100年企業レポート vol.22 兵庫編
目次
はじめに
日本は創業100年を超える長寿企業(本レポートでは『100年企業』と呼ぶ)が世界で最も多い国である。その理由や影響を与える要素が何であるかを探ることを、本研究のテーマにした。そして各都道府県の100年企業の特性や傾向を明らかにし、100年企業を創出しやすい環境や要因について分析を行うことが本研究の目的である。
兵庫県の100年企業に関する分析
日本で初めてユネスコの世界遺産に登録された国宝「姫路城」をはじめ、世界最長の吊り橋である「明石海峡大橋」や、鎖国政策の終わりと近代日本の幕開けの面影を残す神戸旧居留地など、地域の歴史的魅力や特色が豊富な兵庫県。文化庁が認定する日本遺産の数も全国最多である。それぞれの季節に異なる魅力あふれる自然や風景を求めて、年間を通して多くの観光客が足を運んでいる。
兵庫県の100年企業数は、1,225社であり、全国6位である。
兵庫県の特徴として欠かせないのが「温泉」。戦国三英傑の1人に数えられている、かの有名な戦国武将‟豊臣秀吉“もこよなく愛した伝統の湯どころ「有馬温泉」や、1300年もの歴史がある「城崎温泉」は古くから多くの文豪も訪れ、白樺派を代表する小説家のひとり‟志賀直哉”の『城の崎にて』はこの地で執筆された小説として有名である。多くの温泉旅館やホテルが立ち並び、昔も今も変わらぬ賑わいのある温泉地として、国内有数の人気を誇っている。
本レポートでは、100年企業数に相関の高い指標別にレーダーチャートを用いて、兵庫県の特性を分析した。
国際貿易やインバウンドの拠点として
多様な働き方と国際文化交流を推進する街
兵庫県は、古くから海陸交通の要所であった。現在では日本における国際貿易の拠点というだけでなく、国際文化の交流拠点としても重要な役割を果たしている。日本の大企業の工場や研究所をはじめ、外資系企業も数多く立地しており『生産年齢人口数』や『事業所数』は全国と比較しても多い。しかしながら、『有効求人倍率』は全国平均を下回っている。そのため兵庫県では、若者の県内定着や女性や高齢者への多様な働き方推進等雇用環境を改善するための施策に取り組んでいる。
2.兵庫県の100年企業データ
①創業年は『明治後期』が最多
創業年の時代別では、最多が『明治後期』の構成比40.7%であった。次いで『大正以降』の32.4%、『明治前期』の17.4%、『江戸時代』の9.2%の順である。
江戸時代には『清酒製造業』を筆頭に、養蚕業、塩業、工業などの分野が発達したとされている。明治以降は、神戸港の新設により付近に行政施設や駅、商店街などが造られたため、小売・卸売業が増えていった。また外国人居留地が置かれ、貿易都市として発展していく際に、基盤整備を行うための建築工事業も増えたと思われる。
②創業年TOP5
兵庫県の創業年TOP5は下記の5社である。
第1位の株式会社古まんは、全国で5位となっている。
③市町村別は『神戸市』が最多
市町村別100年企業数では神戸市が350社で最多であった。
1位の神戸市では、『貸事務所業』が10社と最も多く、次いで『港湾運送業』が9社、『建築工事業』、『清酒製造業』の2業種がそれぞれ7社である。
2位の姫路市は、100年企業数162社であり、業種別に見ると『その他の産業機械器具卸売業』が4社と最も多く、次いで『生菓子製造業』、『酒類卸売業』を含む計8業種がそれぞれ3社である。
3位の尼崎市は、100年企業数68社であり、業種別に見ると『建築工事業』が4社と最も多く、次いで『製缶板金業』、『一般貨物自動車運送業』の2業種がそれぞれ3社である。
④産業は『卸売・小売業、飲食店』が最多
産業別では、『卸売・小売業、飲食店』が517社(構成比42.2%)と最も多かった。次いで、『製造業』338社(同27.6%)、『建設業』151社(同12.3%)の順である。
兵庫県では、明治時代の殖産興業政策により尼崎市から神戸市にかけてのエリアが「阪神工業地帯」として発展した。その後、加古川市から姫路市あたりに「播磨臨海工業地帯」も広がり、この二大工業地帯における重化学工業を中心に兵庫県の産業が発展してきたのである。
