100年企業レポート vol.28 和歌山編
目次
はじめに
日本は創業100年を超える長寿企業(本レポートでは『100年企業』と呼ぶ)が世界で最も多い国である。その理由や影響を与える要素が何であるかを探ることを、本研究のテーマにした。そして各都道府県の100年企業の特性や傾向を明らかにし、100年企業を創出しやすい環境や要因について分析を行うことが本研究の目的である。
和歌山県の100年企業に関する分析
本州最南端の地を擁する和歌山県は、温暖な気候と自然豊かな風土が特徴。海の荒波が生み出した自然の造形美や、日本三美人湯として名高い豊富な温泉地、高野山や黒江の街並みなど、エリアごとに異なる雰囲気を持つスポットが多い。三重県・奈良県・和歌山県にまたがる雄大な山々と美しい森に包まれた紀伊山地には、2004年に世界文化遺産に登録された「紀伊山地の霊場と参詣道」があり、その代表格ともいえる熊野三山(熊野本宮大社・熊野速玉大社・熊野那智大社)へと続く参詣道・熊野古道には、毎年多くの観光客が訪れている。
和歌山県の100年企業数は、373社であり、全国36位である。
和歌山県は、梅栽培に適した気候と土壌の恩恵を受け、梅の生産量日本一を誇っている。みなべ地方では、より品質の高い梅を求め品種改良し、梅の最高峰ブランドとして名を馳せる「南高梅」が生まれた。「南高梅」は、果実が非常に大きいことに反して、一般の梅よりも種が小さく、果肉が厚く柔らかいことが特徴。梅干しだけではなく、飲料や菓子にも加工され、日常の食卓のお供だけでなく、贈答品としても人気がある。
本レポートでは、100年企業数に相関の高い指標別にレーダーチャートを用いて、和歌山県の特性を分析した。
100年企業輩出率は高いものの
少子高齢化と人口流出が課題
和歌山県は面積の大半を山林が占めているため「木の国」とも言われている。紀州の桐を使った「紀州たんす」は伝統工芸品であり、江戸時代から作られている。こうした自然環境や歴史を背景に受け継がれている産業や工芸品が多く『100年企業輩出率』が高い県である。しかしながら少子高齢化の進行や、人口流出の問題から働き世代(生産年齢人口数)は近畿地方では最も少ない状況である。そのため和歌山県では、人口減少の抑制に向けた取り組みとこれからの人口減少時代に適応した地域づくりを進める戦略を実行している。
2.和歌山県の100年企業データ
① 創業年は『明治後期』が最多
創業年の時代別では、最多が『明治後期』の構成比41.5%であった。次いで『大正以降』の25.3%、『明治前期』の22.0%、『江戸時代』の10.9%の順である。 和歌山県は清酒や海産物、日用品など古くから続く企業が多い。その中でも織物業は江戸時代から行われていたとされている。明治時代になると、綿ネルが有名となり、地場産業に発展した。また江戸後期の足袋生産から縫製業も発展。こうした地場産業の発展により、今日まで多くの服飾産業が継続しているのである。
② 創業年TOP5
和歌山県の創業年TOP5は下記の5社である。
第1位の株式会社みそや呉服店は、全国で39位となっている。
③ 市町村別は『和歌山市』が最多
市町村別100年企業数では和歌山市が127社で最多であった。
1位の和歌山市では、『家具小売業』が7社と最も多く、次いで『建築工事業』や『海藻加工業』を含む8業種がそれぞれ3社である。
2位の海南市は、100年企業数36社であり、業種別に見ると『漆器製造業』が4社と最も多く、次いで『清酒製造業』や『その他の建築材料卸売業』を含む4業種がそれぞれ2社である。
3位の田辺市は、100年企業数33社であり、業種別に見ると『家具小売業』が3社と最も多く、次いで『オフセット印刷業』、『生鮮魚介卸売業』、『旅館・ホテル』の3業種がそれぞれ2社である。
④ 産業は『卸売・小売業、飲食店』が最多
産業別では、『卸売・小売業、飲食店』が192社(構成比51.5%)と最も多かった。次いで、『製造業』120社(同32.2%)、『建設業』29社(同7.8%)の順である。
気候が温暖な和歌山県では、南部を中心に農業や水産業が盛んであり、全国的に有名な有田ミカンの栽培は江戸時代から行われている。一方北部では、鉄鋼や石油化学など重科学工業の工場が数多く立ち並ぶ阪神工業地帯が発展しており、製造業が盛んである。
