100年企業レポート vol.18 富山編
目次
はじめに
日本は創業100年を超える長寿企業(本レポートでは『100年企業』と呼ぶ)が世界で最も多い国である。その理由や影響を与える要素が何であるかを探ることを、本研究のテーマにした。そして各都道府県の100年企業の特性や傾向を明らかにし、100年企業を創出しやすい環境や要因について分析を行うことが本研究の目的である。
1.富山県の100年企業に関する分析
日本海側に位置する富山県は、東には日本三大山脈と呼ばれる飛騨山脈の一部である立山連峰、南には飛騨山脈、⻄にも石川県との県境の山があり、多くの山々に囲まれている。各山地を源にしている複数の河川が南北に流れ、富山湾へと繋がっている。そしてこれらの河川の扇状地として平野が発達した自然豊かな地域である。
富山県の100年企業数は、559社であり、全国23位である。
富山湾は、日本海で最大の外洋性内湾であり、水深は300m以上、もっとも深い場所で1,000mを超えるという。水深が多岐に渡るため、日本海に分布する800種のうち、500種の魚が獲れると言われるほど魚の種類が豊富である。その中でも特に、ブリ、ホタルイカ、シロエビは「富山のさかな」としてシンボルマークにもなっている。
本レポートでは、100年企業数に相関の高い指標別にレーダーチャートを用いて、富山県の特性を分析した。
女性と高齢者の就業率が全国トップクラスであり、
有効求人倍率が高い
富山県は『100年企業輩出率』が高い。「富山の薬売り」として300年以上の歴史と伝統を持つ医薬品産業は、新たな技術や研究によりさらに発展し、現在も県の産業を支えている。また、富山県は共働き家庭が多いことや女性と高齢者の就業率が全国トップクラスであることから、『有効求人倍率』が高いのも特徴である。
世帯収入も高く、持ち家率や1住宅あたりの延べ面積が全国トップであることから、富山県民は広い家を持ち、経済的に豊かな暮らしをしていることが想像できる。今後は相続税対策が重要となってくる可能性が高いのではないだろうか。
2.富山県の100年企業データ
①創業年は『明治後期』が最多
創業年の時代別では、最多が『明治後期』の構成比42.3%であった。次いで『大正以降』の25.2%、『明治前期』の23.0%、『江戸時代』の9.4%の順である。
富山県では、古くから河川の氾濫などの水害が起きていた。堤防建築や河川改修などの治水事業を重点的に推し進めたため、明治後期から大正にかけては工事業が多い。富山県が石川県から分県したのも治水事業がきっかけである。その後ダム建設や水力発電に展開し、富山県は日本海側屈指の工業地帯として発展していった。
②創業年TOP5
富山県の創業年TOP5は下記の5社である。
第1位の有限会社清水薬品は、全国で434位となっている。
③市町村別は『富山市』が最多
市町村別100年企業数では富山市が151社で最多であった。
1位の富山市では、『木材・竹材卸売業』が7社で最も多く、次いで『清酒製造業』、『呉服・服地小売業』の2業種がそれぞれ5社である。
2位の高岡市は、100年企業数121社であり、業種別に見ると『呉服・服地小売業』が5社で最も多く、次いで『宗教用具製造業』、『宗教用具小売業』の2業種がそれぞれ4社である。
3位の射水市は、100年企業数34社であり、業種別に見ると『土木工事業』、『一般管工事業』、『乾物卸売業』、『石油卸売業』、『婦人服小売業』の5業種がそれぞれ2社で最も多い。
④産業は『製造業』が盛ん
産業別では、『卸売・小売業、飲食店』が279社(構成比49.9%)と最も多かった。次いで、『製造業』141社(同25.2%)、『建設業』66社(同11.8%)の順である。
元禄期に富山藩の経済を売薬が担っていたことから、現在も全国有数の薬産地として、地元の医薬品企業や大手メーカーの工場が立地する。また、薬の製造に関連して、紙袋・包装用紙器、容器などの新たな産業も生まれ、工業集積が拡大し、製造業が発展していった。
⑤業種は『呉服・服地小売』が最多
業種別では、『呉服・服地小売』が22社で最多であった。北陸地方は古くから繊維業が盛んであった。富山県でも明治以前から砺波などで麻、綿、絹の生産が行われ、絹織物業が発展した。その販路は京都や江戸にまで拡がったのである。代表的な絹織物が『城端絹織物(じょうはなきぬおりもの)』である。
2位は『清酒製造』が15社であった。富山県の酒造りの発展は江戸時代から200年にわたって続いている。北アルプスの良質な水に恵まれているため、富山県産の酒米や水を使い、酒造りを行う蔵元がほとんどである。
また豊かな自然を持つ富山県では農業や漁業も盛んであったことから、『ほかの水産食料品製造』、『生鮮魚介卸』、『米麦卸』なども上位に入っている。
⑥資本金は『1千万円以上~5千万円未満』が最多
資本金別では、『1千万円以上~5千万円未満』が構成比50.7%と最も多かった。次いで、『1千万円未満』が15.1%、『5千万円以上~1億円未満』が7.7%の順である。
資本金トップは株式会社北陸銀行(業種:普通銀行)が1,404億円。以下、株式会社ほくほくフィナンシャルグループ(業種:純粋持株会社)が708億円、朝日印刷株式会社(業種:紙器製造業)が22億円の順であった。
上位10社のうち製造業が5社、金融業が3社である。
⑦従業員数は『10人未満』が5割超え
従業員別では、『4人以下』が構成比37.9%と最も多かった。次いで、『10~49人』が31.8%、『5~9人』が19.1%の順である。10人未満で5割を超える。
富山県の100年企業の多くは小規模企業であるが、株式会社北陸銀行は従業員2,000人を超え、朝日印刷株式会社、株式会社廣貫堂の2社は従業員500人を超える。
⑧売上高は『1億円未満』が最多
売上高別では、『1億円未満』が構成比47.1%と最も多かった。次いで、『1億円以上~10億円未満』が37.5%、『10億円以上~100億円未満』が12.7%の順である。
売上高上位10社のうち卸売・小売業が5社、製造業が4社である。
⑨本業以外に貸事務所業を行っている企業は7社
富山県で本業もしくは副業にて不動産業を行っている企業は10社であり、構成比では全国44位となっている。
そのうち、本業以外に貸事務所業を行っている企業は7社存在しており、上場企業は0社であった。
貸事務所業との組み合わせは卸売・小売業が3社、製造業が2社であるが、本業以外に貸事務所業を行っている企業は少ない。北陸3県は、本業で貸事務所業を行っている企業も少ないという特徴がある。
データについて
・本レポートにおいて、創業100年以上経過した企業を『100年企業』と定義する。
・本レポートでは、信用調査機関の企業データから、創業年が1919年(大正8年)以前の企業を抽出した。
※創業年について
創業年が「○○年間」等のように元号もしくは時代のみ判明している場合は、その元号もしくは時代の最終年を創業年としている。ただし、江戸時代は前・中・後期に分けている。
※対象企業について
営利企業を中心としているが、非営利団体(学校、病院など)も含む。ただし、宗教法人は除いている。
※クラスター分類について
・本レポートの全国編にて、47 都道府県を7 クラスターに分類している。各クラスターについての詳細は全国編参照。
※本レポート記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本レポートは情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものでもありません。
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著者
株式会社ボルテックス 100年企業戦略研究所
1社でも多くの100年企業を創出するために。
ボルテックスのシンクタンク『100年企業戦略研究所』は、長寿企業の事業継続性に関する調査・分析をはじめ、「東京」の強みやその将来性について独自の研究を続けています。