100年企業レポート vol.44 広島編
目次
はじめに
日本は創業100年を超える長寿企業(本レポートでは『100年企業』と呼ぶ)が世界で最も多い国である。その理由や影響を与える要素が何であるかを探ることを、本研究のテーマにした。そして各都道府県の100年企業の特性や傾向を明らかにし、100年企業を創出しやすい環境や要因について分析を行うことが本研究の目的である。
広島県の100年企業に関する分析
世界中の人に平和と人権の尊さを訴えるヒロシマの象徴、世界遺産の『原爆ドーム』『広島平和記念資料館』。『原爆ドーム』は、爆心地に近く被爆し大破しながらも全壊を免れた吹き抜けのレンガ造りの建物「広島県産業奨励館」が当時の悲惨さを伝える。被爆により後遺症で亡くなった、椿山ヒロ子さんの日記がきっかけとなり、破壊された建物を破壊されたときの状態で保存することが重要な意味を持つとされ、被爆体験を伝える貴重な建物として今も被爆当時そのままの姿を残し保存されている。広島記念公園内にある「平和の灯」は、1964年に核兵器廃絶と恒久の平和を願って点火され、世界から核兵器がなくなる日まで燃え続ける。
広島県の100年企業数は、860社であり、全国12位である。
品質がよく世界トップレベルの技術を誇る『熊野筆』。肌を優しくなでる化粧筆はハリウッドでも使われ、世界中で支持されている。『熊野筆』の産地熊野町は、江戸時代末期から筆づくりが盛んで「筆の都」といわれている。農業では生計が立たなかった熊野では多くの民が出稼ぎに行き、その際奈良地方から筆や墨を仕入れて売ったこと、そして村の若者が各地の筆職人から筆づくりを学び熊野の人々に熱心に教えたことが筆づくりのきっかけとなった。毛筆の技法を生かし本格的に生産され始めた画筆および化粧筆は,毛筆とともに熊野町の産業を大きく支え続けている。その『熊野筆』は、昭和50年(1975年)に毛筆業界として全国初、通商産業大臣(現在の経済産業大臣)により『伝統的工芸品』の指定を受けている。
本レポートでは、100年企業数に相関の高い指標別にレーダーチャートを用いて、広島県の特性を分析した。
経済成長の高い地域だが、
人口減少や少子高齢化により後継者問題が深刻化
広島県の県庁所在地である広島市は中国四国地方最大の都市である。市街にはオフィスビルが集積し、自動車産業や造船、鉄鋼業を中心に経済が発展してきた。また広島県には2つの世界遺産があり、観光業も盛んである。様々な産業が盛んなため、『有効求人倍率』が全国3位であり、経済の成長を実感する。しかし人口減少や少子高齢化は進行しており、企業の後継者問題が深刻となっている。広島県内企業の後継者不在率は全国5番目の高さであり、これまで培ってきた技術やノウハウを次の世代に伝承するため、事業承継対策がとりわけ重要なエリアであるといえる。
2.広島県の100年企業データ
①創業年は『明治後期』が最多
創業年の時代別では、最多が『明治後期』の構成比43.6%であった。次いで『大正以降』の28.8%、『明治前期』の19.7%、『江戸時代』の7.8%の順である。
江戸時代、広島城の城下町や街道沿いには多くの店が並び、商業の中心地として発展していた。そのため呉服など日用品の小売業が多い。明治時代になると、広島県の日本酒は独自の醸造法により全国に広まった。町に鉄道が開通すると、その線路沿いにある商家が酒造りを始めたとされている。
②創業年TOP5
広島県の創業年TOP5は下記の5社である。
第1位の尾道造酢株式会社は、全国で82位となっている。
③市町村別は『広島市』が最多
市町村別100年企業数では広島市が268社で最多であった。
1位の広島市では、『その他の食料・飲料卸売業』、『その他の産業機械器具卸売業』、『貸事務所業』の3業種がそれぞれ6社と最も多い。
2位の福山市は、100年企業数125社であり、業種別に見ると『畳製造業』、『金物卸売業』の2業種がそれぞれ4社と最も多く、次いで『蒸留酒・混成酒製造業』、『呉服・服地小売業』、『花・植木小売業』の3業種がそれぞれ3社である。
3位の尾道市は、100年企業数62社であり、業種別に見ると『その他の水産食料品製造業』、『酒類卸売業』の2業種がそれぞれ3社と最も多い。
