100年企業レポート vol.33 滋賀編
目次
はじめに
日本は創業100年を超える長寿企業(本レポートでは『100年企業』と呼ぶ)が世界で最も多い国である。その理由や影響を与える要素が何であるかを探ることを、本研究のテーマにした。そして各都道府県の100年企業の特性や傾向を明らかにし、100年企業を創出しやすい環境や要因について分析を行うことが本研究の目的である。
滋賀県の100年企業に関する分析
日本のほぼ真ん中に位置し、その中央に県土の約6分の1を占める日本最大の湖・琵琶湖をもつ滋賀県。古くから水路・陸路が栄え交通の重要な要衝であり、天下統一のために掌握しておきたい重要拠点であった。そのため琵琶湖の周りには城が多く、その中でも「彦根城」は、世界遺産には登録されていないものの、多彩な破風と細部のデザイン性が特徴で戦国時代を生き抜くため、仕掛けが多く存在している。
滋賀県の100年企業数は、540社であり、全国25位である。
1600年に徳川方と豊臣方が対決した「天下分け目の合戦」で有名な関ヶ原。この地は戦だけではなく、「東西文化の境界線」といわれている。特にいまでも根強く残っているのが食文化である。実際大手食品会社のうどんつゆの味は岐阜と滋賀を境に変えられ、カレーに入れる肉についても、きれいに「豚肉派」と「牛肉派」の境界となっているという。戦国時代に生まれた「天下分け目」は「食の東西の分け目」であるともいえる。
本レポートでは、100年企業数に相関の高い指標別にレーダーチャートを用いて、滋賀県の特性を分析した。
近江商人の活動が影響し『100年企業輩出率』が高く
ベットタウン化によって『相続税課税割合』も高い
日本最大の湖である「琵琶湖」を有する滋賀県は、今や多くの企業の経営理念の根幹となっている経営哲学『三方よし』で有名な近江商人誕生の地である。滋賀県の『100年企業輩出率』が高いのは、滋賀県を拠点として全国に事業を展開していた近江商人の活動が大きく影響を与えていると推察される。
また、滋賀県は京都府や大阪府へのアクセスがよく、ベッドタウンとして機能しているため『相続税課税割合』が高い。地価動向によっては、今後課税の対象となる地域も出てくることも予想されるので、今から対策を進めておく必要がある。
2.滋賀県の100年企業データ
① 創業年は『明治後期』が最多
創業年の時代別では、最多が『明治後期』の構成比36.4%であった。次いで『明治前期』の26.4%、『大正以降』の22.4%、『江戸時代』の14.6%の順である。
滋賀県は古くから、水陸の交通の要所とされており、湖周辺の町や街道沿いの宿場町では酒屋など多くの商店が発展した。その後独自の風土が生まれ、全国各地を歩いて行商する近江商人が誕生したのである。近江商人による商業活動は、近代商社の原型といわれ、その後の日本経済の発展に大きな影響を与えたとされている。
② 創業年TOP5
滋賀県の創業年TOP5は下記の5社である。
第1位の有川製薬株式会社は、全国で335位となっている。
③ 市町村別は『大津市』が最多
市町村別100年企業数では大津市が76社で最多であった。
1位の大津市では、『建築工事業』が4社と最も多く、次いで『造園工事業』が3社である。
2位の長浜市は、100年企業数72社であり、業種別に見ると『木造建築工事業』が4社と最も多く、次いで『建築工事業』や『陶磁器・ガラス器小売業』を含む4業種がそれぞれ3社である。
3位の彦根市は、100年企業数48社であり、業種別に見ると『宗教用具小売業』が4社と最も多く、次いで『木造建築工事業』、『酒小売業』の2業種がそれぞれ3社である。
④ 産業は第2次産業が盛ん
産業別では、『卸売・小売業、飲食店』が244社(構成比45.2%)と最も多かった。次いで、『製造業』128社(同23.7%)、『建設業』108社(同20.0%)の順である。
滋賀県は古くから交通の要衝であり、現在も東海道・山陽新幹線や高速道路などの重要な交通ルートを持つアクセスのよいエリアである。そのため多くの工業製品生産工場の集積が進み、全国有数の内陸工業県となったのである。内閣府の「平成27年度県民経済計算」によると、県内総生産に占める第2次産業の比率は全国1位となっている。
⑤ 業種は『木造建築工事業』が最多
業種別では、『木造建築工事業』が31社で最多であった。古くから交通の要所であった滋賀県は、明治時代になると、東海道を交差する大砂川、草津川のトンネル工事や街道整備、鉄道敷設のためのトンネル開削など交通基盤が整備されていった。その後電気やガス・水道、電話など生活基盤の設備がつくられ、近代化が進んだのである。その他上位にも工事業が多い。
2位は『清酒製造』が22社であった。山々に囲まれ、琵琶湖を有する滋賀県は、水と原料米に恵まれた酒造りに最適な環境であった。そして、古くから水陸の交通の要所であったことから、湖岸の町や東海道、中山道沿いの宿場町には、多くの造り酒屋が栄えたのである。
⑥ 資本金は『1千万円以上~5千万円未満』が最多
資本金別では、『1千万円以上~5千万円未満』が構成比54.2%と最も多かった。次いで、『1千万円未満』が19.2%、『5千万円以上~1億円未満』が4.8%の順である。
資本金トップは国立大学法人滋賀大学(業種:大学)が202億円。以下、株式会社メタルアート(業種:自動車部分品・附属品製造業)が21億円、株式会社日立建機ティエラ(業種:建設機械・鉱山機械製造業)が14億円の順であった。
上位12社のうち製造業が6社である。
⑦ 従業員数は『10人未満』が6割超え
従業員別では、『4人以下』が構成比44.7%と最も多かった。次いで、『5~9人』が24.4%、『10~49人』が20.3%の順である。10人未満で6割を超える。
滋賀県の100年企業の多くは小規模企業であるが、近江鉄道株式会社と株式会社日立建機ティエラは従業員500人を超える。
⑧ 売上高は『1億円未満』が最多
売上高別では、『1億円未満』が構成比53.2%と最も多かった。次いで、『1億円以上~10億円未満』が34.4%、『10億円以上~100億円未満』が10.5%の順である。
売上高上位10社のうち製造業が5社である。
⑨ 本業以外に貸事務所業を行っている企業は9社
滋賀県で本業もしくは副業にて不動産業を行っている企業は22社であり、構成比では全国34位となっている。
そのうち、本業以外に貸事務所業を行っている企業は9社存在しており、上場企業は0社であった。
貸事務所業との組み合わせは、卸売・小売業が5社と最も多い。
データについて
・本レポートにおいて、創業100年以上経過した企業を『100年企業』と定義する。
・本レポートでは、信用調査機関の企業データから、創業年が1919年(大正8年)以前の企業を抽出した。
※創業年について
創業年が「○○年間」等のように元号もしくは時代のみ判明している場合は、その元号もしくは時代の最終年を創業年としている。ただし、江戸時代は前・中・後期に分けている。
※対象企業について
営利企業を中心としているが、非営利団体(学校、病院など)も含む。ただし、宗教法人は除いている。
※クラスター分類について
・本レポートの全国編にて、47 都道府県を7 クラスターに分類している。各クラスターについての詳細は全国編参照。
※本レポート記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本レポートは情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものでもありません。
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著者
株式会社ボルテックス 100年企業戦略研究所
1社でも多くの100年企業を創出するために。
ボルテックスのシンクタンク『100年企業戦略研究所』は、長寿企業の事業継続性に関する調査・分析をはじめ、「東京」の強みやその将来性について独自の研究を続けています。