸売業』、『その他の食料・飲料卸売業』、『酒小売業』の4業種がそれぞれ3社である。
④産業は『製造業』が全国10位
産業別では、『卸売・小売業、飲食店』が382社(構成比45.1%)と最も多かった。次いで、『製造業』219社(同25.9%)、『建設業』92社(同10.9%)の順である。
福岡県は古くから製造業が盛んであり、製造業219社は全国10位である。江戸時代には、博多織、久留米絣などの工芸品の生産が盛んであった。明治時代になると、筑豊地域の炭鉱業や八幡の製鉄業を中心に「北九州工業地帯」が形成され、南部の大牟田地区には重化学コンビナートも造られた。こうした石炭・鉄鋼産業の繁栄は、福岡だけでなく日本の近代化にも大きく貢献したのである。
⑤業種は『貸事務所業』が最多
業種別では、『貸事務所業』が27社で最多であった。本業が好調時に不動産を取得し、その後本業が縮小したケースがほとんどである。『貸事務所業』は東京をはじめとする大都市で多い傾向があり、九州最大都市である福岡県にもあてはまる。
2位は『清酒製造』が22社であった。明治時代に酒造業を重要産物に指定したことで販路が拡大した。品質や人気が高まり、県の代表産業へ成長していったのである。
3位は『土木工事業』が21社であった。九州の交通の要衝として交通基盤の整備などが進んだことや、明治以降の工業地帯の発展によるものと考えられる。
⑥資本金は『1千万円以上~5千万円未満』が最多
資本金別では、『1千万円以上~5千万円未満』が構成比49.7%と最も多かった。次いで、『1千万円未満』が17.7%、『5千万円以上~1億円未満』が7.5%の順である。
資本金トップは国立大学法人九州大学(業種:大学)が1,461億円。以下、株式会社福岡銀行(業種:普通銀行)が823億円、国立大学法人九州工業大学(業種:大学)が416億円の順であった。
上位10社のうち製造業が3社、教育・学習支援業、金融業、卸売・小売業が各2社であった。
⑦従業員数は『10人未満』が5割超え
従業員別では、『4人以下』が構成比32.4%と最も多かった。次いで、『10~49人』が31.4%、『5~9人』が19.7%の順である。10人未満で5割を超える。
福岡県の100年企業の多くは小規模企業であるがTOTO株式会社は従業員7,000人を超え、西日本鉄道株式会社と国立大学法人九州大学は従業員4,000人を超える。
⑧売上高は『1億円以上~10億円未満』が最多
売上高別では、『1億円以上~10億円未満』が構成比39.4%と最も多かった。次いで、『1億円未満』が38.3%、『10億円以上~100億円未満』が16.8%の順である。
売上高上位10社のうち卸売・小売業が4社と最も多く、次いで製造業が3社であった。
⑨本業以外に貸事務所業を行っている企業は12社
福岡県で本業もしくは副業にて不動産業を行っている企業は55社であり、構成比では全国14位となっている。
そのうち、本業以外に貸事務所業を行っている企業は12社存在しており、上場企業は1社であった。
貸事務所業との組み合わせは、産業別で見ると卸売・小売業が5社と最も多い。
データについて
・本レポートにおいて、創業100年以上経過した企業を『100年企業』と定義する。
・本レポートでは、信用調査機関の企業データから、創業年が1919年(大正8年)以前の企業を抽出した。
※創業年について
創業年が「○○年間」等のように元号もしくは時代のみ判明している場合は、その元号もしくは時代の最終年を創業年としている。ただし、江戸時代は前・中・後期に分けている。
※対象企業について
営利企業を中心としているが、非営利団体(学校、病院など)も含む。ただし、宗教法人は除いている。
※クラスター分類について
・本レポートの全国編にて、47 都道府県を7 クラスターに分類している。各クラスターについての詳細は全国編参照。
※本レポート記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本レポートは情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものでもありません。
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著者
株式会社ボルテックス 100年企業戦略研究所
1社でも多くの100年企業を創出するために。
ボルテックスのシンクタンク『100年企業戦略研究所』は、長寿企業の事業継続性に関する調査・分析をはじめ、「東京」の強みやその将来性について独自の研究を続けています。