④産業は『製造業』が全国8位
産業別では、『卸売・小売業、飲食店』が424社(構成比49.3%)と最も多かった。次いで、『製造業』247社(同28.7%)、『建設業』52社(同6.0%)の順である。
広島県の製造業は、明治時代の綿糸紡績業や養蚕・製糸業などの繊維産業を中心とした軽工業から大正時代以降の機械工業や造船・鉄鋼などの重化学工業へ発達していった。現在はエレクトロニクスなど先端産業の集積が進んでいる。
⑤業種は『清酒製造』が最多
業種別では、『清酒製造』が29社で最多であった。2位に『酒小売』、6位に『酒類卸』と広島県は酒関連の業種が多い。その歴史は、明治時代に酒造家三浦仙三郎により、伝統的な技法を改良した独創的な"軟水醸造法"が編み出された。その醸造法が全国に広まり、東広島市の西条地区は「日本三大銘醸地」となったのである。
その他上位には『婦人・子供服小売』や『呉服・服地小売』といった服関連の小売が多い。備後(現在の福山市)では江戸時代から綿の栽培や製織、染色が盛んであったためである。日本三大絣がすりの一つである「備後絣」が生まれ、その技術は現在は洋服やデニムにも活かされている。
⑥資本金は『1千万円以上~5千万円未満』が最多
資本金別では、『1千万円以上~5千万円未満』が構成比59.7%と最も多かった。次いで、『1千万円未満』が19.8%、『5千万円以上~1億円未満』が4.6%の順である。
資本金トップは株式会社広島銀行(業種:普通銀行)が545億円。以下、株式会社北川鉄工所(業種:銑鉄鋳物製造業)が86億円、戸田工業株式会社(業種:一次電池製造業)が74億円の順であった。
上位10社のうち製造業が5社である。
⑦従業員数は『10人未満』が5割超え
従業員別では、『4人以下』が構成比33.9%と最も多かった。次いで、『10~49人』が31.8%、『5~9人』が23.2%の順である。10人未満で5割を超える。
広島県の100年企業の多くは小規模企業であるが、株式会社広島銀行、広島電鉄株式会社、株式会社北川鉄工所の3社は従業員1,000人を超える。
⑧売上高は『1億円未満』が最多
売上高別では、『1億円未満』が構成比44.4%と最も多かった。次いで、『1億円以上~10億円未満』が39.9%、『10億円以上~100億円未満』が11.9%の順である。
売上高上位10社のうち製造業が5社、卸売・小売業が4社である。
⑨本業以外に貸事務所業を行っている企業は13社
広島県で本業もしくは副業にて不動産業を行っている企業は72社であり、構成比では全国6位となっている。
そのうち、本業以外に貸事務所業を行っている企業は13社存在しており、上場企業は0社であった。
貸事務所業との組み合わせは、卸売・小売業が9社と大半を占めている。
データについて
・本レポートにおいて、創業100年以上経過した企業を『100年企業』と定義する。
・本レポートでは、信用調査機関の企業データから、創業年が1919年(大正8年)以前の企業を抽出した。
※創業年について
創業年が「○○年間」等のように元号もしくは時代のみ判明している場合は、その元号もしくは時代の最終年を創業年としている。ただし、江戸時代は前・中・後期に分けている。
※対象企業について
営利企業を中心としているが、非営利団体(学校、病院など)も含む。ただし、宗教法人は除いている。
※クラスター分類について
・本レポートの全国編にて、47 都道府県を7 クラスターに分類している。各クラスターについての詳細は全国編参照。
※本レポート記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本レポートは情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものでもありません。
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著者
株式会社ボルテックス 100年企業戦略研究所
1社でも多くの100年企業を創出するために。
ボルテックスのシンクタンク『100年企業戦略研究所』は、長寿企業の事業継続性に関する調査・分析をはじめ、「東京」の強みやその将来性について独自の研究を続けています。