また、高野山・熊野古道といった世界遺産をはじめとする魅力ある観光資源が数多くあるため、観光業も和歌山県の経済を支える重要な産業と言える。
⑤ 業種は『肥料・飼料小売』が最多
業種別では、『肥料・飼料小売』が11社で最多であった。和歌山県は農業が盛んであり、特に果樹栽培においては、県内作付面積の6割を超え、全国でも果物の農業産出額は毎年トップクラスである。有名な有田ミカンは江戸時代から栽培されており、品質向上のため土壌改良などの努力を続けたことにより、今日に至っている。このように和歌山県の農業は、分析に基づいた適正な施肥や、作物に応じた肥料の普及によって支えられてきたのである。
2位は『荒物卸』が10社であった。和歌山県では「棕櫚(しゅろ)」を原料とした日用品の製造が地場産業として発展している。その由来は、山村に住む人々が生計を立てるため、縄、蓑、束子、箒などを製造し、売り歩いたとされている。
その他にも「紀州箪笥」や「紀州漆器」など、様々な日用品の地場産業が発展している。
⑥ 資本金は『1千万円以上~5千万円未満』が最多
資本金別では、『1千万円以上~5千万円未満』が構成比58.8%と最も多かった。次いで、『1千万円未満』が15.9%、『5千万円以上~1億円未満』が2.5%の順である。
資本金トップは株式会社紀陽銀行(業種:普通銀行)が800億円。以下、きのくに信用金庫(業種:信用金庫)が25億円、ライオンケミカル株式会社(業種:医薬品製剤製造業)が1億円の順であった。
上位12社のうち製造業が5社、建設業が3社である。
⑦ 従業員数は『10人未満』が6割超え
従業員別では、『4人以下』が構成比39.6%と最も多かった。次いで、『10~49人』が28.7%、『5~9人』が23.4%の順である。10人未満で6割を超える。
和歌山県の100年企業の多くは小規模企業であるが、株式会社紀陽銀行は従業員2,000人を超え、きのくに信用金庫は従業員700人を超える。
⑧ 売上高は『1億円未満』が最多
売上高別では、『1億円未満』が構成比45.7%と最も多かった。次いで、『1億円以上~10億円未満』が40.9%、『10億円以上~100億円未満』が11.7%の順である。
売上高上位10社のうち製造業と卸売・小売業がそれぞれ4社である。
⑨ 本業以外に貸事務所業を行っている企業は8社
和歌山県で本業もしくは副業にて不動産業を行っている企業は17社であり、構成比では全国30位となっている。
そのうち、本業以外に貸事務所業を行っている企業は8社存在しており、上場企業は0社であった。
貸事務所業との組み合わせで多いのは、卸売・小売業が5社と最も多い。
データについて
・本レポートにおいて、創業100年以上経過した企業を『100年企業』と定義する。
・本レポートでは、信用調査機関の企業データから、創業年が1919年(大正8年)以前の企業を抽出した。
※創業年について
創業年が「○○年間」等のように元号もしくは時代のみ判明している場合は、その元号もしくは時代の最終年を創業年としている。ただし、江戸時代は前・中・後期に分けている。
※対象企業について
営利企業を中心としているが、非営利団体(学校、病院など)も含む。ただし、宗教法人は除いている。
※クラスター分類について
・本レポートの全国編にて、47 都道府県を7 クラスターに分類している。各クラスターについての詳細は全国編参照。
※本レポート記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本レポートは情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものでもありません。
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著者
株式会社ボルテックス 100年企業戦略研究所
1社でも多くの100年企業を創出するために。
ボルテックスのシンクタンク『100年企業戦略研究所』は、長寿企業の事業継続性に関する調査・分析をはじめ、「東京」の強みやその将来性について独自の研究を続けています。