100年企業レポート vol.35 福島編
目次
はじめに
日本は創業100年を超える長寿企業(本レポートでは『100年企業』と呼ぶ)が世界で最も多い国である。その理由や影響を与える要素が何であるかを探ることを、本研究のテーマにした。そして各都道府県の100年企業の特性や傾向を明らかにし、100年企業を創出しやすい環境や要因について分析を行うことが本研究の目的である。
福島県の100年企業に関する分析
大きく会津地方、中通り地方、浜通り地方の3つの地域に分けられ、それぞれ異なった自然や気候風土をもつ福島県。会津地方の福島県を代表する山「磐梯山」。その麓には「猪苗代湖」、沼により色の異なる「五色沼」など湖沼があり観光地として有名である。とくに「五色沼」は2016年にミシュラン・グリーンガイドの一つ星に認定されたこともあり、日本のみならず世界からの注目も高いといえる。
福島県の100年企業数は、708社であり、全国17位である。
福島県は世界的に有名な医学者である野口英世の生まれた街でもあり、野口英世記念館をはじめ日本の歴史の流れを残す建物が多く残されている。会津若松市のシンボルであり、大河ドラマでも話題となった「鶴ヶ城」は、福島の厳しい冬に耐えられる赤い瓦が特徴で、日本で唯一赤瓦の天守閣である。また例年1月中旬から3月にかけて雪が積もることで、日本でも珍しい雪景色の城を見ることができることでも有名である。
本レポートでは、100年企業数に相関の高い指標別にレーダーチャートを用いて、福島県の特性を分析した。
産業の発展により「100年企業輩出率」が高く
日本を代表する発電県として発展が期待
古くから東北の玄関口として交通網が整備され、産業が発展した福島県は『100年企業輩出率』が高い。働き世代(生産年齢人口数)や働き先(事業所数)は平均をやや下回るが、東北地方では宮城県に次いで2位である。関東と東北を結ぶ幹線道路沿線の地域に、数多くの企業が支社や工場などを構えているためである。
また、福島県は日本を代表する発電県である。東日本大震災以降は、その技術を活かして再生可能エネルギーの開発や関連産業の集積・育成も図っており、今後も発電県として電力やエネルギー関連産業の発展が期待されている。
2.福島県の100年企業データ
① 創業年は『明治後期』が最多
創業年の時代別では、最多が『明治後期』の構成比41.2%であった。次いで『大正以降』の25.7%、『明治前期』の18.9%、『江戸時代』の13.9%の順である。
江戸時代から大正以降までのどの時代にも『旅館・ホテル』が上位に入っている。約千三百年前から続く会津の東山温泉などの歴史ある温泉も多いことや、今では「伝統的建築物群保存地区」に選定された下野街道の宿場町として栄えた大内宿などの情緒ある観光地が多いためである。
② 創業年TOP5
福島県の創業年TOP5は下記の5社である。
第1位の合資会社味戸商店は、全国で64位となっている。
③ 市町村別は『福島市』が最多
市町村別100年企業数では福島市が98社で最多であった。
1位の福島市では、『旅館・ホテル』が11社と最も多く、次いで『ガソリンスタンド』が3社である。
2位のいわき市は、100年企業数92社であり、業種別に見ると『貸事務所業』が7社と最も多く、次いで『一般土木建築工事業』、『木造建築工事業』の2業種がそれぞれ3社である。
3位の会津若松市は、100年企業数78社であり、業種別に見ると『清酒製造業』が6社と最も多く、次いで『その他のじゅう器卸売業』が4社、『ガソリンスタンド』、『貸事務所業』の2業種がそれぞれ3社の順である。
④ 産業は第2次産業が多い
産業別では、『卸売・小売業、飲食店』が355社(構成比50.1%)と最も多かった。次いで、『製造業』125社(同17.7%)、『建設業』91社(同12.9%)の順である。
『建設業』91社は全国14位であり、東北地方ではトップである。100年企業だけでなく福島県の全企業の産業割合を見ると、第2次産業の比率が高い。関東地方に近いことから、電気・通信機械や電子部品の工場が多く建ち並んでおり、東北地方では随一の工業生産額を生み出している。
なお、『不動産業』40社も全国12位で、東北地方トップである。
⑤ 業種は『旅館・ホテル』が最多
業種別では、『旅館・ホテル』が36社で最多であった。福島県は全国第4位の温泉地数を誇る温泉王国であり、古くからの温泉地もあるため旅館やホテルが多い。
2位は『清酒製造』が34社であり、全国でも4位である。福島県のお酒の歴史は、江戸時代に会津藩の保科正之が酒造りを指示したことがきっかけで、その後酒造が大きく増えていったといわれている。
3位は『貸事務所業』が24社であり、もともと本業ではなかったが、時代の変化に対応していき業態変化をしたと思われる。
⑥ 資本金は『1千万円以上~5千万円未満』が最多
資本金別では、『1千万円以上~5千万円未満』が構成比44.6%と最も多かった。次いで、『1千万円未満』が33.1%、『5千万円以上~1億円未満』が3.6%の順である。
資本金トップは独立行政法人家畜改良センター(業種:農学研究所)が481億円。以下、福島信用金庫(業種:信用金庫・同連合会)が18億円、須賀川信用金庫(業種:信用金庫・同連合会)が7.3億円の順であった。
上位10社のうち卸売・小売業が3社、製造業と金融業がそれぞれ2社である。
⑦ 従業員数は『4人以下』が最多
従業員別では、『4人以下』が構成比46.5%と最も多かった。次いで、『10~49人』が23.9%、『5~9人』が19.3%の順である。10人未満で約6割を超える。
福島県の100年企業の多くは小規模企業であるが、一般財団法人太田綜合病院は従業員1,000人を超える。ちなみに従業員数上位3社はすべて一般病院である。
⑧ 売上高は『1億円未満』が5割超え
売上高別では、『1億円未満』が構成比53.4%と最も多かった。次いで、『1億円以上~10億円未満』が33.9%、『10億円以上~100億円未満』が10.2%の順である。
売上高上位10社のうち卸売・小売業が5社である。
⑨ 本業以外に貸事務所業を行っている企業は12社
福島県で本業もしくは副業にて不動産業を行っている企業は50社であり、構成比では全国8位となっている。
そのうち、本業以外に貸事務所業を行っている企業は12社存在しており、上場企業は0社であった。
貸事務所業との組み合わせは、卸売・小売業が9社と大半を占めている。
データについて
・本レポートにおいて、創業100年以上経過した企業を『100年企業』と定義する。
・本レポートでは、信用調査機関の企業データから、創業年が1919年(大正8年)以前の企業を抽出した。
※創業年について
創業年が「○○年間」等のように元号もしくは時代のみ判明している場合は、その元号もしくは時代の最終年を創業年としている。ただし、江戸時代は前・中・後期に分けている。
※対象企業について
営利企業を中心としているが、非営利団体(学校、病院など)も含む。ただし、宗教法人は除いている。
※クラスター分類について
・本レポートの全国編にて、47 都道府県を7 クラスターに分類している。各クラスターについての詳細は全国編参照。
※本レポート記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本レポートは情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものでもありません。
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著者
株式会社ボルテックス 100年企業戦略研究所
1社でも多くの100年企業を創出するために。
ボルテックスのシンクタンク『100年企業戦略研究所』は、長寿企業の事業継続性に関する調査・分析をはじめ、「東京」の強みやその将来性について独自の研究を続けています。