増える人手不足倒産…中小企業の雇用環境改善を支援する助成金~中小企業経営者のための補助金・助成金ガイド[第4回]
目次
中小企業の人手不足は依然として続いています。新卒はもちろん、中途採用でも中小企業は大企業に比べて、給与や福利厚生の面で不利であることは否めません。そこで今回は、中小企業が活用できる雇用に関する助成金について取り上げていきます。各種の助成金を利用してできるところから改善してみてはいかがでしょうか。
厳しさを増す中小企業の雇用環境
中小企業の人手不足の原因を具体的にみると、新卒者の採用が極めて難しくなっていることが分かります。データをみても、従業者数299人以下の企業では、大卒予定者の求人数が2015年卒から5年連続で増加している一方、就職希望者は2017年卒から減少傾向です。求人倍率は2019年では9.9倍と、2018年卒の6.4倍から大きく増加しています。
これに対し、従業者300人以上の企業では、2019年卒の求人倍率は0.9倍となり1倍を下回っています。
[図表1]従業者数299人以下の企業の大卒予定者求人数・就職希望者数の推移
中途採用についても同じです。従業者数1~299人の企業を中小企業、300人以上の企業を大企業として、前職の従業者規模別に見た、現職の企業規模別転職者数の推移では、前職が中小企業だった場合、中小企業への転職者数はほぼ横ばいで推移している一方、大企業への転職者数は増加傾向にあります。
逆に、前職が大企業だった場合、中小企業への転職者数はほぼ横ばいの一方、大企業への転職者数は増加傾向にあります。
つまり、中小企業は転職先として選ばれにくく、むしろ人員が流出しているということです。
[図表2]前職の従業者規模別に見た、現職の企業規模別転職者数の推移
雇用環境を改善するためには
こうした状況を打開するには、どうしたらいいのでしょうか。厚生労働省では、さまざまな助成金を提供しており、雇用の安定、職場環境の改善、仕事と家庭の両立支援、従業員の能力向上など、中小企業が抱える雇用や人材の課題に役立つものが多数あります。中小企業が取り組むべき課題と助成金について、いくつか紹介していきます。
① 正社員化、処遇改善に取り組む~キャリアアップ助成金
足りないポストの人材を採用または育成したいと思っても、応募がない、採用資金がない、社内に育成できる人がいないなどの悩みを抱えた企業も多いのではないでしょうか?
そんな時には、現在の従業員、特にパートなどの非正規雇用従業員の正社員化や処遇改善を進めることを考えてみてはいかがでしょうか?
従業員の処遇改善により意欲や能力をアップし、優秀な人材を確保するための助成金として「キャリアアップ助成金」があります。これは、非正規雇用従業員を正社員化するなどの取組をした事業主は助成を受けられるという制度です。
尚、この助成を受けるためには、①雇用保険適用事業所の事業主である、②雇用保険適用事業所ごとにキャリアアップ管理者を置いている、③対象労働者に対するキャリアアップ計画を作成し、管轄労働局長の受給資格の認定を受けた事業主であることなどが条件です。
「キャリアアップ助成金」にはいくつかコースがありますので紹介します。
「正社員化コース」
有期契約労働者等を正規雇用労働者等に転換または直接雇用した場合は、下記金額の助成を受けることができます。
また、「賃金規定等改定コース」は、すべてまたは一部の有期契約労働者等の基本給の賃金規定等を増額改定し、昇給した場合に助成が受けられるものです。
「賃金規定等改定コース」
賃金規定等を2%以上増額改定した場合は、下記金額の助成を受けることができます。
② 中高年を採用する~特定求職者雇用開発助成金
いまや60代、70代でも働く意欲と能力のある中高年が大幅に増えています。中小企業の人手不足対策としては、中高年の採用という方法も有効です。
その場合「特定求職者雇用開発助成金(生涯現役コース)」という助成金があります。これは雇入れ日の満年齢が65歳以上の離職者を、ハローワーク等の紹介により、1年以上継続して雇用することが確実な労働者(雇用保険の高年齢被保険者)として雇い入れる事業主に対して助成されるものです。
対象となる労働者の類型と企業規模に応じて、1人あたり下記金額の助成を受けることができます。
③ 一時的な事業縮小~雇用調整助成金
中小企業の中には、景気の変動や産業構造の変化、その他の経済上の理由により事業活動の縮小を余儀なくされることもあるでしょう。
そうした場合、従業員の雇用を維持するために、企業が一時的な雇用調整(休業、教育訓練または出向)を実施することで、「雇用調整助成金」を受給することができます。
「雇用調整助成金」を受給するためには、次の要件を満たすことが必要です。
(1)雇用保険の適用事業主であること
(2)売上高又は生産量などの指標の直近3ヵ月間の月平均値が、前年同期に比べて10%以上減少していること
(3)雇用量を示す指標の直近3ヵ月間の月平均値が、前年同期に比べて、中小企業の場合は10%を超えてかつ4人以上、中小企業以外の場合は5%を超えてかつ6人以上増加していないこと
(4)実施する雇用調整が一定の基準を満たすものであること
a.休業の場合
※事業所の従業員全員について一斉に1時間以上実施されるものでも可
b.教育訓練の場合
教育訓練の内容が、職業に関する知識・技能・技術の習得や向上を目的とするものであり、受講日に業務に就かないこと
※受講者本人のレポートが必要
c.出向の場合
3ヵ月以上1年以内に出向元事業所に復帰すること
(5)過去に雇用調整助成金の支給を受けたことがある場合、直前の対象期間の満了の日の翌日から起算して1年を超えていること
上記の要件を満たした事業主が、定められた手続きに従い、休業や教育訓練を実施した場合は、負担額に下記の表の助成率を掛けた額を助成金として受給できます。
尚、教育訓練を行った場合は加算があります。(ただし受給額の計算については、いくつかの基準があります)
休業・教育訓練の場合は、初日から1年の間に最大100日分、3年の間に最大150日分受給でき、出向の場合は、最長1年の出向期間中受給できます。
中小企業にとって事業を支える人材は最も重要な財産です。今後人材の確保と育成に力を入れる必要性はますます高まっていくと思われます。こうした助成金を上手に使い、人手不足を改善していきましょう。
著者
株式会社ボルテックス 100年企業戦略研究所
1社でも多くの100年企業を創出するために。
ボルテックスのシンクタンク『100年企業戦略研究所』は、長寿企業の事業継続性に関する調査・分析をはじめ、「東京」の強みやその将来性について独自の研究を続けています。