企業の持続的な成長の原動力を探る。 長寿企業がおもしろい6つの理由
目次
堀内 勉 ボルテックス100年企業戦略研究所 所長(右)と藤吉雅春 Forbes JAPAN 編集長(左)
企業の持続的な価値向上の秘訣を探り、100年企業を創出するためにボルテックが設置した「100年企業戦略研究所」。創業10年以上で売上高100億円未満ながらユニークなプロダクトやサービスを生み出す企業を「SMALL GIANTS(小さな大企業)」として称えるForbes JAPAN。2つのベン図が重なるのはどちらも企業の持続可能性だ。その魅力を実例とともに挙げていく。
日本にはおよそ3万におよぶ長寿企業(創業100年以上の企業)が存在し、創業200年を超える企業に至っては、世界全体の約56%を占めると言われている。いわば日本は長寿企業大国のような存在だ。
1999年に創業した「区分所有オフィス」のパイオニア・ボルテックスは、そうした長寿企業ならではの成功理由に目を向けて、シンポジウム「THE EXPO 百年の計」を展開。次代の100年企業を創り出すために、シンクタンク「100年企業戦略研究所」を2018年に立ち上げた。
Forbes JAPANもまた同年より、創業10年以上かつイノベイティブな小企業をピックアップして表彰する「SMALL GIANTS」プロジェクトを推進している。
それぞれの仕掛け人である100年企業戦略研究所 所長 堀内 勉とForbes JAPAN編集長 藤吉雅春が、未来に向けて変革を起こした長寿企業のストーリーについて対話した。
1.地場産業に無限の可能性が見えてきた
藤吉雅春(以下、藤吉):ボルテックスは「この国に1社でも多くの100年企業を創出したい」と掲げ、100年企業戦略研究所を設立なさいましたが、まずは100年企業がなぜ重要なのかというところから聞かせていただきたいと思います。
堀内 勉(以下、堀内):言ってみれば100年間ずっと求められ続けてきた企業なのですから、それだけでも凄みがあります。時代の変化や経営者の代替わりを乗り越え、持続的な価値の連続性を実現しているのですから。業種で目立っているのは醤油、酢、酒などの食品産業ですね。
藤吉:酒はとくに地域との結びつきが強いですね。企業としての成功が、地域の発展とシンクロしているように思えます。ただその地域でなくては成立しないという縛りもある。たとえば地域で限界を迎えた場合、スタートアップなら東京に移転しようという手もあると思うのですが、地場産業は無理です。
堀内:そのうえ、地方銀行も地場に投資先がないということで、地場産業に融資をする代わりに投資ファンドなどに出資しようということになります。これではお金は地域外に流出する一方なので、地域経済はシュリンクするばかりです。
ただ最近、その流れも変わってきました。上京しなくてもインターネットの環境さえあれば、地方からいきなり世界にアプローチできるようになりましたから。
藤吉:地域企業が地域にお金を回すことができるようになってきたということですね。ある意味原点回帰の印象ですが、それがいま起こっていることなのですね。
2.衰退産業が物語を変えて息を吹き返している
藤吉:その一方で、長寿企業も従来のエコシステムに頼っていると、破綻の危機を迎える例が少なくありません。そうして倒産しそうになったタイミングで、東京のメガバンクや商社に勤めていた大卒の息子を無理やり呼び戻すという例はよく聞きます。
何とかしなければと衰退産業にメスを入れ、IoTなどを活用して息を吹き返すという図式が、非常に多いと感じるのですが、これは長寿企業が新たなものを取り入れ、革新を繰り返しながら生き残ってきた証左ではないでしょうか。
私たちはいま、地方の小さくてもユニークな企業をピックアップする「SMALL GIANTS」プロジェクトを展開しています。その第1回受賞企業は、もともと西陣織の帯製造会社として設立されたミツフジという企業です。父の代の1990年代、ニオイを消す銀メッキ繊維の独占販売権を得たことで成功を収めたものの、2000年代には危機を迎えていました。
