後継者育成を見据えた幹部候補を発掘するためには?~中小企業経営者のための幹部候補の育て方[第1回]
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近年、後継者不在により、廃業する企業が増えています。このような事態を防ぐためにも、早い段階で会社の次世代を担う人材を育てることは中小企業経営者の責務だといえるでしょう。
本連載では、中小企業の幹部候補をどのように育成していくのか、基本的な考え方やノウハウなどを紹介していきます。今回は中小企業の幹部候補に求められる資質、そして幹部候補の見つけ方について解説します。
そもそも、なぜ「幹部候補」が必要なのか?
幹部候補とは、将来的に企業経営者や経営幹部などの重要なポジションに就くことを想定し、大きな成果を求められている人材です。企業によって規模や方針は異なるため、どの程度の人材が幹部候補に含まれるのかはケースバイケース。まずは自社の方針を明確することが肝心です。
そもそも幹部候補が必要なのは、経営者視点で考えられる人材が必要だからにほかなりません。企業経営は、経営者ひとりでは成り立たず、また経営者も判断に迷うときもあります。そのようなとき、経営者視点で意見を伝えられる幹部がいれば、企業の成長は確実なものになります。
また幹部候補は、次期経営者の筆頭でもあることから、企業を継続させるためにも不可欠な存在です。中小企業庁によると、2019年の休廃業・解散件数は、43,348件(図表1)。中小企業白書では、休廃業・解散の理由のひとつとして、後継者不足をあげています。また民間企業の調査では、中小企業の2/3が後継者不在を経営課題にあげています。
[図表1]中小企業の休廃業・解散件数の推移
このような状況のなか、同白書では、事業を承継した社長と先代経営者との関係性に注目した際、「同族承継」は年々減少傾向にあるのに対し、「内部昇格」による事業承継は増加傾向にあるとしています(図表2)。次世代の経営を担う幹部候補の育成は、事業承継を見据えた中小企業経営において、スタンダードになっているといえるのです。
[図表2]中小企業の事事業承継「同族承継」と「内部昇格」の推移
幹部候補に求められる資質とは?
次世代の幹部候補に求める要素は、企業によってさまざまで一概に「このような人がふさわしい」とはいえないでしょう。ただし、組織の上に立つ人として必要な資質は、共通しているといえます。
まず幹部候補は「柔軟性」と「スピード感覚」を持ち合わせていなければなりません。IT化の進展で、経営環境は目まぐるしく変化しています。そのような時代に、企業の上層部が固定観点に縛られていては、今後、経営が立ち行かなくなることは目に見えています。業歴の長い老舗企業には、変化する時代に対応していく柔軟さがあります。常に時代のニーズを捉え、そのなかで確固たる価値を提供し続けてきたからこそ、企業が存続しているといえます。将来的に経営層に加わる幹部候補には、時代を読み、取り入れていく「柔軟性」と、変化に対応する「スピード感覚」が必要です。
そして「忍耐力」も必須な資質です。企業の経営とは苦難の連続。日々、競合他社や他業種との競争にさらされ、順風満帆とはいきません。また社内では経営方針の違いで対立したりと、経営者は多くの課題にさらされます。それでも自分の思いを貫く必要が生じるときもあります。そのため、次世代の経営者候補である幹部候補は、さまざまな逆境に耐えうる「忍耐力」を兼ね備えていることが望ましいでしょう。
さらに必要となるのが、高い「コミュニケーション力」です。企業経営はひとりで推進できるものではありません。社外でも社内でも、多くの人が関わり、進められるものです。特に社内では、従業員と経営理念の共有を図り、自らが船頭となって進んでいかなければなりません。このように将来的に経営にも携わる幹部候補には、社内外で均衡を図れる高い「コミュニケーション力」が必須といえます。
幹部候補を見つける方法は?
幹部候補を見つける方法は大きく、社内で見つけるか、社外で見つけるかの2通りです。
社内で見つける方法として注目されているのが「社内公募制度」です。企業に必要なポストの条件を従業員に提示し、希望者を社内から公募するという方法で、従業員のモチベーション向上につながったり、従業員の既存の知識や経験を生かせたりするメリットがあります。従業員に対し、キャリアアップの術を明確にすることになるので、より高い意識で業務に取り組んでもらえる可能性があります。
一方、社外で人材を見つける方法としては、求人メディアや人材紹介会社、ヘッドハンターなどの採用チャンネルを活用する中途採用のほか、「リファーラル採用」という方法もあります。これは従業員の紹介によって人材を探す方法で、自社の事情をよく知る従業員からの推薦であることから、会社の方針から大きく外れることのない人材に出会える可能性が高くなります。
中小企業の成長と、事業の継続のために必要となる、次世代の幹部候補。さらに次期経営者の候補でもあるので、経営者に近い資質を持ち合わせていることが条件となります。幹部候補の育成は、時間がかかることも考慮すべきです。まずは社内で、候補となる人材をどのように見つけ出すか、話しあうことから始めましょう。
著者
株式会社ボルテックス 100年企業戦略研究所
1社でも多くの100年企業を創出するために。
ボルテックスのシンクタンク『100年企業戦略研究所』は、長寿企業の事業継続性に関する調査・分析をはじめ、「東京」の強みやその将来性について独自の研究を続けています。