一方で、古くから地域で発達した地場産業も県内各地に数多く存在しており、約40業種の地場産業が集積している。その中でも、清酒、手延素麺、釣針などは全国トップシェアを誇る。
⑤業種は『清酒製造』が最多
業種別では、『清酒製造』が35社で最多であった。酒どころの「灘」で酒屋が創業したのは江戸時代初期から中期である。その後、丹波杜氏の高い技術や江戸への海上輸送の発達などの要因により、日本一の酒どころと言われるようになり、現在に至る。
2位は『貸事務所業』が31社であった。本業が好調時に不動産を取得し、その後本業が縮小したケースがほとんどであり、東京をはじめとする大都市で多い傾向がある。神戸港開港による都市基盤の構築や、明治以降の工業地帯の発展により建設業も盛んとなった。そのため各種工事業も上位に入っている。
⑥資本金は『1千万円以上~5千万円未満』が最多
資本金別では、『1千万円以上~5千万円未満』が構成比60.1%と最も多かった。次いで、『1千万円未満』が12.2%、『5千万円以上~1億円未満』が8.4%の順である。
資本金トップは株式会社神戸製鋼所(業種:高炉による製鉄業)が2,509億円。以下、兵庫県信用農業(業種:信用農業協同組合連合会)が1,705億円、国立大学法人神戸大学(業種:大学)が1,217億円の順であった。
上位10社のうち製造業が7社であった。
⑦従業員数は『10人未満』が約5割
従業員別では、『10~49人』が構成比31.7%と最も多かった。次いで、『4人以下』が28.3%、『5~9人』が21.2%の順である。10人未満で約5割を占める。
兵庫県の100年企業の多くは小規模企業であるが、川崎重工業株式会社、株式会社神戸製鋼所の製造業2社は従業員10,000人を超える。
⑧売上高は『1億円以上~10億円未満』が最多
売上高別では、『1億円以上~10億円未満』が構成比40.6%と最も多かった。次いで、『1億円未満』が34.9%、『10億円以上~100億円未満』が17.6%の順である。
売上高上位10社のうち製造業が6社であった。
⑨本業以外に貸事務所業を行っている企業は25社
兵庫県で本業もしくは副業にて不動産業を行っている企業は83社であり、構成比では全国12位となっている。
そのうち、本業以外に貸事務所業を行っている企業は25社存在しており、上場企業は2社であった。
貸事務所業との組み合わせは、製造業が9社と最も多く、次いで卸売・小売業が7社、運輸業が4社の順である。
データについて
・本レポートにおいて、創業100年以上経過した企業を『100年企業』と定義する。
・本レポートでは、信用調査機関の企業データから、創業年が1919年(大正8年)以前の企業を抽出した。
※創業年について
創業年が「○○年間」等のように元号もしくは時代のみ判明している場合は、その元号もしくは時代の最終年を創業年としている。ただし、江戸時代は前・中・後期に分けている。
※対象企業について
営利企業を中心としているが、非営利団体(学校、病院など)も含む。ただし、宗教法人は除いている。
※クラスター分類について
・本レポートの全国編にて、47 都道府県を7 クラスターに分類している。各クラスターについての詳細は全国編参照。
※本レポート記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本レポートは情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものでもありません。
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著者
株式会社ボルテックス 100年企業戦略研究所
1社でも多くの100年企業を創出するために。
ボルテックスのシンクタンク『100年企業戦略研究所』は、長寿企業の事業継続性に関する調査・分析をはじめ、「東京」の強みやその将来性について独自の研究を続けています。