そこでシスコシステムズなどにも勤務していたITリテラシーに優れた息子が里帰りし、顧客データを見直したところ、繊維業界だけではなくソニー、パナソニックなどの電機メーカーの研究所も顧客だったことに気づきます。その理由を調べると、銀メッキ繊維の導電性が非常に高く、人体の帯電状況を察知するウェアラブルIoTデバイスで活用されていたのだそうです。
そこで彼は銀メッキ繊維を使って、事前に工事現場の作業員の熱中症を予見できるIoT機能を有したシャツをつくり、海外で大ヒットさせました。
このように下火のプロダクトを、新しいストーリーで読み直し、革新を起こすことが、長寿企業が持続してきた理由なのではないでしょうか。
堀内:そうですね。同じような例に「星野リゾート」がありますね。ただこの場合、副社長として迎えられた息子さん(星野社長)が改革を行おうとしたところ、周囲がまったく動いてくれず、一度あきらめて東京に戻っています。
そして今度こそ本当にピンチということで、再度要請がかかるのですが、彼は「社長という立場で、役員を刷新するなら戻る」と条件提示をしたうえで帰り、周囲の障害を取り払うことで改革を推進し、いまの成功を収めることができたのです。
藤吉:どんなに東京でビジネスセンスを鍛えていても、そのまま苦もなく地場企業を変革できるかというと、人間関係をはじめとしたさまざまな障害があるということですね。
3.親世代が退場することで起こるイノベーション
堀内:東京から帰った息子さんが、企業内部および地元と一体化した親戚一同から受けるプレッシャーは大きいですね。そうしたいわゆる“面倒くさい人々”とどう向き合うかが、長寿企業再生の最大の焦点になると思います。
そもそも企業を傾かせてしまったのであれば、当事者である親の世代は本来退場して、帰郷した優秀な息子に一切を任すことが理想なのですが、なかなかそうはいかない。古参の職人や地元と深いつながりのある親戚などもまた、道を阻んできます。
おもしろかったのは、私が通っていた老舗温泉旅館の例です。昔は団体客を中心にした大きな宿だったのですが、現社長である息子が改革をスムーズに行うために、一計を案じました。“いままでありがとう”の意を込めて、両親に長期の海外クルーズをプレゼントしたのです。そして不在の間に旅館を閉じて、部屋数の少ない超高級日本旅館につくり替えてしまった。さらに留学経験のある息子夫妻が、ハイエンドのインバウンド客を取り込み、大成功を収めたのです。
藤吉:クルーズから帰って、親御さんはさぞ驚いたでしょうね。やはりその例のように、最終的には血縁を含めた家族の問題につながる気がしますね。
堀内:家族以外にも、事業の中核をなしていた人々が抜けてしまうということもあります。銘酒「獺祭」で知られる旭酒造は、会社が斜陽となったことで嫌気が差した杜氏(とじ)が皆やめてしまった。日本酒にとって最重要とされる杜氏ですから、不在は致命的です。
しかし会社がピンチになって呼び戻されて酒蔵の再建を託された息子さん(桜井会長)は、杜氏の勘に頼ることなく、品質データをもとに化学的に味を均一に生産できる工場システムをつくり上げてしまったのです。日本酒業界の人間で、杜氏なしで酒造りをするなど考えられないことでした。
しかし、それによって大量・安定生産を可能にし、“世界で売る”日本酒を先駆けた実績は素晴らしいと思います。
4.追い詰められるほど、大胆な変革が起きる
藤吉:さまざまな企業の成功事例のなかでとくに興味を惹かれるのは、何かが足りないところから革新が生まれているところです。不利な状況を逆手に取る発想の転換力にはつねに驚かされます。
堀内:むしろ不利なほどいいとも言えます。右肩下がりの業績だけれど黒字は出ている、という何となく回るような状況では、現状維持でいいじゃないかとなってしまい、変革は起こしにくいですからね。それこそ失うものが何もない地点まで危機に瀕していたほうが、思い切りやすいのではないでしょうか。
藤吉:まさにその通りです。例えば、人材採用で大きな壁にぶつかった企業が、人材育成プログラムを充実させるという大胆な発想の転換を行うことで大きな成果を得た、というエピソードがありました。
堀内:既成の枠組みを外すことができれば、衰退産業にも可能性はあるのですよね。広く世界目線で物事を見直すことができれば、地場企業・長寿企業に隠されたチャンスがまだまだあるということです。
