苦境にあえぐ中小企業…他社連携がピンチを救う
~自前主義からの脱却による課題解決への道[第1回]
目次
中小企業の生産性を向上させる方法として注目されているオープンイノベーション。産学連携、事業提携などを内包するもので、自社だけでなく、他社や大学、自治体などと技術やアイデアなどを組み合わせて、製品やサービス開発、組織・行政改革などにつなげる取組みです。
本連載では中小企業が抱える諸問題を解決するために、自前主義から脱却し、他社とどのように連携していくべきか、その方法を考えていきます。今回は、オープンイノベーション(他社連携等)の基本についてみていきます。
コロナ禍で危機に直面する、中小企業の現状
緊急事態宣言も功を奏さず、長期化したまま2020年をすっぽりと覆いつくしてしまった、新型コロナウイルスの大流行。その収束時期に関する見通しは、現在も立たないままです。
独立行政法人中小企業基盤整備機構が令和2年7月29日~31日の間に、全国の中小企業・小規模事業者(個人事業主含む)約2,000社を対象に行ったWEBアンケートによると、「前年同月比でマイナス影響が発生、もしくは発生見込みである」とした回答の合計割合は、全体の約8割に及びました。特にサービス業(飲食や宿泊業)における大幅なマイナス影響発生割合は依然として高く、極めて厳しい状況が続いています。
[図表1]
この政策には「生産性向上」や「最低賃金の引き上げ」という有意義な目標がありますが「推進の過程でコロナ禍に苦しむ中小企業を、さらに追い込むのではないか?」という懸念の声が、数多くあがっています。先の見通しが不安定な世情に流され、抜本的な対策案を打ち出せない多くの中小企業が、廃業を余儀なくされる可能性が高いのです。
「自前主義からの脱却」が中小企業のピンチを救う
近年、中小企業庁が年に1度発行する『中小企業白書』で、中小企業の諸問題を解決する手法として「オープンイノベーション」というワードがよく見られます。まずはその基本をおさらいしましょう。
まずオープンイノベーションの対極にあるのが、「クローズドイノベーション」です。クローズドイノベーションとは社内で新商品や新事業を創出するにあたり、機密保護に努めながら研究開発を進める手法を指します。
これまでの日本企業は、内部で創出された知的財産のオリジナリティを重視し、業界内で一線を画す存在となることを目指してきました。そのため多くの中小企業経営者は「機密保護に努めながら研究開発を進めること(=クローズドイノベーション)を重視してきました。
しかし近年はIT技術の急速な進化により、商品やサービスの高度/複雑化に拍車がかかっています。これまでは消費者に受け入れられてきた商品やサービスが時代遅れとみなされ、相手にされなくなってしまう危険があるのです。中小企業がこうした事態に直面した際、自社内のノウハウだけで時代の流れに追いつくことは、困難です。
そこで着目したいのが、オープンイノベーションです。オープンイノベーションとは社外へ目を向け、人材、技術、そしてノウハウを求めていく手法です。わかりやすくいえば、自前にこだわらず、社外のアイデアや技術、才能と共同で、新商品開発を進めていくのです。大学などの教育機関との産学連携、他社との事業提携……それらすべてがオープンイノベーションであると考えれば、わかりやすいでしょう。オープンイノベーションは「お互いに専門性を発揮し、足りない部分を補い合うことで、消費者から求められる強力な商品を創造していく」という基本姿勢があります。
[図表2]他社連携(オープンイノベーション)の事例
上記は非常にわかりやすい例ですが、国内の大企業はすでにオープンイノベーション(他社連携等)の重要性を理解し「外部からの応募を募る」、「オープンラボを開催し、参加者と討論する」、「ベンチャー企業とのコラボのため、出資プログラムを創出する」などの試みを実践し始めています。中小企業もオープンイノベーション(他社連携等)の価値を理解し、ピンチ脱却へ積極的に役立てていかなくてはなりません。
オープンイノベーション実践に向けての課題とは
しかし中小企業の間には、オープンイノベーションが十分に浸透していないという現状があります。経営者は、以下の課題解決を意識する必要がありそうです。
課題1:社内理解の遅延
オープンイノベーションの実践には、社内の知的財産流出や自社開発力衰退への恐れがつきまといます。このため経営陣はもちろん、既存スタッフの間にも抵抗感が生まれやすくなっています。
課題2:人材不足
オープンイノベーションの取り組みを始めるために、推進役の存在が欠かせません。社内外を問わず外部環境や他社情報などを活用してオープンイノベーションを推進し、その必要性を浸透させることが重要ですが、そもそもこのような調整ができる能力をもつ人材が不足しているといわれています。そのため、オープンイノベーション導入へ踏み切れない企業も多いようです。
上記のような課題は、社外パートナーとの間に働き方や情報共有ルールをきちんと策定することで、解決への糸口が見つけやすくなっていきます。しかし中小企業が「オープンイノベーションに関しては、まったくの手探り」という場合、まず大企業などの公募へ積極的に応募し、共同開発のパートナーに選定されることを目指すのも有効な手段だといえるでしょう。
もし共同パートナーに選ばれれば、先駆企業のシステムに則りつつ、オープンイノベーションのノウハウを蓄積していくことができます。また先進的な取り組みの先には「生産性向上」や「最低賃金の引き上げ」といった目標の達成が見えてくるかもしれません。
著者
株式会社ボルテックス 100年企業戦略研究所
1社でも多くの100年企業を創出するために。
ボルテックスのシンクタンク『100年企業戦略研究所』は、長寿企業の事業継続性に関する調査・分析をはじめ、「東京」の強みやその将来性について独自の研究を続けています。