先ほど旭酒造の話をしましたが、日本酒の国内市場はシュリンクしています。しかしグローバルで見れば、日本酒市場は拡大しているのです。
藤吉:なるほど、広い視野をもち、戦いの土俵を変えられる人たちが必要だということですね。旅館の例もそうですが、大衆向けをハイエンド向けにするだけでも、市場は変わりますからね。
5.コラボで道を切り拓く伝統企業
堀内:そしてネットワークを水平的に広げられる人は、やはり強いですよ。コラボレーションが生み出す可能性は無限ですから。輪島に約20名の職人からなる漆芸のスペシャリスト集団「彦十蒔絵」がありますが、画期的なのは、蒔絵に「デビルマン」などアニメーションの意匠を取り込んでしまったことです。これは香港で大ヒットしました。
藤吉:その価値創造は、まさにアート思考ですね。大いなるインスピレーションを感じます。堀内さんの挙げた企業の例を知れば知るほど、計画性は感じませんね。それよりもひらめきに導かれて、オリジナルなチャレンジをパワフルに実践しているように感じられます。
堀内:作品もそうですが、つくり方もまた自由でよいのです。「彦十蒔絵」は従来の慣習を避け、上下関係のないチームになったからこそ、新しい試みができていると聞いています。世界的ポップアーティストの村上隆さんも、いまではやっていることは工場長です。プロジェクトとして巨大な芸術作品を仕上げている。
実はこれも視点を変えて、世界標準で見るからこそ気づくことです。日本の芸術作品はサイズが小さいものが多い。富裕層の広いリビングルームに置く場合、単純にディスプレイに耐えないというデメリットがあるのです。グローバルでは大きさそのものにも価値があるということを、彼はよく知っているのだと思います。
6.大きさを疑え〜「SMALL GIANTS」の強み
藤吉:Forbes JAPANでは、創業10年以上で売上高100億円未満ながら、革新的なプロダクトやサービスを生み出す企業を、日本が誇る小さな大企業「SMALL GIANTS」として称えるプロジェクトを行っています。長寿企業とまったく同義という訳ではありませんが、ニュアンスとしては非常に共鳴する部分を感じました。
堀内:会社は大きいほうがいいと、昭和の人は考えていました。それは元来利益率があまり変わらないものという前提に立っていたからです。売り上げが増えればその分、利益が増大しますから。しかし利益率自体が違えば話は異なります。基礎体力(営業力/製品の価値/開発力)がある会社を、売上高の大小で測るのは無理があると思います。
藤吉:物差し自体を変えることで、改革とともに新たな価値観を創出するのが100年企業であり、SMALL GIANTSということですね。
実際に地方を見てみても、グローバルに展開して利益率も高く革新的な事業を行っている企業が多いという事実があります。そうした企業にもっとスポットが当たれば、日本経済自体に大きな変革を起こせるのではないでしょうか。
お話を聞いた方
藤吉 雅春 氏
Forbes JAPAN 編集部 編集長。著書『福井モデル - 未来は地方から始まる』(文藝春秋)は2015年、新潮ドキュメント賞最終候補作になった。2016年には韓国語版が発売され、韓国オーマイニュースの書評委員が選ぶ「2016年の本」で1位に。2017年、韓国出版文化振興院が大学生に推薦する20冊に選ばれた。他に、『ビジネス大変身! ポスト資本主義11社の決断』(文藝春秋)など。
堀内 勉
東京大学法学部卒、ハーバード大学法律大学院修了、日本興業銀行、ゴールドマンサックスなどを経て、2015年まで森ビル取締役専務執行役員CFO。多摩大学社会的投資研究所教授・副所長。2020年7月、ボルテックス社内シンクタンク「100年企業戦略研究所」の所長に就任。著書に『読書大全 世界のビジネスリーダーが読んでいる経済・哲学・歴史・科学200冊』(日経BP)など多数。
ーPromoted by ボルテックス / Ryoichi Shimizu / photographs by Masahiro Miki / edit by Akio Takashiro
ーForbes JAPAN BrandVoice 2021年 11月 29日掲載記事より転載